第十九話 親子の再会
カラカラカラ。
僕達を乗せた馬車が、急ぎ足で夕暮れの街道を駆け抜けます。
僕達の馬車の周囲を、冒険者ギルドにいた派手な鎧を着た騎士がガッチリと護衛しています。
何だか物凄く物々しい雰囲気で、いつもは明るいライラちゃんも大人しく席に座っています。
僕も馬車の外の様子を見る余裕もない。
でも、ギルドマスターに確認をしないといけない。
「ギルドマスター、どちらに向かって行くのですか?」
「王都のとある男爵家だ。宮殿ではないから安心しろ」
「いや、貴族様の屋敷に行くことも緊張しますよ。僕達は、僕達の領の男爵様の屋敷にも行ったことがないので」
「そうだっけ? まあ、今の男爵はあまり出来が良くないからな。逆に知らない方が良いぞ」
僕達の領の男爵様はあまり賢くないという噂が専らで、内政に見向きもせずにお金儲けに走っているという。
なので、段々と男爵領から別の領に人が移り住んでいるという。
豊かな森があるので冒険者はよく集まるのだが、逆に言うとそれくらいしか収入源がないのだ。
夕暮れの森を抜けて、段々と目の前に大きな街が現れました。
ここが王都、そして僕が生まれた街。
そんな事を思いながら、僕達を乗せた馬車はあっさりと警備を通過し、街の中に入っていきます。
今は街の様子を見る余裕もないな。
孤児院のメンバーも僕と同じだ。
毒におかされた人を助けるのが、何よりも優先だ。
少しずつ住宅街から屋敷の広がるエリアに入ってきた。
宮殿はまだ先なのだが、馬車は目の前に広がるとある屋敷に入っていく。
「ギルドマスター、この屋敷ですか?」
「ああ、間違いない。っと、ついた様だな」
屋敷の玄関前に馬車が止まり、馬車の扉が開けられた。
既に屋敷の侍従が待っていて、僕達を出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。こちらです」
「よし、行くぞ」
「「「はい」」」
屋敷の中を全力疾走はできないので、早足で進みます。
うー、みんな早いよ。
僕と一つしか変わらないゴードンお兄ちゃんにも、僕は段々と離されていきます。
ライラちゃんはちゃっかりとアンナお姉ちゃんに抱っこされてるし。
結局、僕は小走りで皆の後についていきます。
「こちらの部屋になります」
そして、屋敷の奥にある部屋の前に僕達は到着した。
この中に具合の悪い人がいるんだ。
何とか間に合うかな?
そんな思いの中、侍従が部屋の扉を開けた。
「!」
部屋の中には、ベッドの側で心配そうにしている中年夫婦に忙しそうに動く侍従。
そしてベッドで寝ている若い女性。
女性の顔色はかなり悪く、呼吸も荒い。
そして僕は、ベッドの上で苦しそうにしている女性を見てびっくりしてしまった。
「お母さん!」
「「「え? お母さん?」」」
ベッドの側で心配そうに女性を見ていた中年夫婦も、忙しそうにしていた侍従も、僕達と一緒に来た孤児院のメンバーも一斉に僕の事を驚いた様子で見ている。
動きがないのは、ギルドマスターと一緒に来た豪華な鎧を着ている騎士、そして苦しそうにしている女性だけだった。
僕はギルドマスターに顔を向けると、ギルドマスターは小さく頷いた。
「え、クロちゃんのお母さん?」
「クロノ、一体どういう事だ?」
アンナお姉ちゃんとゴレスお兄ちゃんが何か言っているけど、答えている暇はない。
僕には直ぐにわかった。
この苦しんでいる人が、僕のお母さんだ。
僕は直ぐにお母さんを鑑定する。
すると、直ぐに毒の原因が掴めた。
「ギルドマスター、遅効性の毒が二つ使われています。王妃と宰相って出てきています」
「クロノ、よくやった。これで奴らを徹底的にやり込めるぞ」
心なしか、ギルドマスターだけでなく女性を心配していた中年夫妻からも怒りの気配が増している様な気がする。
でも、今は後だ。
「ドリーお姉ちゃん」
「はい、クロちゃん。クロノが飲ませてあげてね」
「うん」
「クロちゃんと私が作ったのだから大丈夫よ。慌てないで、一回深呼吸してからね」
「有難う、ドリーお姉ちゃん」
流石はドリーお姉ちゃんだ。
いつもの冷静さを取り戻して、僕に的確なアドバイスをしてくれた。
ふうと深呼吸してから、僕は強力な毒消しポーションの入った瓶のコルクを抜いた。
大丈夫、万が一こぼしてもあと三本あるんだ。
僕はお母さんの口に、そーっと強力な毒消しポーションを流し込んだ。
うん、お母さんもごくごくと飲んでくれた。
頼む、効いてくれ。
そんな祈る様な気持ちで、お母さんの様子を見ていく。
段々とお母さんの顔色が良くなってきて、呼吸も安定してきた。
「ギルドマスター、上手く解毒された様です」
「そうか、それは良かった」
改めてお母さんを鑑定したら、毒が消えていたのが確認できた。
ギルドマスターに報告してホッとしていたら、お母さんがうっすらと目を開けたのだ。
「クロノ、クロノ……」
毒で苦しんでいた為かか細い声だったが、お母さんはしっかりと僕の方を向いて僕の名前を呼んでくれた。
「お母さん!」
僕は目の前がぐしゃぐしゃになり、思わずお母さんの胸元に顔を埋めた。
そんな僕の頭を、お母さんが優しく撫でてくれた。
僕は、ようやくお母さんに会えたんだ。
そう思うと、涙が止まらなかった。