第六十二話 薬師ギルド監査は波乱のスタートです
そして監査が行われる日の朝になった。
「うん、これでよし。どこから見ても、立派な王子様ね」
「おお! くろのにーに、カッコいい!」
お母さんはマーサさんと共に、朝から張り切って僕の服を選んでいた。
謁見の間で着用した服を少しアレンジして、髪もバッチリとセットした。
一緒に僕の着替えを見ていたライラちゃんも、大満足の出来の様だ。
因みに、今日の監査は僕とマーサさんが騎士と役人と共に薬師ギルドに向かう事になっています。
準備万端の僕は、馬車に乗ってマーサさんと共に宮殿に向かいます。
「クロノ、着いたか。忙しいのに悪いな。実は最初は私が監査に行く予定だったのだけど、仕事が入って」
「いえ、皆の為になるのでしたらいくらでもお手伝いをしますよ」
迎えてくれたのはカーター兄様。
後で聞いたのだけど、反乱の計画をしている公爵の対応で会議が入ったという。
「すまんな。俺も殿下と一緒に行く予定だったのだけど、緊急会議になってしまったんだ」
「軍務卿もお忙しいのですから、ここは動ける人で監査を行いましょう」
軍務卿もカーター兄様との会議に参加するので、監査に参加出来なくなったという。
軍部の担当者が僕に同行するので、監査自体は何も問題ないでしょう。
という事で、ここからは担当者と別の馬車に乗って騎士の護衛を受けながら薬師ギルドに向かいます。
何気に薬師ギルドに行くのは初めてだな。
「薬師ギルドを辞めている人が多いって聞いたのですけど、本当に組織として大丈夫なのでしょうか?」
「殿下、薬師ギルドはもうダメだと思っております。本日は組織の改善の監査なのですが、事前の書類提出も滞っており陛下も既に見切りをつけております」
「うわ、まさか事前書類すら出していないとは。アルス兄様の気持ちも良く分かります」
担当役人の話を聞いて、僕だけでなくマーサさんも呆れた表情となってしまった。
うーん、今日の監査は絶対に一波乱ありそうだ。
「薬師ギルド前に到着しました」
と、ここで目的地の薬師ギルドに到着。
僕は馬車から降りて、マーサさんと共に薬師ギルドの前に立った。
うん、薬師ギルドはとっても豪華な建物で、レンガ作りの三階建ての建物だ。
そして、もう一つ気になった事が。
ここは担当役人と護衛の騎士に聞いてみよう。
「あの、今日の監査って薬師ギルドに伝えていますよね? 誰も出迎えがないのですが」
「勿論です。書類でも通知しましたし、何より三日前に私自身が薬師ギルドに直接行って本日の事を話しました。誰か案内を待たせておく様にと、通達もしております」
「三日前の件については、私も同行しております。勿論、クロノ殿下が監査に参加される事も通告されております」
おお、マジですが。
担当役人も騎士も、薬師ギルドの玄関に誰もいない事に困惑した表情だ。
「うーん、玄関は空いていますね。何かあったのでしょうか?」
「何か事件が起きているかもしれない。追加の兵を寄越してから、薬師ギルドの中に踏み込む様にしよう」
玄関の鍵は空いていて、誰でも薬師ギルドに入る事が可能だ。
とっても不審な状況なので、騎士と兵の間に緊張が走っている。
こうして、監査の初めから波乱のスタートとなってしまった。