第二十一話 明日が待ち遠しい
「そうか、それは良かった。本当に良かった」
私、カーターは明日に迫った宣誓の打ち合わせを兄上と行っていた。
すると、部屋に近衛騎士が駆け込んできたのだ。
マーガレット先生の解毒が無事に終わり、マーガレット先生とクロノは無事に再会できたという。
本当に良かったしこんなにも時間をかけてしまって、マーガレット先生にもクロノにも申し訳なかった。
なんせ離れ離れになってから、実に五年もかかってしまったのだ。
今更クロノに兄として接して良いのか、私はふと考えてしまったのだ。
しかし、その不安も近衛騎士が続けた言葉によって打ち消された。
「クロノ殿下は、是非兄である殿下に会いたいと言っておりました。クロノ殿下の記憶力は素晴らしく、殿下がクロノ殿下に初めてお会いした事を覚えております。しかも、殿下の髪の色まで覚えており、アルス殿下の金髪もカーター殿下の銀髪も覚えておられました」
「なんと、そんな事が……」
「更にはご自身が捨てられてしまわれた時の事も覚えておられ、悲しみにくれる母君だけでなく近衛騎士団長の事まで覚えておいででした」
「信じられん、誠なのだろうか」
私と兄上は思わず顔を手で覆ってしまった。
クロノは幼いながらに過酷な運命になるのを理解していたのだ。
それなのに、私達の事を覚えていてくれた。
更には、髪の色まで覚えていてくれたのだ。
奇跡としか思えなかったが、現実に起きた事なのだ。
私はこの時ばかりは神に感謝したのだった。
しかし、その事に不満を漏らすのが二人ばかりいたのだ。
「お兄様ばかりクロノに覚えてもらっていてずるいです」
「私も赤ちゃんの頃のクロノにあっていれば」
そう、クロノから名前の出てこなかった妹のスカーレットとリリアンだ。
ほっぺをぷくっと膨らませて、不満の表情を見せている。
こればかりは仕方ないと、私も兄上も涙目で苦笑していた。
しかも、いつの間にか呼び捨てでクロノの事を呼んでいた。
「では、明日朝早い時間に宮殿に来てもらおう」
「はっ、直ぐにお伝えいたします」
明日はほぼ全部の貴族がやってくる。
いよいよ私達の反撃の場だ。
何だか少し気持ちが高揚してきた。
「それでは私の五歳の頃の謁見用の服を用意しないとならないな」
「いやいや、兄上。そこは私の服を用意させます」
こういった本気とも捉えられない冗談を言える余裕も生まれたのだ。
こうして命を救われた事も含めて、クロノには感謝をしている。
クロノが私達に会いたいと言ってくれた様に、私たちもクロノに早く会いたいのだ。
嗚呼、明日になるのが本当に待ち遠しい。
それは兄上も妹も同じだった。