第七十八話 ステラさんとティナさんと共に炊き出しです
翌日は広場での炊き出しを皆で行います。
ステラさんとティナさんも、今回の炊き出しに参加します。
「広場を警備する兵が随分と多いね」
「もうすぐ宣誓式が行われるからね。不審なものがないか、チェックしているのよ」
「あやしいものは、らいらがみつけるよ!」
広場の警備が厳重になっていて、お母さんも少し緊張気味だ。
元気一杯のライラちゃんは、広場に怪しいものがあったら見つけると元気よく両手を上げていた。
その間にも、炊き出しと無料治療の準備は進みます。
「ポーションは準備出来たよ」
「魔法治療の方も準備できた」
「いつでも大丈夫だよ」
ドリーお姉ちゃんの指示の下、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんも準備完了だ。
ライラちゃんも定位置の椅子に座ったので、炊き出しよりも一足先に無料治療が始まります。
「今日は私も治療を手伝いますね」
ティナさんは回復魔法が使えると言うので、ライラちゃんの隣に座って治療を始めます。
貴族だからなのか、ティナさんは魔法が使えるんだね。
「おや、今日は新しいお嬢ちゃんがいるんだね」
「そーだよ。かーたーにーにのおよめさんだよ!」
「そうかいそうかい、めんこいおよめさんだねえ」
「えっと、ありがとうございます」
ライラちゃんと顔見知りのお婆ちゃんが、ティナさんの存在に気がついた様だ。
ライラちゃんが張り切ってティナさんの事を説明していたけど、お婆ちゃんに通じたか分からないぞ。
「炊き出しの準備が出来ました」
「おっし、俺は列の整理を行うか」
「私は配布を手伝いますわ」
マーサさんの炊き出しの準備完了連絡を受けて、ゴレスお兄ちゃん達が列の整理を始めた。
そして、ステラさんは僕達と一緒に炊き出しのスープを配り始めた。
「お、弟殿下、炊き出しにも新しい嬢ちゃんがいるな」
「そうなんです。ステラさんです」
「初めまして、冒険者さん」
「ははは、冒険者に動じないとは、なかなかの嬢ちゃんだ」
こちらも僕と顔見知りの冒険者が、ステラさんの事で声をかけてきた。
ステラさんも厳つい顔の冒険者に普通に対応しているので、冒険者はステラさんを高評価していた。
「うんうん、二人の顔見せとしていいスタートね」
お母さんも、ステラさんとティナさんが街の人に良い印象を持ってくれた事に好感していた。
僕も二人の顔見せとして、順調な滑り出しだと思っていた。
そんな中、ちょっとした事件が発生した。
今日は治療を受ける人が多くて炊き出しが先に一段落したので、ステラさんも列の整理に加わっていた時だった。
「おりゃ!」
「あっ、財布が! ああ!」
突然ガラの悪い男性が、治療を受けようとしていたお婆さんから財布を盗んだ上に突き飛ばしたのだ。
「へへ、捕まえて……うお!」
「せい!」
ドシーン。
たまたま逃げようとした犯人の側にステラさんがいて、犯人を払い腰の様な投げ方で地面に叩きつけた。
僕はステラさんが危ないと思ったけど、ステラさんの方から犯人に近づいたよ。
地面に叩きつけられた犯人は、駆けつけた兵によってあっという間に捕まえられた。
「大丈夫ですか? 治療しますね」
「ああ、ありがとうね」
ティナさんも倒れたお婆さんのもとに駆けつけて、直ぐに治療を始めていた。
素早い治療のお陰で、お婆さんも大した事はなさそうだ。
「おお、あのステラって嬢ちゃんは、スリに堂々と立ち向かうなんてなかなかやるな」
「ティナちゃんもお婆さんを心配しながら治療して、とても優しそうね」
二人の迅速な行動に、残っていた街の人も称賛を送っていた。
お母さんも二人の評価を聞いてニンマリとしていた。
こうして、勇敢なステラさんと優しいティナさんの噂は直ぐに街の人の評判になりました。