第十一話 兄の計画第一弾の実行
「殿下! 殿下! 陛下が、陛下がお亡くなりになりました!」
「そっか、そうか。父が亡くなったか」
「いよいよですね、兄上」
夜も遅くなった宮殿の一室。
私アルスは、弟のカーターと妹のスカーレットとリリアンと共に、間もなく訪れるであろう父の死に向けて話をしていた。
正に会議の最中に、その父の死が報告されたのだ。
数年前よりアルコール依存症と贅沢による様々な疾患が進行し、特にここ数か月は太っていた姿が嘘のように痩せこけてベッドに寝たきりだった。
そして数日前より昏睡状態に陥り、いつ死んでもおかしくない状況だった。
父の死を聞いて、私を含め四人の兄弟に涙はない。
それほどまでに、私達から父そして母と宰相の事が心から離れてしまっていたのだ。
放蕩王と悪評名高い父。
そして、父の死期が近い事を悟って我が物顔でやりたい放題している王妃と宰相。
私とカーターのどちらかを王位につける事に熱中し、結果として内政も疎かにしている。
こんな馬鹿者に国の舵取りを任せるつもりはない。
「では、手筈通りに動くとしよう」
「ああ、直ぐにやろう」
私とカーターは、お互いに顔を見合わせて決意を語り合う。
すると、私に妹が話しかけてきた。
「「もう少しで、弟くんと会えるのかな?」」
「会えるさ。私もクロノと会いたし、先生にも合わせてやりたい」
スカーレットとリリアンは息ぴったりに弟の事を話してきた。
マーガレット先生と父との間にできた弟、クロノ。
生まれて直ぐに王妃と宰相の圧力により、マーガレット先生は生まれた直後の我が子を泣く泣く森に捨てなければならなかった。
幸いにも、たまたますぐ側にいた冒険者によってクロノは助け出され、バンザス男爵領の孤児院に預けられた。
しかしバンザス男爵の不正な領地経営と孤児院を経営する院長の不可解な行動の煽りを受け、クロノを含む孤児院で暮らす者はとても貧しい暮らしをしているという。
クロノを助けたというギルドマスターを通じて可能な範囲の支援は行なっていたが、あまりにも不憫でならない。
しかし、今クロノの事で動くのは危険だ。
慎重に動かなくてはならない。
王妃と宰相に見つかると、クロノは確実に殺害されるだろう。
それだけはなんとしてでも避けなければならない。
「よし、行くぞ」
「「「はい」」」
私達は、気持ちを切り替えて父の遺体が安置されている寝室へと向かった。
父の寝室の前では多くの職員が慌ただしく動いている。
夜遅くまで沢山の職員が宮殿に残っているのだが、それは父がいつ死んでもおかしくない状況だったからだ。
その中の何人かが、私達の存在に気がついた。
「殿下がお通りになられる」
「道を開けろ」
「殿下に礼!」
作業をしている手を止めて僕達に一礼をする職員。
「手を止めてしまってすまない。作業を続けてくれ」
「「「はっ」」」
私は一礼を受けた後、直ぐに職員の作業を再開させた。
直ぐに作業を行わせないと、この職員達は私達の即位まで働き通しになるのだ。
ある程度配慮してやらないといけない。
そして私達は父の寝室に入る。
父は既に死装束に着替えていて、遺体保存の為に氷魔法で凍結処理を施されて棺の中に安置されている。
いつ死ぬかという状態だったので、この辺りの準備は既に万全に整っていた。
というか、私とカーターが直ぐに動けるように手配していたのだ。
「うう、あなた……。うう……」
「陛下、うう……」
そして、棺に寄り添うように泣いている王妃と宰相。
宰相もそうだが、我が母ながら王妃も演技が上手だこと。
泣いている様に見えて、実際には二人とも口角が上がっているのをツッコみたくなった。
そりゃそうだろう。
二人にとっても待ちに待った父の、国王の死なのだから。
私を、カーターを次期王位につけたくてたまらない二人にとって、ここからが本当に色々と活動するタイミングなのだろう。
しかし、二人の自由にはさせないぞ。
まず、僕達は棺の前で膝まつき父に祈りを捧げる。
こんな父でも亡くなったのだ、冥福を祈るのは常識だ。
カーターもスカーレットもリリアンも、父の冥福を祈っている。
そして僕達は立ち上がり、王妃と宰相に向き直った。
「母上、宰相閣下。父の葬儀は私達兄弟で仕切ります。私達の王位を巡り様々な憶測が流れているのは承知していますが、今はそれどころではありません」
「国内が揺れている事を諸外国に知れ渡ったりしたら、それこそ国の存亡の危機です。色々思いはあるかと思いますが、ここは一致団結をして父の葬儀を行う必要があります」
「そ、それは……」
「い、いや、しかしだね」
やはりというか、王妃と宰相は私達のどちらかに葬式を任せて、どちらが後継者かを国内外に示したいと思っていた様だ。
その手には乗るつもりはない。
というか、そんな事をおこなったら、益々内政が遅延してしまう。
「国外からも来賓が来られます。不穏な憶測を呼ぶ事は避けるべきです」
「私達も精一杯お手伝い致します」
「「うぐ……」」
妹の言葉に、王妃と宰相はぐうの音も出てこない。
結局はこの程度の事しか考えられない様だ。
というか裏で色々と情報を集めていたが、この二人は私とカーターのどちらかに葬儀を任せるだけで、実際の葬儀のプランを全く考えていなかったのだ。
どうせ、お気に入りの官僚や貴族に丸投げする気だったのだろう。
あと、至極当たり前の事をこの二人に通告しないと。
「母上、宰相閣下。国王不在となりましたので、国内法に則り王位継承権一位の私が臨時の国王代理者となります」
「私も国王代理者補佐として、兄上を補佐いたします」
「「私も兄上をお助けいたします」」
「「ぐっ……」」
当たり前の事を当たり前の様に話しただけで、この二人は反論できないのだ。
今までまともな事をやっていなかったのだから。
こうして私達は、計画の第一弾の父の葬式の掌握をする事に成功したのだった。