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佐久間五十六厳選ヒューマンストーリー集  作者: 佐久間五十六


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ハンバーガーと牛乳

 これは田川が若い頃の話である。開店直後に来たお客様が何を頼まれるのか気にしながら接客する様に心がけたのはこのお客様のお陰かもしれない。

 「いらっしゃいませ。御注文おうかかがい致します。」

 これは我々マクドナルドスタッフのマニュアル通りの一言である。

 「牛乳とハンバーガー。」

 これは田川も困った。当時は牛乳がメニューには無かったし、ハンバーガーを発売する時間でも無かった。困った田川は苦し紛れに言った。

 「ハンバーガーなどレギュラーメニューの販売は、AM10:30~となっております。ミルクも現在ご提供しておりません。誠に申し訳ございません。」

 と答えると案の定そのお客様は怒りだした。開店直後の時間帯と言う事もあって、責任者は不在であった。何とかその場をしのぐ為、早朝クルーにはなだめるスキルが求められた。

 「俺はよ?この店に来るの初めてなんだよ。牛乳もハンバーガーも無いとは…。」

 と言う具合に我々マクドナルドスタッフは威嚇される事もしばしばある。スマイル無料でも、こう言うお客様には通じません。結局、そのお客様は一時間もクレームをつけてきたが、何とか責任者が駆け付け対応を代わってもらった。

 流石は百戦錬磨のリーダー格であった当時の店長はそのお客様に非礼をわび、珈琲とエッグマックマフィンを無料で振る舞った。お客様は笑顔で帰られ、今じゃ常連である。その日の勤務終了時に当時の店長から、着替えようとした所を突然呼び止められた。

 「田川?ちょっと良いか?」

 当然何を言われるかは想像出来た。

 「朝イチのお客様の事なんだが、あれは仕方無い。ああいうお客様がいらっしゃると言うのは、良い勉強になった筈だ。しかしなぁ、無い無いと言うのは、あまりにもマニュアル的過ぎるぞ?私があのお客様を黙らせる事が出来たのは、代替品を無料で提示したからだ。あ、マクドナルドってこう言う場所なんだ!と思っていただくのが大事だ。クレーム客に2、3時間も居座られるよりはマシだ。実際今朝の売り上げは平均より3割も落ち込んでる。そう言う大局的な判断もクルーには求められる事を忘れるな。」

 この言葉は20年近くたった今でも、心の中に残っている出来事であった。マクドナルドだけではなく、メニューに無いものを注文されると言うのは、多々ある事であり、その度に田川はこの店長の言葉を思い返しては、店の利益になるのか、不利益になるのかを考えると言うスキルの大切さを後輩クルーにも説いて来た。大局的な判断こそ魔法の言葉であり、それは朝から必要なスキルであった。

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