第1部青い恋水・第1章馴れ初め
「青龍、頼む捕ってくれ…。」
君井青龍の親友である奥野永作の願いも空しくセンターを守っていた青龍の頭上を打球は通り過ぎてバックスクリーンへと、飛び込んで行った。こうして、君井や奥野の夏は終わった。
「準々決勝敗退か。まぁ、2回戦敗退予想だったから、上出来じゃないかな?永作だってそう思うだろ?」
「どうせなら折角だし、決勝まで行って甲子園決めたかったな。」
「おいおい。俺達は県立あすなろ高校野球部だぞ?名門私立でもなければ、古豪公立でもない。もっと現実見た方が良いよ。」
それはこれからの自分に対するメッセージでもあった。高校生にとっては、現実とは進学か就職かどちらかを選択するものであり、それは大抵の場合部活を引退する事でやって来る。将来の夢や目標が正確に定まっている場合は、進路は比較的スムーズに決まる。
しかし、大抵の高校生は進路で悩みぶらぶらしてしまう。君井青龍も奥野永作も、そんな高校生であった。野球部の元主将だった青龍は、野球部を引退してからは、その穴埋めに勉強を始めた。特に進学の希望は無い。ただ分からない事が分かる様になるのは気持ちが良かった。成績は中の中とまさしく平凡な平均的なものだったが、勉強に本腰を入れ始めた夏からはうなぎ登りに成績は上がって行った。
野球しか知らない馬鹿だと思われるのが嫌で、必死に勉強を始めたと言うのもある。県予選のベスト8くらいじゃ、プロのドラフトの網に引っかかる事も無いし、大学のスポーツ推薦にも引っかかる事はないだろう。だから、自分の力で自分の道を切り開く為には、勉強をするかそれを諦めて就職活動をするしかない。
その中で青龍は勉強を選んだ。将来の夢や目標はまだ無く、志望校もまだ決まっていないが、とりあえず親を納得させる為には、結果を残すしか無かったのである。予備校等には通わずひたすら我流でガムシャラにやった。野球部時代からの青龍のモットーがガムシャラであった。何の雑念も無く、物事に取り組めるのは幸せな事であった。
俺が仙木水菜美と言う女性に出会ったのはそんな時だった。まだ暑さも残る晩夏の頃に、遅い?青春がやって来たのである。




