邂逅
葵は満足気に私の手を握った後に手を離す
葵「あなたってなんというか色々…歪ね…さっきまで死にたがってたと思ったら「やるよ」って強い口調になったり…」
私「まあ…元々虐げられてた影響で少し自分がわかんなくなってね…嫌かい?」
葵「ううん?全然いいわよ…私もよく口調が乱れるしね…」
私はCDを止めて曲を入れ替える
葵「あなたって落ち着いた感じの曲が好きなのね…」
私「激しい曲…ハードコアとかも好きだけど車で聞くならやっぱり落ち着いた曲が好きだね…葵は?」
葵「私もまあ落ち着いた曲が好きよ。」
私「なら良かった…」
椅子の背もたれを思いっきり倒す
眼前にはやはり星が広がっており、無数の星は私たちを包み込んでくれるかのようだ
葵「ねぇ?」
私「んー?」
葵「なんで買われたの?」
葵も背もたれを倒す
後ろの荷物がガラガラと音を立てる
私 (うあー…後で直さなきゃ…)
後ろを見るとやはり、荷物は崩れていた
葵「あー、ごめんね?」
私「まあいいよ…んで?なんで買われたのって?」
葵「えぇ…ぶっちゃけ私怪しくない?」
私「まあ…うん。」
葵「怖くないの?」
私「怖くはないな…まあ怪しさはあるけどね…」
後ろの荷物から缶コーヒーを一つ手に取る
私「紅茶?コーヒー?」
葵「いいの?紅茶ちょうだい。」
紅茶の缶を手に取って葵に渡す
蓋を開けるとよく振ったからかプシュッといい音がなる
私 (うま…)
葵「これ美味しいわね…」
私「口にあったようでよかったよ。」
私たちは黙って飲み物を飲む
私「なぁ」
葵「なに?」
私「お前何もんだ?」
葵のほうを向く
葵「なに?どういうこと?」
私「なんで葵はここにいる?」
葵「まあ散歩しに来たらお兄さんがいたからね…」
私「なんで死にたいとわかった?」
葵「そりゃあ死に持ってかれそうだったから…」
私「なんで心を読んだ?」
葵「そりゃあ顔を見たらわかるわよ?」
私「なんで私を買う?」
葵「死にそうだっからね…」
私「葵」
葵をじっと見つめる
葵は私の目をじっと見つめ返す
葵「…はぁ」
葵は一つため息をついて諦めた顔をして言う
葵「そうよ…私は人間じゃないわ…」
私(え…?)
葵「え?」
心臓がドクンとなる
葵「あー…やられたわね…」
私(人じゃない…?殺される?)
私は動悸が激しくなる
葵「ふふ…バレちゃったわね…」
葵の後ろからなにか分からないが圧というか人ならざる気配を感じる
私「や…やめ…」
葵「人肉って美味しいのよね…」
葵は私の肩を掴む
動こうとするが動けない
脳は動けと命令をだすが全く動かない
圧迫感を感じて息を吸えない
私(死ぬ…)
死を覚悟する
葵「さっき死にたいって言ったのになんでニゲルノ…?」
葵は私の方をがっちりと掴み顔を徐々に近づける
私「っ…」
私(初めて…私を見てくれたと…)
目を閉じる
私(死にたくない…)
目の前からは圧迫感があり、現代では感じることの無い感覚を味わう
私(死ぬんだ…)
頭を叩かれる
しかし痛みはなく、ただ手が当てられただけだった
目を開けると葵がニヤニヤしながらこっちを見る
チョップをされていた
葵「ふふ…殺さないわよ…」
葵から出ていた人ならざる謎の圧は消えており、葵はさっきと何ら変わらなかった
私「っ…はぁ!!」
呼吸をする
酸素が肺に入っていく
私(死んだと思った…)
葵「ねぇ」
私「はぁ…なに?」
葵「私は人じゃないわ」
葵は私から離れる
葵「私は怖い?」
葵は私の顔を見て聞いてくる
表情は少し脅えていた
私「…」
コーヒーを一口飲んで言う
私「怖くない」
葵「…へぇ」
私「私を生かしてくれるんだろ?」
葵「私は人を殺すくらいの力はあるわ…」
私「殺したことは?」
葵「ないわよ…する気もない…」
私「ならいいじゃん…」
葵「…」
私「もし人を殺したなら少し怖いけど…葵は私を生かすんでしょ?」
葵「…」
私「もし殺すんならこんな私はいい食料だ…けどむしろ救ってくれた…さっき死にたくないと思った…」
葵に対して恐怖心は感じていなかった
私「だから怖くないよ…」
葵「…そう」
葵はそっぽをむく
私「少し休ませて…」
葵「勝手にして。」
動悸を整えるついでに新鮮な空気を吸うために車から出る
景色はもうほぼ真っ暗で月明かりだけが私を照らす
私「…」
私(本当に人外だった…)
正直なにか違和感は覚えていた
ここにいること、死にたいと見抜かれたことなど小さな違和感だった
私「はぁ…」
私(にしても人じゃないか…)
恐怖心はない
むしろほんの少しだけの希望を覚えていた
私(それに死にたくないと思った…さっきまで死ぬ気だったのに…)
私は寝っ転がる
星は相変わらず私を包み込む
私 (これからどうしようか…)
ボーッと上を向いて考える