第八話 兄カーターの思い
私はカーター。
放蕩王と悪名名高い父の血を引くものだ。
私は、自分の体に父の血が流れている事をどれだけ憎んだ事だろうか。
兄上も妹も、自身の体にあの父の血が流れている事を憎んでいる。
そして、私の体にはもう一つの憎むべき血が流れている。
国の癌たる、宰相である祖父の血だ。
母が亡くなった時も悲しい顔をせずにいた冷徹な老人だ。
黒い噂が絶えない、最悪な人間でもある。
母は優しい人だった。病弱だったが愛情いっぱいに僕を育ててくれた。
実の母である王妃から全く愛されていなかった兄上の事も、我が子の様に接してくれた。
そんな母が、双子の妹を出産直後に亡くなった時は本当にショックだった。
私だけでなく兄もかなり悲しんでいた。
祖父は母の葬儀の際にも笑っていた程だったので、余計にショックを受けたのを覚えている。
そんな私達兄弟の前に、教育係としてマーガレット先生がやってきた。
マーガレット先生はまるで亡くなった母の様に僕達に優しく接し、時には叱ってくれる事もあった。
私達兄弟は直ぐにマーガレット先生の事が好きになり、親しくなっていった。
しかし、父が最低な行為を行いマーガレット先生が妊娠してしまいます。
僕達は経緯はどうであれ、弟か妹が出来る事を喜んでいました。
しかし、またもや祖父が最低な行為を行う。
マーガレット先生が生んだ子どもが男子だった為に、あろうことかマーガレット先生に対して我が子を殺すか捨てる事を迫ったのだ。
実は祖父がマーガレット先生に対して行った行為は王妃と共に宮殿の通路で堂々と行った為、多くの人が目撃する事となった。
勿論私と兄上も目撃し、この事が決定打となり決定的に祖父の事が嫌いになった。
宰相と共に国の癌たる王妃をどうにかする為に、私は兄上と共に様々な事を始めた。
表面上は兄上と仲違いしている様に装いながら、王妃と祖父の犯罪の証拠を集めている。
そして、マーガレット先生の子であり私達の弟でもあるクロノの行方も並行して探していた。
近衛騎士団長の話では、先生が子どもを捨てた時に周囲に獣の気配はなかったと言っていた。
なので、僕達も微かな希望を頼りに弟を探すことにした。
そして、クロノを探し始めてから半年後、遂にクロノの消息が掴めたと連絡があった。
クロノがいた場所は、マーガレット先生がクロノを捨てた森に接しているバンザス男爵領の孤児院だった。
たまたまクロノの捨てられた付近を冒険者が魔物の討伐を行なっていて、従魔がクロノを発見したという。
クロノを拾った冒険者は、バンザス男爵領の冒険者ギルドマスターの手にクロノを渡したという。
マーガレット先生がクロノと一緒に籠に入れていた封筒に入っていたライングライド男爵家の紋章入りのペンダントを見て、ギルドマスターはクロノが捨てられた事情を把握したという。
そして、旧知の人物が軍にいるので慎重にクロノの事を確認していたという。
ギルドマスターからは事が事なだけに慎重になったから報告が遅れたと謝っているらしいが、僕は逆にありがたいと思った。
このギルドマスターは頭が回る事で有名らしく、義理人情に厚いという。
しかも保護した冒険者と妻以外には、誰にも情報を漏らしていないという。
捨てられたのに直ぐに国に発見の報告された場合、クロノは間違いなく宰相か王妃のどちらかの手によって殺されたはずだ。
話を聞くと、バンザス男爵家もクロノの事を何かされるといけないので、孤児を孤児院にいれたとしか伝えていないという。
私は兄上と相談して、現在クロノの所在を把握している軍務卿と近衛騎士団長以外に、マーガレット先生と妹にこの事を話す事にした。
「そうですか。あの子は生きていたんですか……うぅ」
「良かったね、先生」
「弟くん、生きていたんだ」
マーガレット先生は我が子が生きている事が分かると、堪らず嗚咽を漏らしていた。
妹達も、死んだと思われていたクロノが生きていてとても喜んでいた。
「先生。状況が状況なだけに、まだクロノと引き合わせる事はできません。少なくとも兄上が即位するまでは、辛抱頂く事になります」
「それは覚悟の上です。生きていると知れただけで、私にとっては十分です。元より今生会えないと思っておりましたから」
「スカーレット、リリアン。二人とも、クロノの事は誰にも漏らしてはダメだよ」
「「はい、勿論です」」
こうして、私達の抱えていた懸念の一つが解消された。
クロノの為に、不自然にならない様に孤児院へギルドマスターを通じて定期的に支援を行う事にした。
どうも、バンザス男爵家と孤児院の院長には宰相と王妃の事とは全く別の黒い噂が絶えないという。
しかし、今は私達でも手が出せないので、バンザス男爵家と孤児院の院長の事を調べつつ監視を強化しておこう。
そして、私も兄上もクロノが無事だと分かった事により、一層この国に蔓延る悪を排除する気持ちに火がついたのだった。