第六十六話 おばちゃんの正体と新しい薬師ギルドマスター
資料を押収した僕達は、お母さんとマーサさんとエミリアさんと一旦別れて宮殿に向かった。
宮殿に着くと、僕達は直ぐに会議室に通された。
「クロノ、大変だったな」
「だが、クロノのお陰で色々な事が判明した」
「アルス兄様、カーター兄様」
会議室にはアルス兄様とカーター兄様の他にも、閣僚が勢揃いしていた。
どうやらかなり重要な会議の様だ。
「クロノ、突き飛ばされたと聞いたが大丈夫か?」
「はい、尻餅をついただけなので大丈夫です」
「そうか、それは良かった。先ずは席に座ってくれ」
既に薬師ギルドの幹部が僕の事を突き飛ばしたのは、この場にいる人に伝わっている様だ。
僕と担当役人が席に座ると、会議がスタートした。
「先ずは、薬師ギルドで起きた事を纏めよう。ギルドの幹部は、クロノへの暴行容疑で現行犯逮捕となった。そして、監査から直ぐに現場検証に切り替わった」
「ギルドの建物並びに寮は、売却の手続きが取られていた。なお、手続き自体は正規のもので問題はなかった」
アルス兄様とカーター兄様が話を始めるけど、ここまでは何となく僕も分かっていた。
と、このタイミングでお母さんとエミリアさんに、炊き出しの際に出会ったおばちゃんが会議室に入ってきた。
お母さんとエミリアさんが会議室に入るのは分かるけど、何でおばちゃんもこの場にいるんだろうか?
「クロノは初めて会うのかな? 治療研究所の所長になるカルメンだ」
「クロノ殿下、改めてご挨拶を。カルメンと申します」
「えー!」
びっくりしちゃったけど、まさか炊き出しで出会ったおばちゃんがバンザスの街に出来る治療研究所の所長だとは。
おばちゃんは僕に挨拶してくるけど、お茶目にウインクもしていた。
とりあえず、会議を再開しよう。
「今日は旧公爵領にて、不明な資金の流入があると報告があったので会議を行なっていた。先程捕らえた薬師ギルドの幹部が、あらゆる物を売却して旧公爵領に逃げ込もうと自供した。この報告を受けて、各ギルドへ緊急の資産調査を行なっている」
「新しい政権に反発している旧公爵領が、人員と資金を集めている。今回の薬師ギルドの幹部が行った行為は、正にこの事だろう」
「しかも薬師ギルドの幹部は、エミリアさんを旧公爵領への手土産にしようと考えていたらしいわ。ふざけているにも程があるわ」
アルス兄様とカーター兄様とお母さんの説明に、会議に参加している全員が険しい顔をしていた。
明らかに、国への反発を超えて反乱を起こすレベルとなっている。
しかもエミリアさんを旧公爵への土産にするって、本当に薬師ギルドの幹部は腐っているな。
「軍務卿、これからの対策を」
「はっ。既に旧公爵領へ通じる道の検問を強化しており、更に旧公爵領付近への軍の駐留を進めております。また、王都の巡回も強化しております」
「不審な者の摘発強化も進めよう。住民向けの宣誓式にて、何か事件を引き起こす可能性は高いな」
もう旧公爵領が反乱を起こすのは、誰が見ても必須の状態だ。
逆に言うと、まだ攻め入る大義名分が無いだけで、こちら側もいつでも旧公爵領に攻め入る事は可能だという。
そして、議題は薬師ギルドの今後についてとなった。
「旧体制の薬師ギルドは解散とする。クロノを新しいギルドマスターとし、エミリアや屋敷にいる者を補佐に付ける」
「実務は、補佐の者に任せれば良い。この措置は、クロノの顔を広く知らしめる意味もある」
「分かりました。出来る限り頑張ります」
やっぱりと言うか、僕が薬師ギルドのギルドマスターになってしまった。
まあ、新しい薬師ギルドには殆ど人がいないし、先ずはいっぱいポーションを作る事が先決だもんね。
「そして、今日捕縛した幹部の話をクロノの身内に話す事を許可する。秘密厳守だが、人を助ける為にポーションを増産する様に頼む」
「クロノを利用する事になって申し訳ないが、ここはクロノに頼みたい」
「大丈夫です。僕も多くの人を救いたいですから。頑張ってポーションを作ります」
炊き出しの時と同様にまたもやぼくの事を利用する事になったので、アルス兄様とカーター兄様も申し訳ない顔をしていた。
だけど僕だって国の為に頑張りたいし、出来る事を一生懸命に行うだけだ。
ここからは軍事会議になるので、僕とエミリアさんとカルメンさんは席を外して屋敷に戻る事になった。
お母さんは引き続き会議に参加する様です。