第八十九話 みんなの引っ越しの状況
お母さんが宮殿から戻ってきたのは、僕達が昼食を食べた後でした。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、お母さん。ステファニー姉様とリリアン姉様は?」
「暫くは宮殿で過ごすそうよ。簡単な仕事も任される様ね」
あらら、ステファニー姉様とリリアン姉様はお仕事で暫くは男爵邸に来れないのか。
こればっかりは、姉様に頑張ってお仕事をしてもらうしかないよね。
「結局、調査結果を待って今後の軍事方針を決める事になったわ。だから、クロノは予定通り薬師ギルドマスターとしてのお仕事と炊き出しを続ける事になるわ」
「分かりました。ちょうどこれからお隣に荷物を運ぶ事にしたんです」
「ええ、それでいいわ。お母さんも昼食を食べたら手伝うわ」
お母さんはまだ昼食を食べていないので、先に僕達が隣の屋敷に行って侍従に挨拶してきます。
「皆さん、僕はクロノと言います。これから、宜しくお願いします」
「「「クロノ殿下、宜しくお願い致します」」」
隣の屋敷の玄関ホールにお互いに並んでもらい、自己紹介を行ないます。
といっても侍従が多くて直ぐには名前を覚えられないので、これから生活していく中で覚えていきます。
早速皆で荷物の移動を始めます。
僕の書類は重要な物が多いので、マーサさんに運んで貰いました。
「ふう、ここが新しい執務室なんですね」
「はい。元男爵の執務室になります。机とかはそのままになっています」
「ちょっと豪華な机だよね」
「クロノ殿下は薬師ギルドマスターですから、全く問題ないないです」
元の執務室が、そのまま僕の執務室に早変わりです。
僕の補助をしてくれるエミリアさんの机も、この部屋の一角にあります。
今はあまり書類はないけど、そのうち重要な書類とか増えそうだな。
執務室の準備ができたので、僕は他の部屋の様子を見に行きます。
「あ、クロちゃん。部屋の片付けは終わったの?」
「マーサさんのお陰で終わったよ。ドリーお姉ちゃんは?」
「新しい設備でのポーションの生産試験を行っているのよ。魔導コンロだから、調節が難しいわ」
元々何も使われていなかった大きな倉庫を改造したのがポーション生産部屋で、ドリーお姉ちゃんがポーションの試験生産を行なっていました。
屋敷が火事になるのを防ぐ為に魔導コンロが導入されたんだけど、ドリーお姉ちゃんは初めて使う魔導コンロの火力の調整に悪戦苦闘しています。
もう少し調整を続けるそうです。
「おーい、荷物を持ってきたぞ」
「部屋の端っこに置いておくね」
「二人とも、ありがとうね」
と、ここでゴレスお兄ちゃんとゴードンお兄ちゃんが木箱を抱えて部屋に入ってきました。
ゴレスお兄ちゃんもそうだけど、ゴードンお兄ちゃんもとっても力持ちだから荷物運びで大活躍です。
ちなみに、もふもふのゴードンお兄ちゃんは侍従にも大人気で、よく頭をなでなでされています。
僕は隣の部屋に移動します。
隣はポーションの研究室で、主に僕とドリーお姉ちゃんが使う予定です。
ここで使用する道具は、孤児院にいた時から使用していた物です。
「クロちゃん、執務室の整理は終わった?」
「終わりました。隣のポーション生産部屋も見てきました」
「それは良かったわ。こっちももう終わるよ」
この部屋では、アンナお姉ちゃんとララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんが道具をセットしてくれます。
もう長年使っている道具なので、お姉ちゃんもどこにどの道具を置けば分かっています。
「この道具も年季が入ってきたね」
「ちょっと古くなってきたね」
「でも、きちんと手入れをしているから、まだまだ使えるよ」
ララお姉ちゃんもリリお姉ちゃんも、使い込んできたポーション作成の為の道具を掃除しつつテーブルに並べていきます。
因みにこの部屋でも魔道コンロを使う事になったので、後で色々調整しないといけないなあ。
そんな事を思っていたら、部屋の中に入ってくる人物が。
「クロノ、ここにいたのね」
「くろのにーに、いた!」
「お母さん、ライラちゃん」
部屋に入ってきたのは、お母さんとライラちゃんだった。
お母さんも、豪華な服からいつもの服に着替えています。
というか、ライラちゃんはいつの間にお母さんといたんだ?
「クロノ、お客さんが来ているわ。執務室に行くわよ」
「おきゃくさーん」
「分かりました。直ぐに向かいます」
どうも僕宛に誰かきている様です。
僕はお母さんとマーサさんとライラちゃんと共に、執務室に戻る事にしました。




