嘘
教授「…これはどういうことだ?」
私「えーと…」
冷や汗が止まらない
教授は足を組んで椅子に深く座りこちらを見ている
家を出たあと私たちは電車に乗って大学に向かった
別に遅刻をしているわけでも教授に不遜な態度をとった訳でもない
教授「…なんで増えている?」
教授は怪訝そうにこちらを見ている
私「…実は昨日一匹来ていたじゃないですか」
教授「そうだな」
私「もう一匹ついてきちゃって…」
教授「…はぁ」
葵は私の膝の上でピンと背をのばし立っていて、リンは丸くなって眠っていた
教授「はぁ…注目を集める覚悟はしておくんだな」
教授はため息をついて紅茶を飲む
私「すいません…」
教授「その黄色い毛の子は?」
私「葵って言います…この子も聞き分けはめっちゃいいです」
教授「まあ見てわかる…君以外の人間にはどうなんだ?」
私「どう…とは?」
教授「なんだ…昨日のリンちゃんは私が撫でようとしただけで威嚇したじゃないか…」
私「あー…」
葵の背中を毛並みをなぞるように撫でる
葵は私の手に頬を擦り付ける
教授「葵ちゃんを撫でていいか?」
私「まあ私はいいですけど…」
教授がこちらに手を伸ばす
葵「ぐるる…」
葵は毛を逆立てて教授を威嚇する
教授「…ダメみたいだな」
私「すいません…」
教授は諦めたように自身の椅子に戻る
私[葵って人に対して気を許してたよな…]
買い物に行った時に割と許していたと思いかえす
教授「ふむ…少しだけ実験をしてもいいか?」
私「実験…ですか?」
私[解剖とかなら絶対無理だぞ…?]
思わず葵とリンを庇うように抱き抱えてしまう
リン「にゃ…」
教授「いや、そう警戒はするな…助手に撫でて貰うだけだ…」
私「はぁ…?」
実験の意図が分からない
教授「いや、私が嫌われてるのか試したいんだ…」
私「まあそれなら…」
抱き抱えるのを辞めるが葵は離れない
そしてリンは私の左手にしっぽを巻き付ける
私[どうしよ…]
右手で葵を抱き抱え、左手でリンを撫でる
教授「…なんというかすごい君は懐かれてるな」
私「まあ、私も少し驚きです…」
私[二人とも関係が浅いしここまで懐かれてるのはわからんよな…]
教授「家ではそんな感じじゃないのか?」
私[やべ]
私「家だと割と自由気ままなので…」
教授「環境が変わったからじゃないか?」
私「なるほど…」
「教授!!」
バン!!と扉を開いて誰かが勢いよく入ってくる
葵、リン「…!!」
葵とリンが体をびくっと震わせる
教授「お客さんが来てるのにもう少し行儀良く入っては来れないのか?」
「あぁ…すいません…」
入ってきたのはパッと見普通の大学生のようだった
標準体型で背丈は少し長く、ピシッとした青と白のチャックのTシャツに茶色のパンツという地味な感じの服装をしていた
「んな事より教授!!いまあなたの代わりに講義をしてたのに急に呼び出すってどういうことですか!!」
教授「まあ落ち着きたまえ…助手よ…紅茶でも飲むか?」
「飲みません!!」
笑[騒がしい人だ…この教授変な人だし振り回されてるんだろうか…]
教授「なら要件をさっさとすますか…そこに2匹の猫が居るだろ?」
「え…?あ、可愛い…」
教授「撫でていいぞ」
「え?いいんですか?」
教授「あぁ。いいよな?」
教授は私に目配せをする
私「大丈夫ですよ?」
葵とリンは助手と呼ばれた男をじっと見つめていた
「なら失礼して…」
助手が手を伸ばすと
葵、リン「ぐるぐるぐる…」
二匹とも助手に対して威嚇をする
教授「なるほどな…」
「えーと…」
教授「どうやらダメらしいな…すまないな講義に戻ってくれ」
「はぁ…分かりました…」
助手は首を傾げながらも研究室を出ていく
教授「どうやら君以外には撫でることも許してないようだね…」
私「ですね…」
葵とリンを撫でる
二匹とも気持ち良さそうにしている
教授「いや、面白いものを見れた…」
私「あの人って…」
教授「助手だよ…彼に今日の講義を任せてある」
私「…」
私[助手さんに申し訳が立たない…]
心の中で助手の方に謝る
教授「まあ、君の猫2匹が君に懐いてて君以外にはあまり懐かないというのがわかった…」
私「これに関しては私もびっくりしました…」
教授「だな…まあ君には懐いてるし赤の他人にも撫でたり近づかなければ何かをする訳でもない…これがわかったからよしとしよう…」
教授は私の前に紅茶を置く
教授「ちなみにこの大学は割と自由な風貌なのは分かるよな?」
私「えぇ。自主性に任せているというか…放任主義というか…」
紅茶を一口飲む
教授「ほかの教授や講師に聞いたんだが動物を持ってきている人間はいる。そして害がなければ別にいいらしい。」
私[いたんだ…]
教授「だから特に持ってくるなとは言わない…好きにしなさい」
私「ありがとうございます…」
教授「さてと…」
教授から圧を感じる
教授「本題に入ろう」
私「…はい」
教授「どうして最近休んでいた?」
私「…」
教授「先に言っておくが、これを言えばこれまで休んだ分の補填はしてやろうと思う」
私「っ…」
教授「なに…何も誰かに言う訳では無い。単に私の興味だ…君という人間に対するね」
私「ハラスメントに当たらないんですか?」
教授「別に聞かなかったら私は何もしないよ…君の成績もね?」
私「…」
私[単位は取れるとはいえギリギリか…]
私「誰にも言わないでくださいよ?」
教授「あぁ…約束しよう」
私「…死のうとしてました」
教授「…ふむ」
私「私はみんなに疎まれて嫌われて疲れました…それでもなんとかなると思って生きてきたんですけど…ダメでした」
教授「…」
私「大学でも信頼できる人は一人もいなくて周りの学生からはなんか睨まれて…もう無理だと…事切れました…」
涙が出てくる
私「大学を休んで休暇的な感じで引きこもってたんですけど…なんか事切れて…山奥に行ったんです…星がめちゃくちゃ綺麗でした…」
教授「葵とリンちゃんを放置して死のうとしたのか…?」
私「いえ…この子らは山で拾いました…なのでまだ飼って2日目とかです…」
教授「…」
私「首輪はなく、あんな山奥にいる猫なので…そしたらこの子達は私の膝に乗って寝たんです…暖かくて…そしたらなんか死ぬ気が減ってきて…」
教授「…」
私「なので本当に死のうとしてました…けどもう少しだけ頑張ろうと…」
教授「そうか…」
葵とリンを撫でる
二匹は私の手にしっぽをまきつけて私の手を頭に持っていく
教授「君が久々に来た時に顔がだいぶ晴れやかというか憑き物がとれてたのはそういうことだったか…」
私「はい…」
教授「まあなんだ…その2匹に感謝しとけ…」
私「ぐずっ…はい…」
ただただ涙があふれる
教授には嘘をついたが、葵があの場にいなければ死のうとしていた
その感謝の気持ちでいっぱいになる
私[ありがとう…葵…リン…]
教授「…君は感情豊かだったんだな」
教授は紅茶を1口飲む
どこかその目は穏やかだった




