第四十四話 意外な魔法の適性
次は魔法の訓練だけど、その前に魔力測定を行います。
お母さんが持ってきたのは、水晶玉みたいな丸くて透明な物だった。
大きさは十センチ位で、そんなには大きくない。
「これをもって集中すると、魔力があれば光るわ。どの貴族家にもある、簡単な魔力チェックの道具よ」
「へえ、そんな物があるのですね」
中々面白い魔導具だなあ。
試しに使ってみると、魔力のないゴレスお兄ちゃんは全く光らずに、ララお姉ちゃんやリリお姉ちゃんはピカーって光っていた。
「あ、わ、私にも魔力があるの?」
「そうみたいだね。おめでとう」
ドリーお姉ちゃんも、魔導具がピカーって光った。
獣人は特に魔力がないといわれていただけに、お母さんに祝福されているドリーお姉ちゃんはかなりびっくりしていた。
最終的に魔力があると分かったのは、僕とドリーお姉ちゃんにララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんとライラちゃん。
他の人は、残念ながら魔力がなかった。
「では、魔力がない人は剣技の訓練を行いたいけど、今日は別メニューね」
「「「?」」」
てっきり剣技の訓練を続けると思っていた魔力がない面々は、頭にはてなマークが出ていた。
というか、僕達も頭にはてなマークが出ていたぞ。
「ゴレスくん、芝生の上にうつ伏せで寝てくれる?」
「あ、はい」
何が何だか分からないゴレスお兄ちゃんは、お母さんに言われるがままに芝生の上にうつ伏せで寝ていた。
「アンナちゃん、ゴレスくんが動かない様に肩の辺りを抑えていてね」
「はい」
アンナお姉ちゃんもよく分からないまま、ゴレスお兄ちゃんの頭の方からゴレスお兄ちゃんの肩を抑えていった。
そして、お母さんはゴレスお兄ちゃんの背中に手を置いた。
「じゃあゴレスくん、息を吸って吐いてね」
「うん? すー、はー」
ゴレスお兄ちゃんは、お母さんに言われるがままに息を吸って吐いた。
その瞬間だった。
ボキンボキンボキン。
「が、かはぁ?」
お母さんが高速の手つきで、ゴレスお兄ちゃんの背中を矯正したのだ。
突然の衝撃に、ゴレスお兄ちゃんは何が何だか分かっていない様だ。
「うーん、これはかなり固いわね。今度は腰を治しますよ」
「え、あ、おかあさ……ぐっはぁ!」
バキンバキン。
その後もお母さんは、容赦なくゴレスお兄ちゃんの体を矯正していく。
しまいには、プロレス技みたいなものをゴレスお兄ちゃんにかけはじめていた。
「よっと」
バキンバキン。
「ぐっふ、ぐはぁ」
そして、お母さんがゴレスお兄ちゃんの体を矯正する度に庭に響き渡るゴレスお兄ちゃんの悲鳴。
そして、バキンバキンという体を矯正させられる音も、庭に響き渡った。
「ふう、こんな感じかな。でもゴレスくんは、暫く毎朝必ず体の矯正をしないとね」
「は、あ、ふえ、へあ……」
完全に白目を向いているゴレスお兄ちゃんに対して、お母さんが非情な通知を下していた。
でも今のゴレスお兄ちゃんは、体をピクピクさせたまま動かないから、お母さんの話を聞いていないだろうなあ。
「母上、わたしにも先ほどの技を是非とも教えて下さい」
「アンナちゃんは筋が良いから、直ぐに覚えるはずだよ。これはご老人の体の矯正にも使えるから、仕事としても活かせるわよ」
そしてアンナお姉ちゃんにお母さんが太鼓判を押しているけど、ゴレスお兄ちゃんが実験体になるんだろう。
こうして、僕達はピクピクしているゴレスお兄ちゃんを見て柔軟を念入りに行おうと心に誓ったのだった。