第五十話 王妃への判決
そして、王妃と宰相の裁判の日となった。
場所は軍の基地にある裁判施設だ。
かなり厳重な警備を敷いていて、万が一王妃や宰相の奪還があっても撃退出来る様に体制を整えている。
「さあ、私達も行きましょう」
「「「はい」」」
僕達も王族として相応しい服を着て、馬車に乗って裁判施設に向かいます。
僕達の乗っている馬車も、今日はかなり厳重な警備を伴っています。
そんな雰囲気もあってか、僕達も余り喋る事はせずに馬車の窓から流れる景色を眺めていました。
馬車はトラブルも無く現地に到着。
僕達は直ぐに応接室に案内されて、アルス兄様から話を聞く事になった。
「午前中に王妃、午後に宰相の裁判を行う予定だ。今日はほぼ私とカーターが話すから、皆が話す事はほぼない」
「まあ、裁判中は裁判官が話す事が殆どでしょうね」
お母さんの言う通り、裁判官が裁判の進行をするのでアルス兄様とカーター兄様が話す事も少ないと思うな。
「しかし、事前に情報を集めていたとはいえ、次から次へと罪が明らかになってな。しかも証拠も有り余ってるし、これで言い逃れができる方が凄いと思うよ」
「うーん、僕としては、特に王妃はそもそも罪を犯したという認識すらない気がするよ」
「私もその可能性はあると思っている。でなければ、ここまで傍若無人に振る舞う事は無かっただろう」
僕は、特に王妃に罪の意識がないのではないかと思っている。
まるで、王妃自身が自分が王である様に振る舞っていたのだからだ。
「皆様、お時間となります。ご移動をお願いします」
「お、時間か。まあ、何が起きるか分からないので気を引き締めていこう」
「「「はい」」」
侍従の声掛けで、僕達は裁判が行われる部屋に向かうことに。
そして実際の裁判では、僕とアルス兄様の懸念が現実のものとなった。
僕達は裁判官の後ろの席に座っている。
僕達と被告の間は壁で隔てられていて、僕達のいる所は被告のいる所から二メートルは高い。
なので、僕達からは被告の姿は見えるけど、被告からは裁判官の姿までしか見えないでいる。
そして、被告の席には後ろ手でがっちりと拘束された人が被告席に座っていた。
被告の両側には、完全武装をした兵が控えていて被告を拘束している紐を掴んでいた。
万が一という事がない様にという事だろう。
僕達は、先に部屋に入っていたカーター兄様と共に裁判の成り行きを見守っていた。
「被告ジュリアン。罪状に何か申す事はあるか?」
裁判官が被告に向けて語りかけていた。
被告ジュリアン。
勿論アルス兄様の母親で、前王の王妃であるジュリアンの事だ。
囚人服を着ていて髪はボサボサになり肌は煤けているが、それでもギッと裁判官を睨みつけていた。
ジュリアンにかけられている罪は多数に及ぶが、メインは殺人と汚職容疑。
カーター兄様への殺人未遂容疑も、生まれたばかりの僕を森に捨てる様に命令した遺棄容疑も勿論審議対象になっている。
「妾はこの国の王妃じゃ。何故、妾を罰せなければならぬのか。おかしいだろう」
おお、僕が懸念していた事を被告がいきなり叫んでいるぞ。
自分は偉いのだから、犯罪を犯しても罪にならないと本気で思っているんだ。
被告の言い分に、実の母親といえどもアルス兄様も思わず閉口してしまった。
「我が国は、王族貴族だからといって罪を逃れるという決まりはない。特に重罪に関しては、王族貴族も平民と同等に裁かれる」
「じゃあ、今すぐ王族貴族の罪は全て無罪とする法を作りなさい!」
うわあ、もうめちゃくちゃだな。
淡々と裁判官が事実を告げているけど、じゃあ王族貴族を無罪とする様に法を作れって発想が凄いなあ。
アルス兄様だけでなく、僕達全員も思わず呆れてしまった。
「例え王族貴族の罪を無罪にする法律を作った所で、過去に遡って罪を無罪にする事はできない」
「うるさい! 妾を今すぐ無罪にして釈放しろ!」
そして更に被告は喚き散らす。
もうこれは、裁判どころではないな。
こんな滅茶苦茶な状況でも、努めて淡々と話す裁判官って大変だなあ。
「被告は幼少期より逸脱した教育を受けた影響は否めないが、それでも犯罪を自ら主導し時には自ら直接手を出した結果は非常に大きい」
「うるさい」
「何より犯行の動機が私利私欲の為であり、元王妃という立場を汲んだとしても許されるものではない」
「うるさい、うるさい、うるさーい!」
裁判官が努めて冷静に被告に語り掛けているが、被告は首を激しく振って裁判官の言葉を聞かない様に悪あがきをしている。
「被告の私利私欲により、百を超える命が奪われた結果は重大である」
「うるさーい、うるさーい、だまれー!」
「断罪に処する。主文、被告を死刑に処す」
「わー、わー、わー」
自分の主張が受け入れられないと分かってからの被告は、完全に錯乱状態になっていた。
しかし、裁判が止まる訳ではないので裁判官は冷静に判決を下していた。
下された判決は、やはりというか死刑だった。
汚職だけでなく百人を超える人を殺害しているのだから、ある意味当然といえよう。
そして被告は、錯乱状態のまま裁判席から退出させられた。
「王妃様、凄かったね」
「うん、凄かった」
想像以上の物凄い裁判に、スカーレット姉様とリリアン姉様ははぁと息を吐きながら椅子の背もたれに寄りかかっていた。
僕も思わず体をずっと緊張させていたよ。
そしてアルス兄様は、ふうと息を吐くと静かに目を閉じていた。
実の母親の余りの醜態を見て、色々と考える事があるのだろう。
僕達もアルス兄様には声をかけず、暫くそっとしてあげた。