第五十五話 徐々に街が動き出す
新たな事業の話が出てから一週間、僕達は別の場所で炊き出しを行っていた。
「働いている人が増えてきたね」
「それに兵隊さんも増えたね」
治療班として活躍中のララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんが、周りを見渡していた。
公共事業が再開し、街のあちらこちらで工事が行われている。
更には増えた軍の兵によって、訓練を兼ねて街の巡回も行われている。
商店街も少しずつ活気を取り戻しているし、人の流れも増えてきた。
初めて炊き出しした時は、王都なのにゴーストタウンの様な寂しい雰囲気の場所もあったもんな。
すると、この前の炊き出しであった人に声をかけられた。
「おお、弟殿下か。今日も炊き出しか?」
「はい。炊き出しをしつつ、街の様子を見ています」
「まだ小さいのにしっかりしているな」
たまたま通りがかったらしく、手には仕事道具を持っていた。
「お仕事始めたんですね」
「ああ、公共工事の現場で働いているよ。弟殿下が色々と動いてくれて、皆助かったって言っているぞ」
「僕がしたのはほんのちょっとですから。でも、働き始めてよかったですね」
「おう、じゃあまたな」
僕は、街の人から弟殿下と呼ばれる。
まあ、王族の中では一番幼いし間違いではないんだよね。
おじさんも良い笑顔で仕事場に向かっていったし、本当に良かったな。
「当分はスラム街や街の外れでの炊き出しになるけど、大きな公共工事の現場に出張炊き出ししても良いかもね」
「働いている人に元気になって貰いたいね」
「お腹空いたら、力がでないもんね」
今は確かに炊き出しの場所にも気を遣っているけど、お母さんの言う通り公共工事の現場で炊き出ししても良いね。
街の人が元気になっているのを見て、スカーレット姉様もリリアン姉様もとても良い表情になっている。
治療を受ける人も、当初よりも少なくなってきている印象だ。
「らいら、ちょっとひまー」
今日の治療する人が終わったので、ライラちゃんは椅子に座って足をぶらぶらさせていた。
ライラちゃんは人とお話しするのが大好きだから、治療する人がいなくなってだいぶ退屈そうだ。
「すーぷおいしい?」
「ああ、とても美味しいよ。ありがとうね、小さなお嬢ちゃん」
「おお、よかった!」
なので、いつの間にか炊き出ししたスープを食べている人の所に移動してお喋りをしていた。
念の為に、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんがライラちゃんの側にいるけと、ララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんもスープを食べている人と仲良くお喋りしている。
と、ここで思いもよらない久々の再会を果たす事に。
「おお、元気にやっているな」
「あ、ギルドマスター。王都に来ていたんですね」
「ああ、そうだ。例の街の拡張案の件で打ち合わせだ」
「もう動き出しているんですね」
久々に会ったギルドマスターは、バンザスの街の拡張の件で王都に来ていた。
もうバンザスの街に領主はいないので、役人とギルドマスターが街の件で対応している。
冒険者も絡む事だし、ギルドマスターは暫く忙しそうだ。
「僕達も、時間ができたらバンザスの街に行く予定です」
「おお、それは良いな。冒険者達も、お前らに会いたいと言っていたぞ」
「そうなんですね。僕達も、皆さんと会えるのを楽しみにしています」
「おう、皆に伝えとく。それじゃ」
ギルドマスターは僕に挨拶をすると、颯爽と王都の街中を歩いていった。
バンザスの街に行くのが、かなり楽しみになってきたな。