第二十六話 兄の思い
これでひと段落かと思いきや、兄様のターンはまだ続く。
カーター兄様が兵に指示を出した。
「続いて、劣悪ポーション製造に関わる者を捕らえよ!」
「「「はっ」」」
おや?
カーターお兄様が言うこの劣悪ポーションの件は、僕は全く知らないよ。
一体何があったのだろうか?
貴族に加えて、商人っぽい人も拘束されているぞ。
「先程拘束した王妃と宰相に賄賂を贈り、他の業者の参入を阻んだ。そればかりか、賄賂の金を捻出する為に劣悪なポーションの作成を指示した。その結果、助かるはずの多くの命が救われなかったのだ!」
「現在王都の薬屋で売られているポーションは、クロノが作った有効なポーションに順次置き換えている。しかし、既に起こった事は取り返せないぞ」
うわあ、これは僕は王族としてよりも薬師として許せない行為だ。
助かるはずの命を見捨ててまで、賄賂の為のお金を稼ごうとするとは。
でも、ギルドマスターに急いでポーションを作ってくれと言われた理由に納得した。
そうと分かれば、僕はもっとポーションを作ったのに。
主に捕まったのは薬師ギルドの幹部で、薬師ギルドへ薬草などを卸していた貴族も拘束されていった。
これで終わりかと思ったら、最後に僕もびっくりする事が待っていた。
「バンザス男爵を人身売買の罪で拘束せよ」
「「「はっ」」」
えっ!
バンザス男爵って、僕達のいた孤児院のあった所だよね。
僕のいた所の領主が人身売買って、一体何をしたのだろうか?
「バンザス男爵。貴様は執事及び孤児院の院長と結託し、違法奴隷の売買に手を染めていた様だな。侍従を暴行して産まれた子どもまで、違法奴隷として売っていたらしいな」
「孤児院を卒業した人も、次々と人身売買の違法奴隷として売り捌いていた事も把握している。勿論、クロノをロリコン貴族に売ろうとした事もな」
「「はあ? クロノをロリコンに売ろうとした?」」
「ひいっ」
おお、カーター兄様が話した内容に、僕はお尻がキュってなっちゃった。
そして、この事に一番怒っていたのが姉様達。
ドスの効いた声で、バンザス男爵を一喝していた。
というか、あのハゲデブがバンザス男爵なんだ。
如何にも悪代官って風貌だな。
僕もこれ以上バンザス男爵の顔を見たくないので、バンザス男爵にはさっさと退場してもらった。
「皆には多くの醜態を見せてしまったが、これが我が国の現状だ。貴族という立場に胡座をかき、贅沢をする事に精を出した結果だ。この悪習を改めないとならない」
「無能な父がいたからこそ、宰相や王妃が出しゃばり国がおかしい方向に向かった。これからは、皆の意見を聞きつつ正しい方向に国を導かなければならない」
アルス兄様そしてカーター兄様の訴える様な言葉に、残った人達は真剣に耳を傾けている。
勿論、姉様も僕も真剣に話を聞いている。
「この国をより良い国にする為には、我々の力だけでは足りない。ここにいる全ての力が必要だ」
「より良い国を作る為に、皆に力を貸して欲しい。それが、我々兄弟の願いでもあります」
アルス兄様とカーター兄様は、残った人達に深々と頭を下げた。
王が、そして王族が臣下に頭を下げる事など異例だろう。
それでも、アルス兄様とカーター兄様は頭を下げていた。
自然とスカーレット姉様もリリアン姉様も、勿論僕も深々と頭を下げていた。
「アルス国王陛下万歳! カーター殿下万歳! クロノ殿下万歳!」
「「「うおー!」」」
いつの間にか謁見の間はアルス兄様を、カーター兄様を、そして何故か僕の事を称えている。
割れんばかりの拍手が鳴り響いて、歓喜が謁見の間で上がっている。
頭を上げた僕達兄弟は、今この場にいられる事を誇りに思っていた。