第六十九話 悪魔的な直感? 天使的な勘?
王位の宣誓式は街の中央広場で行われるので、一部の区画が立ち入り禁止となってきた。
警備も厳重になってきたけど、今日はあえてこの中央広場で炊き出しを行います。
今日はお母さんとスカーレット姉様とリリアン姉様は、宣誓式に着るドレスのサイズ合わせで宮殿にいるので、炊き出しには不参加です。
わざわざ中央広場で炊き出しを行っていますが、これには幾つかの目的があります。
「お、弟殿下か。今日は炊き出しか?」
「はい。後は、街の清掃や人々の要望とかを聞いています」
「おお、それはご苦労な事だ」
一つは街の清掃をしつつ、不審な物がないか確認をしています。
更には街の人にも聞き込みをして、色々な要望を聞きつつ変わった事がないかを確認しています。
普段その場で暮らしている人ほど、些細な変化に気がつきやすいのです。
そして、もう一つの目的がこれです。
「あー! わるいひとがいた!」
「あっちの物陰にも、不審者がいるよ」
「あの人も悪い人だね」
「直ぐに取り押さえろ!」
ライラちゃんとララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんが、治療をしつつ不審者を見つけています。
悪魔的な直感なのか天使的な勘なのか分からないけど、三人は付近に隠れている不審者を次々に見つけていきます。
まあこの中央広場は宣誓式の会場だし、何よりも王子である僕が炊き出しを行なっています。
不審者にとっては、僕達は格好のターゲットでしょう。
以前の炊き出しの際にもライラちゃんとララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんは不審者を見つけ出したので、今日は特に張り切って監視をしています。
「ははは、これは凄いな。是非とも、軍が行なっている街の巡回にも参加して欲しいな」
「ライラちゃんは未だ小さいですけど、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんは冒険者としても活動しているので、お母さんの許可が出たら巡回に参加してもいいかもしれませんね」
「流石に三歳児を連れて行くのは無理だな。でも、王太后様に打診をしても良い成果だ」
たまたま中央広場の警護の視察に来ていた軍務卿と話をしていたけど、街の不審者を一掃するには丁度いいタイミングなのかもしれない。
幸いにして、街の人は僕にはとても好意的で色々と協力してくれていた。
未だ一ヶ月しかできていないけど、街の環境改善や衛生の向上にも寄与できている。
逆を言うと、王妃と宰相が実権を争っていた時は街の状況は良くなかった事になる。
と、ここで追加の人員が馬車でやってきた。
「あら、何の話をしているのかしら?」
「お母さん、ドレスのサイズ合わせは終わったんだ。スカーレット姉様とリリアン姉様は?」
「アルスとカーターと宣誓式の事で話し合っているわ」
馬車でやってきたのは、宮殿でのドレスのサイズ合わせが終わったお母さんだった。
スカーレット姉様とリリアン姉様が炊き出しに参加できないのは残念だけど、お仕事だから仕方ない。
「二人で何だか話をしていたけど、何かあったの?」
ここでお母さんが、僕と軍務卿が話をしていたのを聞いてきた。
丁度タイミングが良いので、お母さんに巡回の事を相談をしてみよう。
「実はね、今日もライラちゃんとララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんが沢山の不審者を見つけていたの。そこで、巡回にララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんが参加したらどうかなって話があったの」
「勿論不審者を捕えるのは我々の仕事ですので、お二人を危険な目に合わせる事はありません」
僕と軍務卿の話を聞いたお母さんは、顎に手を当てながら少し考えていた。
そしてお母さんは、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんだけでなくアンナお姉ちゃんとゴレスお姉ちゃんも呼んだ。
ゴードンお兄ちゃんとライラちゃんも、何だろうって思ったのか手を繋いで一緒に着いてきた。
そしてお母さんは、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんに話しかけた。
「今日も沢山悪い人を見つけたけど、まだまだ街には悪い人がいるんだって。それで、街の巡回にララちゃんとリリちゃんに一緒に来て貰いたいんだって」
「おお、ララ頑張るよ!」
「リリも頑張る!」
お母さんの提案に、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんは元気よく手を上げて頑張ると答えていた。
そして、やっぱりというかこの子もやる気を見せていた。
「らいらもがんばる!」
「ライラちゃんは、流石にダメね。もう少し大きくなったらね」
「えー!」
ライラちゃんはブーたれているけど、お母さんも流石に同行を認めなかった。
そしてお母さんは、更にアンナお姉ちゃんとゴレスお兄ちゃんにも声をかけた。
「アンナちゃんとゴレスくんも、ララちゃんとリリちゃんに同行してくれないかな? 念の為という事で、護衛も兼ねてね」
「母上、分かりました」
「二人の事は任せて下さい」
こうして、冒険者組による街の巡回が決定。
早速明日から巡回を行う事になりました。
「ぶー」
「ライラちゃんは不満なのね。じゃあ、明日良い物を届けて貰いましょうか?」
「本当? わーい」
お母さんはライラちゃんに良い物があると言って、ライラちゃんも直ぐに機嫌が良くなった。
でも、良いものって一体何だろう?