ラッキーカラー
テレビの占いってどういう風に決めてるんですかね。本当に占い師を呼んで、占ってもらっているのでしょうか。対象人数がとても多いので、実際のところあまり意味がないというのは、幼稚園の頃から気付いてるもんですよね。
でも、たまに1位になると嬉しく思い、今日という日を好スタートで切れる気がします。そういう目的で占いをするなら、12位とかは発表しなくてもいいのにとも思いますが。
ちなみに、ラッキーカラーとは、身に着けることで効果を発揮するものなのでしょうね。
「今日のラッキーカラーは水色です」
アナウンサーの陽気な声は、出勤の時間が差し迫っていることを知らせた。折角、気持ちの良い朝だったのに、男は、最近別れ話をした彼女のことを思い出す。
彼女の好きな色が水色だったのだ。
彼女は、有名雑誌の専属モデルで、誰もが羨むような美貌をしていた。大学時代から仲が良く、卒業してから交際を始めたが、彼女には問題があった。
日中、5分おきにメールをしないと、すぐに連絡が来たり、男が家に帰ると、すぐに浮気していないかのチェックが入る。
彼女は束縛が激しかったのだ。
うんざりした男は、別れを切り出すが、彼女もなかなか食い下がらない。何時間もの話し合いの末、妥協案として別居することになった。男の方の気持ちが萎えてしまった以上、この方が互いの為だと結論付けたのだ。
彼女も最初は納得しなかったものの、別れるよりは良いということで、男の別居案を受け入れることにしたのだ。
あの選択は間違っていなかったと男は思っている。実際、彼女との別居を始めてから、束縛からの開放感でとても良い気分だった。よく、「失って初めて気づく」なんて言葉を耳にするが、そんなことは無かった。
ただ、別居を始めてもなお、彼女からの連絡が止むことは無かった。前見たく返信こそ求めてはこないものの、仕事の休憩の合間に、とてつもない数の連絡が来ているとうんざりしてしまう。
今朝も既に連絡が十数件入っていた。「別居して十日もたつというのに、彼女も飽きないものだ」と男は感心する。勿論、いい意味ではないが。
朝の支度を終え、玄関を後にする。その時も、彼の携帯は鳴り続けた。メールを拒否してやりたくなったが、彼女のメールを拒否することは、別居時に作ったルールに違反してしまうので、できないことを歯がゆく思う。
会社に着き、デスクに座り、コーヒーを一杯啜る。この瞬間に、彼女からの連絡がないことに、至福すら覚えた。そして「今日はいい日になりそうだ」と心の中で呟く。
昼過ぎ、男は仕事に集中していたが、あることに気付く。
今日は彼女からの連絡が、朝以降パタリと止んでいたのだ。昨日までは、1時間当たり10件は入っていたが、全く何の音沙汰もない。
「携帯を無くしたりでもしたのだろう」
そう思う男だったが、ふと朝のアナウンサーの言葉を思い出した。
「そういえば、ラッキーカラーが水色だったな。皮肉かもしれないが、今朝、彼女のことを思い出したときは、いつも身に着けていた水色のワンピースを着ていたな。もしかしたら、それがよかったのかもしれない」
彼は、水色のワンピースを纏っている彼女の姿を再び想像することで、連絡が来ないことを願うのだった。
それ以降、彼女のことを頭で思い描き続ける。その姿を想像することで、嫌でも水色が出てくるからだ。
「やはりラッキーカラーの力はすごいな」
昼頃に彼女の姿を想像したおかげか、15時になっても連絡は無かった。自分の仕事がここ1か月くらいで一番捗っていることを感じつつも、少しだけ不安な気持ちになった。
今まで絶えず連絡が来ていて、それを煩わしく思っていたが、全く連絡がないとなると心配にもなった。男は彼女のことを思い出し続けていたせいか、次第に何とも言えぬ気持になっていた。
17時になり、退社の時間が来た。やはり彼女からの連絡は無かった。自分でも信じられなかったが、彼女からの連絡が無くなって、彼女の身に何かあったのではと心配になったのだ。
「彼女の姿を想像してしまうから、水色を思い浮かべ、それにより連絡が来ないのだとしたら、彼女を思い浮かべなければいい」
と考えるも、嫌でも脳内に彼女の姿が浮かんでくる。「思わないように」としようとすればするほど、姿がより鮮明に描かれる。一種のジレンマだった。
男は我慢できなくなり、ついに彼女に
「会いたい」
と連絡するのだった。あの煩わしく思えたメールの数々も、今となっては待ち望むものとなっていた。少しだけ、連絡し終わった後に、自分から連絡してしまったことを後悔する。
「今日は本当に調子が狂うな……」
男はラッキーカラーとはなんぞやと思いながら、彼女からの連絡を待ち遠しく思っている自分に、少し腹が立った。
その頃、あるモデルは撮影で忙しく、別居中のボーイフレンドへの連絡ができないことを嘆いていた。あまりにも駄々をこねるので、彼女のマネージャーは、仕方なくメールの返信をさせてあげることにした。本来は撮影に集中してほしかったが、息抜きも必要だと思った。
「昼過ぎまでは携帯を無くすし、見つかってもマネージャーに取り上げられるし、散々な日だったわ」
彼女は愚痴を吐きながら携帯を触る。そして、朝見た番組でやっていた占いを思い出した。
「なにがラッキーカラーは水色よ、全然いいことなかっ......」
その時、彼女は固まった。
大好きな彼から「会いたい」という連絡が来ていたのだ。飛び跳ねる思いを抑えきれず、彼女は彼にメールを送るのだった。
「急にどうしたの?」
「連絡うれしい」
「私も会いたい」
「早く仕事切り上げるね」
今まで彼からは全く連絡がなかったのに、今日に限って連絡をよこしたのだ、しかも「会いたい」と。おそらく、復縁も近いかもしれない。
「やっぱり水色をつけてきてよかった」
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