第二十五話 告白と拘束
「あっ!」
「クロノ殿下、お待ち下さい」
僕は兄様の勇姿を見るために、謁見の間の袖口で事の成り行きを見守っていた。
無事にアルス兄様が国王陛下になり皆が万歳をしている時、突然アルス兄様が倒れた。
僕はアルス兄様の鑑定をして結果を見ると、自然とアルス兄様の所へ走り出していた。
駆け出した僕の後ろで近衛騎士が叫ぶけど、僕にはやらなければならない事があるんだ。
「「クロノ!」」
「姉様、アルス兄様にこれを」
「おお、それは! リリアン、アルス兄様の上半身を上げて」
「はい!」
僕はアルス兄様が倒れている所に駆け寄り、スカーレット姉様に懐に持っていた強力な毒消しポーションを手渡した。
カーターお兄様と姉様がこの強力な毒消しポーションを見てびっくりする辺り、既にこの強力な毒消しポーションを使った事があるんだ。
色々な考えが頭をよぎったけど、僕はまだやらないといけない事がある。
アルス兄様に投げられたナイフ、このナイフを鑑定しないと。
と、ここでスカーレット姉様に強力な毒消しポーションを飲ませて貰ったアルス兄様がゆっくりと起き上がった。
「ふう、二度も命を助けられるとは。クロノ、本当に助かった」
「いえ、僕は薬師ですから。目の前で苦しんでいる人を助けるのが僕の仕事です」
「ああ、クロノは既に立派な薬師だ。では、私は何だ。この国を未来に導かないとならない王なのだ!」
ざわざわと謁見の間はざわついていたけど、アルス兄様が玉座に座ると水を打ったように一気に静まり返った。
僕は、こっそりと先程アルス兄様へ投げられた短剣の鑑定結果を告げた。
アルス兄様も僕の鑑定結果に力強く頷いている。
そして、現場の混乱を収める為に奮闘していたカーター兄様もこちらに戻ってきた。
「皆の者、少し無様な所を見せたがもう大丈夫だ。我が弟、クロノの作ってくれた強力な毒消しポーションのお陰だ」
謁見の間が再び騒めく。
勿論、もう一人の王子がいた事にだ。
そんな中、二人ほどとんでもなく驚いている顔をしている人がいた。
勿論、僕を森に捨ててくる様にお母さんに迫った張本人の王妃と宰相だ。
そしてアルスお兄様が話し始めると、再び謁見の間は静寂に包まれた。
「クロノは、父と我々の教師であったライングランド男爵家令嬢マーガレット先生との子だ。王子は死産とされていたと周知されたので、皆も知っているだろう。だが、実際には違う。王妃ジュリアン、そして宰相ゴルゴンによりマーガレット先生に産まれたばかりの子を殺すか捨てる様に迫ったのだ」
この事実を知らない貴族は、再びどよめきを起こしている。
それに対し王妃と宰相、二人に近い人物はバツの悪い顔をしていて、キョロキョロと不自然に目を動かしている。
そんな目の前の人の動きとは関係なく、更にアルス兄様は話を続けた。
「父の死から今日まで、私達兄弟は常に毒により命を狙われていた。私は先程の事を含めて二回瀕死となった。その毒の出所は既に抑えている!」
「兵よ、獅子身中の虫を捕らえよ」
「「「はっ」」」
アルス兄様が自分達が狙われ続けていた事を告白し、カーター兄様が兵に指示を出した。
一斉に兵が動き出し、多くの貴族を拘束する。
「離れなさい。私は王妃ですわよ!」
「くっ、儂を誰だと思っているのか。王国の宰相だぞ!」
勿論主犯格の王妃と宰相も拘束されるが、ギャーギャー騒いで抵抗している。
しかし、兵も問答無用で二人を縄でぐるぐる巻きにしていく。
「アルス、何故? 母である私を、何故拘束するの?」
「黙れ! 私は、あなたの事を母だと思った事は一度もない!」
「えっ!」
王妃は息子であるアルス兄様にすがるように訴えたけど、アルス兄様は一刀両断する。
あまりの強い口調に、王妃はびっくりして固まってしまった。
「カーターよ、儂は其方の祖父だぞ。何故、儂を捕まえるのだ?」
「私もあなたを祖父とは一切思っていない。母が亡くなった時の、あなたの冷たい言い分を私は忘れた事はない!」
「うぐっ」
宰相も孫であるカーター兄様に声をかけたが、これまたカーター兄様に完全に拒絶された。
宰相は覚えもあるので、黙り込んでしまった。
「王妃はカーターと妹に、宰相は私に毒を盛った。既に毒の出所は鑑定済みだ。先程私に投げられた短剣も直ぐさま鑑定した結果、宰相の関係者である事が判明している」
「「うぐっ」」
ここでアルス兄様が王子と王女殺害未遂の証拠を突きつけると、二人は声を漏らしている。
更に追撃とばかりに、カーター兄様が話をする。
「更には自分にとって邪魔な政敵を次々と殺害し、多くの人々から賄賂を受け取っている事も把握している。人事権にも干渉し、不正な昇進があった事も分かっているぞ」
「「ぐぐっ」」
カーター兄様が話しても、二人は罪を頑として認めようとしていない。
それに対して、他の捕まった貴族は既に観念したのか大人しくなっている。
「私達はクロノが捨てられた時から、表面上は対立している様に見せかけて、二人の罪をずっと追っていた」
「長い、長い五年間だった。国が腐っているのを間近で見ていながら、何もできないという歯痒さもあった。それも、今日で終わりだ」
「「……」」
王妃と宰相は、アルス兄様とカーター兄様に声をかけられてもなおぶつぶつと言っていた。
何故だとか、私は間違っていないとか言っている。
「謁見の間での拘束と併せて、関係各所の捜索も同時に行なっている。逃げ切れると思うなよ」
「兵よ、拘束した者を牢屋へぶち込め!」
「「「はっ」」」
兵は、拘束した者を次々と謁見の間の外に連れて行く。
主犯の王妃と宰相も連行されていくが、最後まで謝罪の言葉はなかった。