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第三話 母の決意

 私はマーガレット。

 貴族子女ではありますが、貴族の爵位の中では一番低い男爵家の生まれです。

 とても優しい両親に育てられ、聡明な兄にも可愛がって貰いました。

 兄はとても優秀で、男爵家としては異例となる官僚扱いとして宮殿で勤務していました。

 私も兄に負けじと勉強していた記憶があります。

 そして成人して直ぐに、優秀な兄の妹として王子様と王女様の教育係として抜擢される名誉を得ました。

 未来の陛下を含む方々に教育をする名誉に、私は期待に胸を膨らませながら宮殿への第一歩を踏んだ事を今でも覚えています。


 それから一年後、こんな状況になるとは私自身も全く想像していませんでした。

 陛下に襲われる形で処女を散らし、そしてあろう事か陛下の子を宿したのです。

 そして、陛下のお子様を出産。

 王女ならという周囲の期待を他所に、生まれた我が子は王子でした。

 そう、周囲が望まない王子でした。

 私は、妊娠中から王妃様と宰相閣下から女を生めと事あるごとに言われていました。

 あからさまに男子では不都合だと、面と向かって言われていました。

 それなのに生まれた我が子は男の子。

 我が子が生まれた直後から、王妃様と宰相閣下から不穏なプレッシャーが強くなりました。


 そして我が子を出産してから五日後。

 私は生まれたばかりの我が子を腕の中に抱きながら、馬車の中に佇んでいました。

 きっと他の人が見れば、幽霊が馬車の中に乗っていると思うだろう。

 それ程酷い表情をしている自覚はありました。


 出生の経緯はあるのだが、愛しい我が子に変わりはない。

 私は我が子を守る為に、出産後の体でできる限りの事を訴えた。

 しかし、私は無力だった。

 我が子を守る事ができなかった。

 

 ついに昨晩、王妃様、そして宰相閣下より我が子を殺すか捨てるよう指示が下された。

 実は、出産直後から殺すか捨てるかを選択する様に圧力をかけられていました。

 しかし私が決断できないでいるのを見て、実力行使にでてきました。

 我が子を殺す事はできない、せめてこの子と一緒に私も殺してと訴えました。

 しかし、王子様や王女様への教育効果もあるので、お前だけは利用価値があると、まるで物を扱う様に言われてしまいました。

 宮殿内の一室にて悲しみに暮れながら、夜泣きをする我が子をあやしながら私も夜通し泣き通したのだった。


「マーガレット様、こちらです」

「有難うございます。団長様」


 近衛騎士に護衛されながら王都から進む事数時間、うっそうとした森が広がる街道沿いに着いた。

 私は、今からここに我が子を捨てるのだ。

 茂みに置かれた籠に入っている赤ん坊は、自身が置かれている状況を知る由もなくすやすやと可愛らしい寝顔をしていた。

 私は手紙と男爵家のペンダントを封筒に入れて、籠の中にそっと置いた。

 そして、私は膝をついて神に祈りを捧げた。


 神よ、我が子クロノをどうか宜しくお願いします。


 時間にして僅か一分。

 こうして私は、我が子クロノを森へ捨てたのだった。


「おお、帰ってきたか。して、赤子は捨てたのか?」

「まさか、何処かに隠したという事はないでしょうね」


 帰りの馬車の中の事を、私は一切覚えていません。

 そんな状況の中宮殿に戻ると、ニタニタと笑っている宰相閣下と王妃様が待っておりました。

 私の中で何かが崩れる音が聞こえてきました。

 

「森に、捨て、て、きまし、た」

「補足致します。バンザス男爵領に程近い森の中になります」

「ははは、よりによってバンザス男爵領の森とは。あそこは獣が多いからなあ」

「ほほほ、今頃赤子は魔物の腹の中じゃ。大義であったぞ。明日から息子の教育を再開せよ」

「はい、畏まりました」


 宰相閣下と王妃様は満足した表情をして、それぞれ部下を引き連れて宮殿内に入って行った。


 もう疲れた、休みたい。

 私は王子様や王女様に勉強を教える部屋としてあてがわれている、宮殿内の一室に入った。

 すると、部屋には二人の王子様が侍従や護衛もつけないで待っていたのだった。


「先生、お帰りなさい。ゴメンなさい、僕達に力がなくて」

「先生、僕は悔しいです。こんな酷い事が許されるなんて」

「うう、うわあああ」


 二人の王子様であり私の教え子でもあるアルス殿下、そしてカーター殿下が私の事を抱きしめてくれた。

 私よりも遥かに幼い二人に申し訳なく謝罪された事により、私は再び感情が溢れてしまった。

 

「先生、僕は先生に勉強を教えて貰って凄い助かっています」

「お身体と心が大変かと思いますが、どうか引き続き僕達に勉強を教えて下さい」

「「そしていつか、二人でこの国を良くしたいと思います」」


 二人の王子様は、私から離れると私を真っ直ぐ見据えて決意を述べてくれた。

 ああ、何ていう決意なのだろう。

 二人の王子様は、こんな私の事を必要としている。


「畏まりました。このマーガレット、お二人が立派な人になられるように誠心誠意教育に努めてまいります」


 私はお二人が、そしてここにいない王女様が立派な大人になる様に一生懸命に教えよう。

 それまでは、私も出来る限りの努力をしようと決意した。

 そして四人の殿下が立派な大人になった時には、私はクロノの側に行ってもいいと思ったのだった。

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