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第二話 同じ運命を辿る事に

 僕は目を開けた時の違和感が、忘れられなかった。


「おぎゃあ、おぎゃあ」

「マーガレット様、本当に元気な男の子がお生まれになりました」

「そうですか。男の子、ですか」


 低い視線に、赤子の様な泣き声で喋る僕の事を。

 手足を動かしてもじたばたするだけで、当然歩く事もできない。

 周囲の会話は、日本語とは違う外国の言葉なのだけど、何故か全て聞き取れる。

 周りをじろじろと見渡しても、全く身に覚えのない景色だ。

 そもそも、ここはどこで、僕はどうなってしまったのか。



「生後間もない男の赤ちゃんが病院の前に遺棄されているのを、出勤した職員が発見しました」


 あるテレビで報道された時のナレーションです。

 僕は生まれてまもなく、ある街の病院前に捨てられました。

 僕を捨てた母親はその後病院の監視カメラの映像を元に逮捕されたらしいですが、結局僕には一回も会いにきませんでした。

 そして逮捕された母親が、警察の取り調べに対して僕の父親が誰だか分からないと供述したそうです。

 夏から秋にかけてのまだ暖かい季節だったから僕は助かったと、後に病院の人から聞きました。

 確かに真夏の炎天下や厳冬の寒空だったら、赤ちゃんだった僕は死んでいたでしょう。

 親のいない僕は孤児院で育ち、寮母さんがお母さんだった。

 孤児院にはそれなりの子どもがいて寮母さんは僕だけのお母さんではないので、寂しい思いをした記憶がある。

 それでも孤児院では兄弟みたいな仲間も出来て、それなりに楽しい日々だった。

 

 しかし、高校を卒業すると状況が一変した。

 孤児院は在籍できる年齢が決まっていて、高校を卒業したら強制的に退寮となる。

 僕も、高校を卒業し就職すると同時に孤児院を退寮して一人暮らしを始めた。

 料理が好きで飲食チェーン店に勤めていたのだが、勤めていた店舗とは別の店舗で食品衛生に関する事件が発生し、結果として飲食チェーン店自体が倒産し僕も含めて従業員全員解雇されてしまう。

 その後、僕は就職していた時と同じ飲食店での勤務を希望したが、事件の影響が大きくて飲食店には就職する事が出来なかった。

 それでも生きていく為に、僕は様々なバイトに励むことになった。

 しかし事件での精神的な影響もあったのか、体調を崩すことも多くなった。

 そして世界が新たな疾患に見舞われたある日、僕は風邪みたいな症状を市販薬で我慢しながらアパートの一室で明日のバイトに向けて寝ていた。

 もしかしたら、新しい疾患の為に僕は死んでしまったのだろうか。



 生まれて二日目。

 周りの人の言動を聞いたりした上で、自身の事について出来る限り考えてみた。

 どうも僕は、全く知らない世界で新たな命として生まれたらしい。

 学生の時に、学校帰りにふらっと立ち寄った本屋でふと手に取った本に書いてあった異世界転生なのか転移なのかは分からない。

 しかし、僕が前世の記憶を持ったまま赤ん坊として生まれたのは間違いない。


「うっ、うう。どうしてこんな事に」


 母親と思われる綺麗な女性が、僕に乳を上げながら悲嘆に暮れていたのが強烈に記憶に残った。

 栗毛の少しウェーヴのかかった長めの髪で、瞳の色も髪と同じ栗色のお母さん。

 とても若く美人で、この人が僕のお母さんだと最初は思っていた。

 前世の僕は母親や父親の記憶が全くなかったので、純粋にお母さんの存在が嬉しかったのだろう。

 僕は初めてのお母さんという存在に嬉しくなってしまい、ずっと一緒にいたい。

 そう思う様になっていた。

 そう思っていたのだが、またもやお母さんと一緒にいる事が難しい事が分かってしまったのだ。

 赤子なのに周りの会話が聞こえる為、僕はお母さんの会話や周りの人の言動から知ってしまったのだ。


 もうすぐ僕はどこかに捨てられる、と。


 

「この子が弟なのか。僕と同じ金髪だ。しかし何故こんな事に……」

「どうして捨てられないといけないんだ!」


 生まれて三日目。

 僕の兄という二人の男の子が、僕を見に来た。

 ともに十歳だという。

 金髪を短く切ったとても美形な兄が長男らしく、銀髪をおかっぱにしたこちらも美形な兄が次男だという。

 話を聞く限り、次男と同じシルバーの髪の双子の姉がいるという。

 二人の兄達は僕が捨てられる事を知っていて、捨てられる事を止められず悔し涙を流していた。

 優しいお母さんがいて弟思いの兄がいるのに、何故家族がバラバラになるのだろうか。

 ふと僕はそんな事を思った。

 前世でも、やむを得ず孤児院に入っている子どもがいた事も実際に見てきた。

 親と仲が良いのに面会時間が終わるとバイバイしないといけなくて、夜になると泣いている子もいた。

 でも、今は赤ちゃんの僕だ。

 自分ではどうしようも出来なかった。


 そして、僕がこの世界に生まれて五日目。

 いつも通りお母さんからお乳を貰ってその後は腕の中で寝ていたと思ったのだが、目が覚めたら籠に入れられた状態で森の中にいたのだった。

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