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第一話 新たな命の誕生

「おぎゃあ、おぎゃあ」

「マーガレット様、本当に元気な男の子がお生まれになりました」

「そうですか。男の子、ですか」


 アイマール王国。

 王制をしき、王が国を統治する国だ。

 国の周囲を他国と接し、以前は他国と覇権を争った結果戦争が絶えない国だった。

 五十年前に停戦協定が周囲の国と結ばれ、一見平和が訪れている様にも見えた。

 しかしながら王の周囲の放蕩政治の為に国の財政は傾き、更には貴族もぜいたくな暮らしを改めないでいる。

 税などの負担により多くの国の民が貧困に苦しむ、貴族主義が蔓延る国だ。

 そんなアイマール王国の王都に存在する宮殿の一室で、新たな命が誕生した。

 王と貴族令嬢との子で、男子として生まれたので王位継承権を持つ事になる。

 本来であれば皆に祝福されるべき新たな命の誕生なのだが、王位継承権を持つ事により複雑な状況になっていく。

 母親も生まれた子が男児だった場合、決して全ての人に祝福されない事は十分に理解していた。


「ふん、寄りによって生まれたのが男とは。これは面倒な事だわ。我が子アルスの将来の王としての地位が脅かされない様に、何とか早めに手を打たないと」


 赤ん坊が生まれた宮殿の別の一室。

 そこでは、濃い茶髪の髪を編み込み、濃い化粧をして豪華な服を着た中年女性が歯ぎしりをしながら考えを巡らせていた。


 アイマール王国王妃、ジュリアン。


 息子を次期王位に付ける事に執着している、欲の深い女性。

 王妃という地位もさることながら元々公爵家の出身というのもあり、正に貴族としてのプライドの塊の女性でもある。

 当然の如く、自身が生んだ息子アルスを王位につける事に並々ならぬ意欲を見せており、自身の理想の実現に向けて、陰で汚い事を平然と行っていた。

 新たな王妃の噂が立った貴族令嬢を秘密裏に殺害したり、自身の影響が及ぶ貴族を重要なポストにつかせるために人事権に介入していた。

 強大な影響力を持っていた為に賄賂も数多く受け取っており、贅沢三昧の暮らしをしている。

 そんな彼女が、今行わなければならない事。

 それは新たに生まれた王位継承権を持った男児を、どうにかする事だった。

 

「さっさと赤子を殺すか捨てるか。カーターの存在に邪魔なものは消すに限る」


 時を同じくして、赤ん坊が生まれた宮殿の別の一室。

 白髪が多く混じった銀髪の髪をオールバックにし、細身の長身でありながら苦々しい顔をした老人が、王の臣下としてあってはならない言葉を発していた。


 アイマール王国宰相、ゴルゴン。


 無能な王に長らく仕えている国の中枢にいる人物だが、黒い欲望を隠さない人物だった。

 放蕩政治を行っている張本人で、王妃と共に実質的な国の実権を握っている。

 自身の権力拡大の為に娘を王の側室にし、結果として王子と双子の王女の孫が生まれた。

 しかし、元来病弱だった娘は双子の王女を生んだ直後に亡くなった。

 だが、この男にとっては娘の死など、どうでも良かった。

 王位継承候補に政略結婚の駒として仕える王女がいれば、男にとって何も問題がなかった。

 そしてこの男も、自身の孫である王子カーターを王に据える為に様々な工作を行っていた。

 宰相という地位を利用し、様々な不正を行っていた。

 更には、自分にとって不都合な貴族を無実の罪で潰したりもした。

 宰相も実権を握った事により、多くの賄賂を受け取っている。

 豪華な暮らしをしているのだが、それでも欲は尽きない。

 そんな宰相の前に、王位継承権を持った別の子どもが生まれたのだ。


 アイマール王国国王、アーサー


 アイマール王国のトップにして、王妃そして宰相の暴走を許した張本人である。

 幼いころから勉強が嫌いで、それでいて周りも教育を進めなかった結果、政治的関心に一切興味を示さない大人として成長した。

 これは当人が四男の為で、上に優秀な兄がいた為に許された事だった。

 しかしながらこの無能な大人は、相次いだ兄の死により突如として王として即位する事になった。

 当然の如く無能な王は政治に一切の興味を示さず、自身の欲望のおもむくままに酒と女に溺れる日々を送っていく。

 王の欲は凄まじく、宮殿に出入りする女性に見境なく手を出した。

 勿論王は王という権力を利用し、女性に有無を言わせなかった。

 一部の侍従は、王に手を出されまいとわざとみすぼらしい格好をした程だった。

 しかし、王はいくら女性に手を出しても王妃と側室以外に子どもはできなかった。

 実は王の精子には先天性の機能不全があり、女性が妊娠する可能性はかなり低かった。

 

「王妃と側室の子も、本当に王の子か?」

 

 宮殿内に限らず、王都ではそんな噂さえ流れていた。

 その為に、いつしか種無し王と陰で言われる様になった。

 

 そんな中、新たに王の子を宿した女性が現れた。

 王子と王女の教育係として呼ばれた、とある男爵家の娘だった。

 眉目秀麗で聡明な成人したての若い女性を、色欲魔の王が放っておく訳がない。

 ここでも王は、自身の権力を使い教育係に手を出した。

 そして運命のいたずらなのか、教育係は王の子を宿したのだった。


 教育係の妊娠が発覚した際王妃と宰相はたいそう慌てたが、やがて両者とも出産まで様子を見ることにしようとの判断に至った。

 教育係から生まれるのが女なら、政治的な利用価値があると判断したのだ。

 他国の王子に嫁がせたり、国内の有力な貴族に嫁がせる事ができる。

 あくまでも人ではなく、自分の権力を更に増大できる物としてみていた。

 また、王がアルコール依存と元来の不摂生の為に、とうとう男性機能を喪失したのも判断材料となった。

 これ以上王の子が増える事はない、そういう事になったのだ。

 こうして両者の考えがめぐる中、教育係は出産を迎える事となる。


 しかし、教育係が生んだのは男だった。

 しかも下級貴族の男爵とはいえ、教育係は貴族子女である。

 王と貴族子女の間に生まれた為、この国の法律により生まれた男児は王位継承権を持つ事になったのだ。


 「「教育係が生んだ男子をどうにかしないといけない」」


 今更になって、王妃と宰相は慌てる事態に。

 そこで次期王位を巡って犬猿の仲であった王妃と宰相は、生まれた男児の件で近づく事になる。


「どうか、この子に幸せな未来があらんことを」


 母親である教育係は、生んだ男児の将来を憂いていた。

 自分にはこの子の運命をどうする事もできないと、自身が聡明なだけに分かってしまうのだった。

 思わず涙が溢れてくるが、横を向けば無邪気な顔が教育係を覗き込んでいる。


「あうあう……」


 母親の思いとは裏腹に、無邪気に母親を見つめている男児。

 そんな男児を中心として、物語は動き始めます。

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