第六十四話 僕が初めて出した命令
全ての中年男性が拘束された所で、真っ青な顔のままの若い女性が僕に謝ってきた。
「ク、クロノ殿下。大変申し訳ありません」
「お姉さんは、拘束された人と違って何もしていないので問題ないですよ。お姉さん、名前を教えて貰って良いですか?」
「は、はい。エミリアと申します」
お姉さん改めエミリアさんは、立ち上がった僕に向かってまだ頭を下げていた。
僕がエミリアさんに大丈夫だと何回か言うと、ようやくエミリアさんは顔を上げてくれた。
「で、殿下? 殿下だと?」
「そのガキが王子なのか?」
ここで、ようやく男達が僕が王子だと気がついた様だ。
しかし、男達は相変わらず無礼な言葉遣いをしているので、マーサさんと騎士と兵から冷たい目で見られている。
「おい、エミリア。何で、王子だと教えないのだ!」
「も、申し訳ありません……」
「ふん、だからお前は夜以外は使い物にならないんだ」
「も、申し訳……」
僕の事を突き飛ばしたスキンヘッドの男が、エミリアさんに向かって僕の事を教えなかったと喚いている。
しかし、僕はスキンヘッドのある言葉にピンときた。
どうやら、マーサさんと騎士と兵もスキンヘッドの言葉に違和感を感じた様だ。
「エミリアさん、もしかして拘束された人から酷い事をされていたのでは?」
「う、うぅ。うぐぅ……」
僕はスキンヘッドに聞こえない様に小さな声でエミリアさんに確認すると、エミリアさんは涙を流しながらうずくまってしまった。
僕は、うずくまってしまったエミリアさんの頭を抱き締めていた。
流石に僕も男達の有り得ない行動に、怒りが爆発しそうだ。
「し、失礼します」
そして、この場に各階を捜索していた兵が入ってきた。
男達が拘束されていて、泣き崩れているエミリアさんの事を慰めている僕を見てビックリしている様だ。
僕は顔を上げて、兵に問いかけた。
「捜索したら、何かありましたか?」
「いえ、何もありませんでした。各部屋綺麗さっぱり何もありませんでした」
「そう、有難うございます」
僕は兵から男達に顔を向き直すと、男達は一斉に顔をそらした。
もう、ここでグタグタと話をする必要はなさそうだ。
「マーサさん、エミリアさんをお願いできますか?」
「はい、お任せ下さい」
僕は、未だに泣き崩れているエミリアさんの事をマーサさんに任せた。
そして、ゆっくりと男達に近づいていった。
男達は、僕から顔を背けたままだ。
「もう薬師ギルドの監査どころではなくなりました。貴方達の事は、これから厳しく取り調べられるでしょう」
「ぐっ」
僕は顔を背ける男達に向かって、怒りをできるだけ抑えながら話し始めた。
それでも男達は、僕から顔を背け続けていた。
「王子として騎士と兵に命じます。この者どもを厳しく取り調べて下さい。あと、建物自体も抵当に入っているかも知れませんので、併せて調べて下さい」
「「「はっ」」」
思えば、僕が王子として初めて命令した瞬間だった。
騎士と兵も僕に対する男達の態度に相当腹を立てていた様で、直ぐ様動き始めた。
男達は、ギャーギャー喚きながらも騎士と兵によって部屋から連れ出されて行った。
「う、うぅ……」
男達が連れ去られた後、部屋の中はエミリアさんのすすり泣く声だけが響いていた。
マーサさんは、そんなエミリアさんの背中を優しく撫でていた。