第二十七話 皆のお母さん
パチパチパチパチ。
「「「「「あっ!」」」」」
僕達が謁見の間の袖口から控室に戻ると、そこにはこの場にいるとは思わなかった人がいた。
「お母さん!」
「「「「先生!」」」」
車いすに乗って僕達に拍手を送ってくれたのは、紛れもなく僕のお母さんだった。
兄様や姉様も、お母さんがこの場にいる事にとてもビックリしていた。
どうも、兄様や姉様もお母さんがここに来る事は全く聞いていなかった様だ。
というか、昨日瀕死の重症だったのに大丈夫なのかな?
「ふふ、どうしても晴れ姿を見たくなったの。幸いにしてクロノの作ってくれた毒消しポーションのお陰で動けるようになったけど、念の為にって車いすできたの」
お母さんは、僕達にニコリとしながら話を続けていく。
「アルス陛下、そしてカーター殿下、本当に立派になられて。この六年間、良く頑張ってくれました。肉親を追及するという苦しい困難にも打ち勝ってくれました。私から二人に教える事はもうないわ」
「「先生……」」
アルス兄様とカーター兄様は涙をこらえる事ができず、膝をついてお母さんの手を握っていた。
お母さんはアルス兄様とカーター兄様の頭を順に優しく撫でながら、今度は姉様に言及していた。
「スカーレット殿下とリリアン殿下は、そうね、もう少し淑女である為の勉強をしないとね。今後は二人の立ち居振る舞いも注目を浴びる事になるわ。いくらバンザス男爵が良くない事を考えていても、謁見の間で態度に出すのは良くないわ」
「「うっ……」」
「「「くすくす」」」
姉様も流石にお母さんの忠告に自覚があるのか、少ししょんぼりとした表情をしていた。
情けない声を聞いた僕と兄様は、思わず笑ってしまった。
僕も姉様達のドスの効いた声は怖かったなあ。
「クロノ、おいで」
お母様は僕の事を呼び寄せると、ぎゅっと僕の事を抱きしめてくれた。
「クロノ、本当によく頑張ったわ。アルス殿下の治療もそうだし、アルス殿下がもう一度立ち上がる勇気も与えてくれたわ」
「お母さん……」
僕は、思わずお母さんの胸に顔をうずめて泣いてしまった。
何だか緊張が一気に解けたってのもあるかも。
少しの間僕は泣いていて、お母さんに加えて兄様も姉様も僕の事を撫でてくれた。
僕も泣き止み、改めて兄様と姉様と共にお母さんに向き合った。
「先生。いえ、これからは母上と呼ばせて頂きます。私達がここまで大きくなって色々出来る様になったのも、全て母上のお陰です」
「母上には感謝のしようもありません。幼い頃に実の母が亡くなってからは、母上が私の支えでした」
「そういえば、先生はクロノのお母さんでもあるし、現実的にお母さんって呼んでも全く問題ないわね」
「私、ずっとお母さんって存在が羨ましかったの。先生が私達のお母さんになってくれて嬉しい」
そっか。
僕の本当のお母さんだから、僕と血のつながった兄様と姉様にとってもお母さんになるんだ。
今まで僕の存在は秘匿されてきたけど、これからはそういう事もないんだ。
「ふふふ、皆ちょっとこっちに」
するとお母さんは、兄様と姉様を手招きしすると、纏めてぎゅっと抱きしめていた。
「急にこんな大きな子どもがいっぱいできて、お母さんはとても嬉しいわ」
「「母上……」」
「みんな大好きよ。愛しているわ」
「「お母さん!」」
何だか、僕も心の中がぽかぽかしてくるようだった。
兄様に姉様も、そしてお母さんも、ずっと苦しかったんだな。
僕はそんな気持ちで、お母さんに抱きついている兄様と姉様を見つめていた。