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第十七話 兄アルス、苦渋の決断

「ふう、全く私は情けない兄だな……」

「そんな事はありません。兄上はよくやっています。今回の事も国の腐敗による物です」


 私、アルスは明日に迫った宣誓とは別件の対応に追われていた。

 事は、数日前に私達兄弟が毒におかされた事に遡る。

 忌々しい事に、王妃が弟カーターと妹スカーレットとリリアンを、そして宰相が私の事を亡き者にする為に強力な毒を盛ったのだった。

 私達には毒見役もいるのだが、毒見役も賄賂で抱き込んでいたのだ。

 私達に盛られた毒はかなり強力で、手持ちの毒消しポーションでは解毒できず、軍務卿より提供された弟のクロノが作成したという強力な毒消しポーションで一命を取り留めたのだ。


 クロノの作った強力な毒消しポーションは凄いとしか言いようがない。

 強力な毒を解毒するだけでなく、父の葬儀に向けて、そして国を良くする為に夜遅くまで働いて疲労していた私の体も癒してくれたのだ。

 それと同時に起こったある懸念、なぜ軍務卿は王都の薬師ギルドが作ったポーションや毒消しポーションを使わなかったのか。

 後で軍務卿から聞いたのだが、最初に私に投与されて一時期良くなった毒消しポーションもクロノが作った物だった。

 王都の薬師ギルドが作ったポーションや毒消しポーションは、クロノの作ったポーションや毒消しポーションと比較しても全く役に立たないと聞いた。

 軍が原因を把握していて、そこには汚い金の流れがあったのだ。

 薬師ギルドの幹部が質の悪い薬草と毒消し草を使用して粗悪な物を作り上げる様に指示を出し、差分で得た金で贅沢をしつつ王妃と宰相に賄賂として送っていた事が判明したのだ。

 粗悪なポーションは効果が薄く、その粗悪なポーションが宮殿や市中に出回っていたのだ。

 道理でここ数年、王都の市民の死亡率が通常よりも高かった訳だ。

 粗悪なポーションを作り始めたのは、クロノが捨てられたのとほぼ同時期。

 そして、それまで普通に作られていたポーションの在庫が無くなり、粗悪なポーションが広まったという。

 しかも市民からのポーション改善の陳情を揉み消す為に、薬師ギルドの幹部は更に王妃と宰相に賄賂を贈っていた。

 薬師本来の業務を忘れて贅沢の為に人命を軽視するという、とんでもない大罪だ。


 しかし、今この時点で薬師ギルドへ私達が動くのは非常に危険だ。

 宣誓を過ぎれば大きく状況が変わるのだが、悠長に待ってはいられない。

 私はギルドを通じて、止む無くクロノにポーションの増産をお願いしたのだ。

 先ずは葬儀で来る外国の来賓に対応できる分を確保し、更には宮殿内のポーションを廃棄してクロノのポーションに置き換える。

 クロノは頑張ってポーションを作ってくれたので、冒険者ギルドを通じて市中にクロノの作ったポーションを可能な限り流した。

 クロノはまるでこちらの考えを読んでいるかの様で、可能な限りの増産に対応してくれた。

 そして、王都はクロノのポーションのお陰で一息つく事ができたのだ。

 正直な所、クロノのなしえた功績は計り知れない程大きい。

 私は救わなければならない、未だ会えていない弟に逆に私が救われてしまったのだ。

 私は情けないなあと、椅子にもたれながらそんな事を考えていた。

 私のそばにいるカーターも、私と同じく苦笑した表情だった。


 そんな時、信じられない情報が入ってきた。

 私の部屋に、妹達と近衛騎士団長が慌てて駆け込んで来た。


「お兄様、大変です」

「先生が、マーガレット先生が強力な毒を盛られました!」

「「なに!」」


 スカーレットとリリアンの報告に、私とカーターは立ち上がって叫んでしまった。

 先生は明日の宣誓に向けて宮殿が忙しくしているので、今日は実家の王都の男爵邸にいるはずだ。

 先生にこんな非道な事をするのは、王妃と宰相の二人しかいない。

 私達の殺害に失敗したので、私達の大事な人の殺害に切り替えたのだろう。

 そうして、王妃と宰相はこちらに従えと私達を脅すつもりなんだ。

 私とカーターは、怒りで鬼の形相になっているだろう。


「マーガレット様はクロノ様の毒消しポーションによって小康状態を保っております。しかし、完治するには殿下をお救いしたクロノ様の強力な毒消しポーションが必要です」

「しかし、私の手元にはもう強力な毒消しポーションがない」


 私は考え込んでしまった。

 マーガレット先生の現在の状態を脱する為には、クロノの助けがどうしても必要だ。

 しかしそれでは、クロノを王妃と宰相からの危険な目に合わせる可能性がある。

 ここで、カーターの方を見ると仕方ないと頷いていた。

 やはりここは申し訳ないが、クロノの力を借りるしかなさそうだ。


「騎士団長、早馬をバンザス男爵領のギルドへ。ギルドマスター経由でクロノへ強力な毒消しポーションを作成する様に依頼を」

「畏まりました。おい、この手紙を直ぐにバンザス男爵領のギルドマスターへ届けるのだ」

「はっ」


 私は急いでギルドマスター宛に手紙を書いて、近衛騎士団長に渡した。

 近衛騎士団長は、直ぐに配下の騎士に手紙を渡した。


「そして、クロノを先生の元へ連れていく手筈をしてくれ。クロノと一緒に住んでいる家族と共に。警備も厳重にな」

「畏まりました。直ぐに手配します」


 予定よりも少し早くクロノを呼び寄せる事になったが、こればかりは致し方ない。

 逆に私がクロノの存在を使うようになってしまい申し訳ない。

 心の中でそう謝りながら、私は明日に向けての準備に取り掛かった。


「カーター、スカーレット、リリアン。マーガレット先生はクロノに任せればきっと大丈夫だ。私は明日に向けて最後の準備をする。悪いが付き合ってくれ」

「はい、分かりました」

「「勿論です」」


 怒りの気持ちをどうにか落ち着かせ、私は立ち上がった。

 王妃に宰相。

 明日、散々非道な事をしてきた報いをその身で受けて貰おう。

 二人とも、覚悟するのだ。

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