第百二十一話 バンザス領へ出発です
そして、いよいよ僕たちがバンザス領に出発する日がやってきました。
一週間の予定とはいえ、やることはたくさんあります。
その辺は、マーサさんがまとめてくれているので安心ですね。
「クロノ、体に気をつけるのよ。何かあったら、直ぐに連絡をしてね」
お母さんが、僕のことをギュッと抱きしめながら色々と言ってきました。
僕は大丈夫だから、心配しないでね。
無事に帰ってくるよ。
「やっぱり一緒に行きたかったなあ……」
「本当に気をつけてね」
スカーレット姉様とリリアン姉様も、僕のことを心配そうに抱きしめていました。
とはいえ、姉様たちにはお母さんの勉強が待っているもんね。
そして、僕たちはバンザス領に向かう軍の護衛を受けることになりました。
ちなみに、全員ライラちゃんチェックオッケーです。
ということで、僕たちは大きな二台の馬車に乗り込みました。
僕とマーサさん、それにライラちゃんとゴードンお兄ちゃんとゴレスお兄ちゃんが一緒に乗って、アンナお姉ちゃんたちがもう一台の馬車に乗り込みました。
「じゃあ、行ってきます!」
「いってきまーす!」
「気をつけて行ってくるのよ」
僕は、ライラちゃんと一緒に馬車の窓からお母さんたちに手を振りました。
そして、馬車の前後を軍に守られながら王都を出て街道を進み始めました。
「そういえば、一年前に王都に来た時は色々あってあんまり周りの景色を見ていなかったんだよなあ」
「そういえば、あの時は緊急事態だったもんな。まあ、暫く街道の両脇を森が囲んでいる景色が続くぞ」
僕の呟きにゴレスお兄ちゃんが返事をしてくれたけど、ゴレスお兄ちゃんはアンナお姉ちゃんと一緒に孤児院に荷物を取りに行っているもんね。
昔は結構危険な街道だったみたいだけど、今は定期的に軍が街道の害獣駆除をしているので随分と安全になったそうです。
そして、たまに休憩を取りつつ予定通りにお昼前にバンザス領に到着しました。
「わあ、何だか懐かしいなあ」
「あっ、おうちがなくなっているよ!」
馬車の窓から町並みを眺めていたけど、ライラちゃんが直ぐに孤児院が跡形もなくなくなっているのを見つけました。
孤児院はボロボロだったから解体すると聞いていたけど、こうして実際になくなっているのをみるとちょっと寂しいね。
そして、僕たちを乗せた馬車は無事に旧男爵家の屋敷前に到着しました。
すると、僕たちのことをこの人が出迎えてくれました。
「弟殿下、無事に着いたみたいだね」
「あっ、カルメンさん!」
「弟殿下がたくさんポーションを作ってくれたから、本当に助かったわ。まずは部屋に入ってゆっくりとしてきなさいね」
カルメンさんは、旧男爵家の屋敷の一部を使って運営している治療研究所の所長さんです。
実質的にこの屋敷も管理していて、男爵家時代に働いていた使用人も今も働いているそうです。
僕たちは、その使用人の案内で泊まる部屋に案内されました。
男子部屋と女子部屋に分かれて泊まる予定です。
「ライラはこっちがいいー!」
ライラちゃんは、ゴードンお兄ちゃんと手を繋いだまま男子部屋に入ってきました。
そして、マーサさんも部屋に入ってきました。
「では、少しお休みになられたら昼食となります。その後は、この治療研究所を見てから冒険者ギルドに向かいます」
「はーい!」
マーサさんの説明に、僕よりも先にライラちゃんが元気よく手をあげていました。
ずっと馬車に乗っていてちょっと疲れちゃったので、少しだけベッドに横になって休むことにしました。