第七十五話 ちょっとしたわがまま?
抜き足差し足忍び足。
抜き足差し足忍び足。
僕とゴードンお兄ちゃんは、女性陣に女子風呂に連れて行かれる前にこっそりと男子風呂に入ろうとしています。
皆が夕食前で部屋に入ったタイミングを見計らって、男子風呂に入るという作戦です。
夕食前で屋敷の人は忙しいので、ここまでは誰にも見つからずに何とか上手く行っています。
抜き足差し足忍び足。
抜き足差し足忍び足。
「もう少しだね」
「そうだね」
もうすぐ目的地に到着するので、僕とゴードンお兄ちゃんは笑顔で顔を見合わせました。
もう少しで作戦が成功します。
そして、男子風呂に到着するというタイミングで、突然目の前に仁王立ちしている人が。
「あら、二人して何処に行くのかな?」
「「えー!」」
男子風呂の前で腕を組んで仁王立ちしていたのは、まさかのステラさんだった。
ステラさんは仁王立ちしながら、とっても良い笑顔をしています。
僕とゴードンお兄ちゃんは、ステラさんの笑顔にビックリ仰天です。
だっ。
「あら、お二人ともどこに行くのかしら?」
「「えー!」」
僕とゴードンお兄ちゃんは咄嗟に引き返そうと後ろを向いたけど、そこにはティナさんが立っていた。
ティナさんもステラさんと同じ様なセリフを言いながら、とっても良い笑顔で僕とゴードンお兄ちゃんを見ています。
これでは、前門の虎後門の狼ならぬ前門のステラさん後門のティナさんだ。
僕とゴードンお兄ちゃんは、お互いに抱き合ってガクガクブルブルと震えています。
もう、このままでは女性陣のオモチャにされてしまうと思ってしまいました。
すると、ティナさんの後ろから少し困った表情のお母さんとマーサさんが現れました。
「まさかここまで嫌がっているとはね。二人が皆にしつこくされるのが嫌なのは気づいているのよ。それで、二人の様子を見に行こうとしたのよ」
「そうしたら、お二人がこっそりと部屋を抜け出したのを見かけました。それでステラ様とティナ様に先回りをお願いしました」
どうやら僕達の行動は、全て筒抜けだった様だ。
僕とゴードンお兄ちゃんは、抱き合ったままヘナヘナと座り込んでしまいました。
そんな僕とゴードンお兄ちゃんの側に、ステラさんとティナさんが座って頭を撫でてくれます。
「流石にそこまで嫌がっているのでしたら、今日は一緒に入るのは止めて起きますわ」
「明日、改めてお風呂に誘うようにしますわ」
「「あっ……」」
ステラさんとティナさんは、僕とゴードンお兄ちゃんにニコリとしてから立ち上がった。
そして、その後は何も言わずに僕達の元を離れて行きました。
「今日はお母さんにとマーサさんだけでお風呂に入りましょう」
「たまにはゆっくり入るのも良いと思います」
今度はお母さんとマーサさんが僕とゴードンお兄ちゃんの側に座って、頭を撫でてくれながら話してくれました。
すると、僕とゴードンお兄ちゃんの目からポロポロと涙が溢れてきました。
「ぐす、お母さん、ごめんなさい」
「僕達、うぐ、わがままを言ったのかな?」
僕とゴードンお兄ちゃんが涙を流しながらお母さんに話をすると、お母さんが僕とゴードンお兄ちゃんを優しく抱きしめてくれました。
「二人はわがままを言っていないわ。だって、二人はしつこくされるのは本当に嫌だって思っていたのだから」
「「ぐす、ゔん」」
お母さんは、僕達の背中を撫でながら話を続けます。
「スカーレットも、リリアンも、クロノと初めてあってから一緒にいたくて仕方ないのよ。それで今まで一緒にいた孤児院のメンバーも、少しムキになっちゃったのね」
「「うん」」
「皆があまりにもしつこいから、二人も嫌になっちゃったのね。でなければ、二人が皆に隠れてこっそりとお風呂に入ろうとはしないわよ」
「「うん……」」
お母さんは、僕とゴードンお兄ちゃんの涙をハンカチで拭いてくれた。
そして、僕とゴードンお兄ちゃんの頭をポンと撫でてから立ち上がった。
「さあ、お母さんとマーサさんとお風呂に入ってゆっくりしましょう。大丈夫、誰も邪魔はしないわ」
「「うん」」
僕とゴードンお兄ちゃんも立ち上がって、お母さんと手を繋ぎました。
そして、久々にゆっくりとお風呂に入る事ができました。
僕ももう少しわがままを言ってもいいのかな?
ゴードンお兄ちゃんとお母さんとマーサさんと湯船に浸かりながら、僕はそんな事を考えていました。




