夕暮れ
太陽の男神と天空の女神は、仲睦まじい夫婦であった。
この緑豊かな大地に存在する全てのものは二神の子供たちだ。
昼が一番長い夏至の日は二神が初めて出会った日と言われており、それにちなみ若者たちの成人の祭りが行われる。
今年で成人の祭りに参加出来る十五歳になった少女、ミササリが暮らすこの村でも、他の村と合わせて、毎年祭りを行っていた。
「いよいよ、明日ね」
ミササリは、見晴らしのよい高台に立ち、祭りの際に火が焚かれる平地に木を組む大人たちを眺めながら、浮き足立つ気持ちを押さえながら言った。
太陽は傾き、遠くの山にゆっくりと隠れはじめており、段々と濃く赤くなっていく空が、まるで火の色のようだ。
ミササリは去年、祭りの様子をこの高台から眺めていた。
伝統的な衣装に身を包んだ男女の姿が、どんなに羨ましかったことか。
「もう準備は出来たのかい」
隣に立っていた男、サリータに、ミササリは風でなびく長い髪を押さえながら、嬉しいそうに頷いた。
サリータはミササリのひとつ歳上で同じ村に住む幼馴染みだ。
「完璧よ。衣装も出来上がっているし、髪紐も綺麗に編めたし、首飾りもさっきもらったわ。私の衣装楽しみにしてて」
ミササリは少し頬を赤らめながら、サリータに笑いかけた。
サリータも優しく目を細める。
「ああ。楽しみだよ。一年も君が十五になるのを待ってたんだ」
この地域では、配偶者を持つことで成人したと見なされる。
成人の祭りとは配偶者を探す祭りなのだ。
男も女も十五歳で参加を許され、配偶者が決まるまで参加し続ける。
再婚は別だが、いつまでも配偶者が決まらず祭りに参加し続けている者は、行き遅れだ、甲斐性なしだとからかわれる。
サリータはミササリのひとつ歳上で、去年祭りに参加したが彼女のために配偶者を決めずにいた。
ミササリとサリータは、物心ついたころから、まるで運命だとでもいうように、想い合っていた。
村の中でも周知の事実で、互いの親達でさえ、この祭りが終われば二人が結婚するのだと思っている。
「明日、太陽が一番高く登ったら、迎えに行くよ」
「私、待ちきれなくて、きっとここに火が焚かれるのを見に来てしまうわ」
サリータが朗らかに声をあげて笑った。
「なら、ここに迎えに来るよ」
ミササリは、サリータのそんな優しいところが大好きだ。
「ありがとう、大好きよ」
「俺もだよ。さあ、暗くなる前に帰ろう」
サリータとミササリは、燃えるような夕陽を背にし、高台を後にした。