第六十三話 監査開始
「お待たせしました。追加の兵が到着しました」
薬師ギルドの前について三十分後、追加の兵が二十人程やってきた。
うーん、薬師ギルドの前でこれだけバタバタしているのに、未だに誰も建物の中から出てこないぞ。
「では、行きましょう。兵を先導させて建物の中に入ります」
「はい、お願いします」
数人の兵を先導にして、僕達は薬師ギルドの中に入って行きます。
兵も剣は抜いていないけど、かなりの警戒をして建物の中を進んで行きます。
「誰かいますか?」
シーン。
担当役人が建物の中に声をかけるけど、誰からも返事はなかった。
「おや? ちょっとお待ち下さい。上の階から、何やら声が聞こえました」
ここで素早く反応したのが、マーサさんだった。
ウサギ獣人でもあるマーサさんは、大きな耳で上の階からの物音を聞いた様だ。
各階の捜索を行う為、数人の兵が一階と二階に分かれて行動を開始した。
そして、僕達は物音が聞こえたという三階に上がる事に。
「しかし、本当に誰もいませんね」
「一体どうなっているのだろうか」
僕は担当役人と話をするけど、各階には本当に人がいない。
もしかして、一部の上役を除いて全員退職してしまったのだろうか?
そんな気がしてならないぞ。
「あ、奥の部屋から声が聞こえます」
「私にも聞こえました。何やら言い争う声が聞こえますね」
三階に着くと、僕と担当役人にも人の声が聞こえた。
担当役人の言う通り、何やら言い争う声だぞ。
騎士も兵も顔を見合わせて、無言でこくりと頷いた。
全員で足音を忍ばせながら、超厳戒で声の聞こえた部屋に近づいて行く。
「声が聞こえたのは、ギルドマスターの部屋ですね」
「如何にも怪しいですね」
そして声の聞こえた部屋の前に着くと、そこにはギルドマスターと表示されていた。
兵と騎士が無言で合図を送ると、部屋の扉を開けた。
「な、な、な、なんだ。何だお前らは!」
「何故許可なく部屋に入っているのだ」
部屋に入ると、会議が行われていたのか六人の年配の男性が大きな会議卓にいた。
秘書と思われる若い女性がいて、僕達の所にやってきた。
うーん、この人もスタイル抜群の人だな。
青い髪をボブにしている。
「クロノ殿下、わざわざおいで頂いたのにお出迎えできず申し訳ございません」
「あの、一体何をしているのですか?」
「誰が監査の説明をするのか、責任の押し付け合いをしております」
「「「はあ?」」」
余りの馬鹿馬鹿しい会議理由に、僕だけでなく全員が呆れた声を出していた。
責任の押し付け合いをするのに会議を開くとは、もう薬師ギルドは本当にダメだと思った。
だけど、一応は挨拶をしておかないと。
僕は会議卓の方に歩いて行った。
「初めまして、僕はクロ……」
「何でここにガキがいるんだ!」
「会議の邪魔だ。さっさと出ていけ!」
「えっ? わあ!」
僕が挨拶をしようとしたら、会議を行なっていた年配の男性全員が紙を丸めて僕の所に投げてきた。
そして、あろうことかスキンヘッドの太った男が僕の事を突き飛ばしたのだ。
突き飛ばされた衝撃で、僕は思わず尻餅をついてしまった。
ぞく。
尻餅をついた僕の背後から、とんでもない殺気が出ている。
僕は思わず振り返ると、いつもはニコニコのマーサさんが怒髪天の勢いで怒っていた。
そしてマーサさんの横には、真っ青な顔になった若い女性が立っていた。
「確保!」
「「「はっ」」」
そしてマーサさんは怒り心頭の顔で、騎士と兵へ僕に無礼を働いた中年男性を拘束する様に指示を出していた。
流石に王子である僕に紙を投げつけたばかりか突き飛ばしたのもあって、騎士も兵も素早く動いた。
「うわ、な、何をする!」
「何故、儂を拘束する!」
そして会議を行なっていた年配の男性は、ギャーギャー言いながら騎士と兵によって拘束されていった。
うん、これはとんでもない事になったぞ。