第二十九話 魔法での治療
「じゃあ、行ってくるね」
「気をつけてね」
僕達は、屋敷の玄関でギルドマスターとアンナお姉ちゃん達を見送った。
馬車といっても荷物が沢山詰め込めるように、幌馬車で向かっていきます。
近衛騎士も一緒に着いていったけど、無事に帰って来てほしいなあ。
そんな事を、僕は思っていた。
僕の横では、何故か姉様が馬車を見送りながらゴードンお兄ちゃんのモフモフの毛並みをモフっている。
「うー!」
「「モフモフ!」」
ちょっとゴードンお兄ちゃんは迷惑そうだけど、姉様はゴードンお兄ちゃんの毛並みにうっとりしている。
確かにゴードンお兄ちゃんの毛並みは気持ち良いんだよね。
でも、流石に止めてあげないと。
「姉様、ゴードンお兄ちゃんが困っているからその辺で止めてね」
「「はーい」」
しっかりとゴードンお兄ちゃんの毛並みを堪能したのか、姉様は満足した表情をしてゴードンお兄ちゃんから離れていった。
ゴードンお兄ちゃんは、開放されると真っ先にララお姉ちゃんとリリお姉ちゃんの所に走っていったよ。
あ、ゴードンお兄ちゃんがちょっと涙目でララお姉ちゃんの背中から姉様を見ている。
流石に姉様かゴードンお兄ちゃんを構いすぎて警戒させちゃった様だ。
今は子熊だからかわいいけと、大熊になってもモフモフなのかなってちょっと思ったりも。
さて、実は僕もちょっと問題発生。
それは、朝早かったのと宮殿で色々とあった疲れで眠くなってしまったのだ。
しかし、ここで眠いといえば僕と一緒にお昼寝をしたいという争奪戦に発展してしまう。
そこで僕は一芝居を打つことに。
「じゃあ、僕はお母さんの様子を見に行くね」
「ライラも!」
皆がゴードンお兄ちゃんの事でゴタゴタしている内に、僕はお母さんの所に行くといってこの場を離れた。
ライラちゃんもついてくる様だけど、まあ大丈夫だろう。
えーって顔をしているゴードンお兄ちゃん、ごめんなさいって心の中で謝った。
「うーん、お母さんの部屋ってどこかな?」
「どこかな?」
さて、お母さんの部屋に行こうと思ったけど、子どもの僕には屋敷がとても大きい。
僕とライラちゃんはお母さんの部屋が分からなくて、二人してキョロキョロとしてしまった。
こういう時は大人に頼ろう。
ちょうど目の前に、頼りになる大人が現れた。
「おばあちゃん、お母さんのお部屋ってどうやって行くの?」
「いくの?」
「あら、クロノちゃんとライラちゃんじゃない。ちょうど良かったわ、私もお母さんの部屋に行く所だったのよ。おばあちゃんと一緒に行きましょうね」
「「うん!」」
という事で、僕とライラちゃんは、おばあちゃんに手を引かれながらお母さんの部屋に向かいます。
おばあちゃんもとっても優しくて、孤児院のメンバーも優しく接してくれるんだ。
でもやっぱりというか、おばあちゃんもゴードンお兄ちゃんをモフモフするのが好きらしい。
そんなおばあちゃんの事を、ライラちゃんも気に入っています。
ライラちゃんは基本誰にでもニコニコとしているけど、嫌な人には絶対に近寄らない。
逆にライラちゃんが安心している人は、良い人って言えます。
うーん、中々屋敷の中を覚えられないな。
子どもってのもあるけど、そのぐらいに屋敷は広いよ。
そして、おばあちゃんはある部屋の前で止まりました。
コンコン。
「マーガレット、私よ。入って良いかしら?」
「お母様? どうぞ」
部屋に入ると、お母さんはソファーに腰掛けてお茶を飲んでいました。
顔色もだいぶ良くなっていて、具合は良さそうです。
「あら、クロノとライラちゃんもきたのね」
「うん、お母さんの様子を見に来たの」
「きたのー!」
「まあ、クスクス」
ライラちゃんのマイブームなのか、最近誰かの言葉を真似することが多いです。
僕とライラちゃんは、お母さんを挟んでソファーに座ります。
おばあちゃんは椅子にすわります。
お母さんの事を鑑定しても毒の表示はない。
でも、軽度の麻痺って出ていた。
これがお母さんが歩きにくい原因かな?
でも、麻痺治しはまだ作成途中だし使えない。
よし、ここは僕の魔法で試してみよう。
「お母さん、まだ体が痺れているよね?」
「そうね。だいぶ良くなったけど少しね」
「じゃあ、僕が魔法で治してあげる!」
「「えっ!」」
お母さんとおばあちゃんは、僕の発言を聞いてビックリしていた。
僕は、何故かほぼ全ての初級魔法が使えるんだよね。
この間のお母さんに盛られた強力な毒とかは治せないけど、軽度の麻痺だったら僕の魔法でも治せるかも。
僕はお母さんが治ってほしいと思いながら、魔法を発動する。
鑑定魔法は何故かなにも光らないけど、回復魔法は青白く光るんだよね。
「えーい」
「まあ!」
「これは凄いわ」
お母さんとおばあちゃんが僕が放った状態異常回復の魔法にビックリしていたけど、僕が魔法を使えるって分かっているライラちゃんはニコニコ顔のままだ。
鑑定をして、うん大丈夫!
「お母さん、どうかな?」
「まあ、体がスムーズに動くわ」
「クロノちゃん。今のは魔法?」
「そうだよ。初級魔法だけどね。簡単な鑑定魔法も使えるよ」
「まあまあ、それは凄いわね」
「にーには魔法使えるの!」
お母さんは体がスムーズに動くのにビックリで、おばあちゃんは僕が魔法を使ったことにビックリしている。
普通は、人族や獣人は魔法が使えないからね。
「ふあ……」
「あら、クロノ眠いの?」
「うん、朝早かったから。それに、魔法を使ったのもあるのかも」
「ふふ、じゃあお母さんが膝枕をしてあげるね」
「はーい」
「ライラもいーい?」
「ええ、こちらにおいで」
「わーい」
魔法を使った疲労もあるのか、あっという間に眠くなってきた。
僕とライラちゃんは、お母さんに膝枕をしてもらうとあっという間に眠ってしまった。
「ふふ、おやすみクロノ、ライラちゃん」
薄れゆく意識の中、お母さんが僕とライラちゃんの頭を撫でてくれているのがとても気持ちよかった。