第六十五話 颯爽とお母さんが登場
部屋から男達が連れ去られたけど、これで終わりではない。
「役人さん、この部屋にある書類を押収しないといけないですね」
「この調子ですと、資金の流れに問題があると考えております。急ぎ押収を行います」
担当役人さんも、早速資料の押収を開始した。
部屋に残っている騎士や兵も、資料押収の手伝いをしている。
「各階の部屋は、本当に何もなかったのですか?」
「あ、はい。綺麗さっぱり何もありませんでした」
「売れる物は、とことん売ったみたいだね。となると、重要書類はこの部屋か拘束した男達の屋敷にありそうだね」
「男達を移送する際に、屋敷にも兵が向かいました。緊急事態という事で、百人以上の兵で捜索を行なっております」
僕は資料の押収をしている兵に話をしたけど、着いてきてくれた騎士や兵がとても優秀で助かった。
ひとまず、ここはお任せで大丈夫みたいだ。
監査から捜索に切り替わったけど、何とかなりそうだ。
僕は、エミリアさんの方に向かいます。
エミリアさんは泣き止んで、今は会議卓の椅子に座っています。
「エミリアさん、僕の発言で辛い事を思い出させてしまって申し訳ありません」
「えっ……」
僕は、エミリアさんにペコリと頭を下げて謝った。
僕の発言が、エミリアさんの辛い記憶を思い出させてしまったのだ。
立場とか関係なく、謝らないといけない。
エミリアさんはというと、僕が謝った事を見てキョトンとしていた。
「エミリアさん、確認なのですけど今はどちらにお住まいですか?」
「あ、寮に住んでおります。ただ、実は寮も明日までに退寮しないといけません」
「寮には他に誰か住んでいますか?」
「もう、私だけになります」
この建物が抵当に入っているとなると、僕は寮も抵当になっているのではと思った。
サーニャさん達も寮に住んでいたって言っていたから、もしかしたらと思ったんだよね。
「マーサさん、屋敷の離れにはまだ部屋がありましたよね?」
「はい、あと一部屋空いております。直ぐにエミリア様が泊まれる様に手配をしましょう」
「お願いします」
マーサさんは騎士に頼んで、屋敷まで使いに行ってもらった。
馬に乗ってここまできたから、屋敷まではあっという間に着くよね。
その間、マーサさんとエミリアさんはお互い話をしてもらった。
同性同士の方が話もしやすいだろうね。
「うーん、薬師ギルドの運営について書かれている資料は、殆どありません」
「こちらもです。賄賂関連の資料しか出てきません」
「となると、拘束した男達は薬師ギルドを見捨てて、色々な物をお金を手にして何処かに行こうとした可能性がありますね」
結局部屋を捜索しても、大した資料は出てこなかった。
今更賄賂関係の資料が出てきても、殆ど意味がない。
すると、この場に現れたとある人が色々と教えてくれた。
「どうも奴らは、大金を手にして公爵領に逃げる予定だったみたいだわ」
「お、お母さん!」
まさかのお母さんの登場だった。
屋敷に手助けを求めたけど、お母さんが来るとは。
お母さんはエミリアさんに向かうと、エミリアさんに頭を下げていた。
「エミリアさん、息子が失礼な事を言ってしまい申し訳ありません」
「お、王太后様。もうクロノ殿下より謝罪を受けていますので、顔を上げて下さい」
「本当に申し訳ないわ。クロノも怒っていたとはいえ、発言にはもう少し気をつけてね」
「はい」
お母さんは、王太后の立場というよりかは僕のお母さんとして謝った。
僕ももう少し発言に気をつけないといけないな。
「先ずは、この場にある書類を押収したら宮殿に向かって下さい。エミリアさんは、必要な物を纏めたら我が家に向かいましょう。それから宮殿で合流して会議に参加ですね」
「「「はい」」」
お母さんがテキパキと指示を出して、皆が動き出した。
さっきお母さんが言っていた、公爵領への逃亡に絡んでの会議なんだろう。