魔法
「という事で、パーティーを組むのは依頼が終わってからにしてくれないか?」
俺は事情をユミに説明した。
三日後にドラゴン退治に出かけること。
他のパーティーと一緒に行くことなど。
しかし……。
「嫌です! 私も一緒に行きます! 危険なら尚更です、私を盾にも、囮にもしてくださいませ」
いや、そんなこと言われても……。
できるわけないだろう。
「ところでユミ、レベルはどれくらいなの?」
「私は今三十二で、Eランクです!」
絶対駄目だろう……。
俺も人の事を言えた義理じゃないがな。
「エルマ、大丈夫かな?」
「絶対に死ぬわよ!」
「ですよね……」
「死んでも構いません、ショウヤ様のお役に立てるなら!」
俺はそう言い放ったユミの目を見て、この娘には何を言っても無駄だと言うことを悟った。
なんて目をしてるんだよ、年頃の女の娘が。
「分かったよ、俺の降参だ! ユミも連れていこう」
「本当ですか!」
「ショウヤ! 正気なの?」
ユミは喜び、エルマは驚く。
「但し、条件がある!」
「ショウヤ様、何ですか?」
「死なないことだ……」
「えっ!?」
「どんな状況においても、自分の命を最優先にしてくれ」
「でも、私は……」
「どっちかが庇うのではなく、一緒に助け合うのがパーティーだろ」
騙されてるかもしれないが、もし本当に俺を庇って死んだら寝覚めが悪いからな。
とりあえず出発まであと三日、ユミとレベル上げやっていくか。
「よーし、そうと決まれば明日から特訓だ、ユミ! 近場の魔物でレベル上げするぞ!」
「はい、ショウヤ様!」
「はー、大丈夫かしらこの二人……」
俺は二人と別れ宿屋へ帰ろうとする。
道中に町の店を見て回っていた。
その中に『魔導書紙』という看板を見つけた。
これはまさか、魔法か!
とりあえず入ってみよう。
「いらっしゃい!」
「どうも」
俺は中を見て回った。
棚には細かく、びっしりと文字が書かれている紙が置いてある。
小さく魔法陣のようなものも書いてある。
紙の前には説明書きが書いてある。
『治癒魔法』『ファイヤーボール』『ウイングカッター』『ライトニングスピア』『ブレイクボルケーノ』『ホーリーノヴァ』
何かどっかで聞いたような名前だな。
「お客さん、まだ来たばかりかい?」
見かねたお店の主人が話しかけてくる。
「はい、魔法が珍しくてつい見てしまいました」
「転移者には魔法が興味深いらしいからね! なんなら兄ちゃんも買っていってくれよ」
「いや、使い方もまだ分からないんですよ……」
「なんだ、そんなことも知らねぇのか! よし、俺が教えてやる!」
主人は俺の前に一つ紙を持ってきて、話し始める。
「いいか、魔法を使うために必要なのは、その魔法固有の魔法陣と、その魔法その物を表す詠唱が必要だ。それさえ分かれば、誰でも魔法を使える」
なるほど、だいたいゲームやアニメと一緒だな。
「そして、この世界で魔法使いとして生まれた者には、成長とともにその魔法陣と詠唱の言葉が身体の内に刻まれるんだ。だから魔法使いは、レベルアップすると、たまに魔法を覚える。」
それだと、魔法使いが圧倒的に魔法に於ては有利だな。
「内に刻まれた魔法陣と言葉があれば、誰でも詠唱するだけで魔法が発動するんだよ。いちいち魔法陣を書く必要も無いって話だ」
つまり、魔法は誰でも使えるけど、省略して使うなら、身体の内に刻まれてないと使えないのか。
「この内に刻む方法を研究していた魔法使いが昔いてな、そいつが完成させたのがこの魔導書紙だ。これは使うことで、使用者の身体の内に魔法を刻み込む事ができるんだよ、魔法使いじゃなくても魔法を覚えられるって訳だ」
それはスゴイ!
すぐに魔法が使えるのか。
一つ買ってみようかな。
えっと、値段は……。
「金貨二十枚!?」
高っ!
高すぎるだろ、これ、金貨一枚で十万くらいとすると、二百万だって!
「それは上級魔法だからね、こっちの初級魔法にしときなよ、この紙切れ作れる人間はほとんどいないからね、その分一枚の値段は高いんだよ」
えっと、初級魔法は、この『ファイヤーボール』がとりあえず銀貨五枚か。
とりあえずお試しで買ってみるか。
「じゃあこれ下さい」
「はいよ、毎度あり!」
思ったよりも高かったな。
金もこれから稼ぎたいとこだよな。
とりあえず今日は宿に戻って寝るか。
次の日の朝、俺は宿屋を出発して、入り口に向かう。
俺は遠目で気づいた。
何やら二人の人影が言い争っている。
「何でエルマさんまでいるんですか!?」
「あんた達が心配だったからよ!」
「ご心配には及びません、ショウヤ様には私がついておりますから」
「それが心配なんじゃないの!」
「何がです?」
「それはその、あんたが弱いからよ!」
「これから強くなるんです! ショウヤ様とともに」
「とにかく、初心者二人で外に出せれないから付いていくわよ」
エルマとユミか。
朝っぱらからなにしてるんだよ……。
ご近所迷惑ですよ。
「やぁ二人とも、おはよう」
「あっ、ショウヤ!」
「ショウヤ様! おはようございます」
エルマもついてきてくれるみたいだな。
確かに、カエルを倒したくらいで、この辺の事情には詳しくないからな。
「エルマも来てくれるのか?」
「勿論よ! 私がこの辺のオススメの狩り場を紹介してあげるわ!」
「それは心強いな……」
ふとユミの方を見ると、背中に大きな弓を背負っていた。
「ユミは弓使いだったのか?」
「そうなんですよショウヤ様! 敵をこの弓矢でブサッブサッと貫いてやります!」
「はぁ、期待してるよ」
なんだか嫌な予感がするな。
この娘、戦闘経験あるのか?
「ところでエルマ、今日は何処に行けばいい?」
「初心者にうってつけの獲物がいるから付いてきなさい!」
俺とユミはエルマに付いていった。
弓使いと魔法使い。
普通に考えれば良い組み合わせかもな。
俺が前衛で頑張るわけだ。
「着いたわよ!」
「ここは……、何もいないじゃん」
「ほら、あっちよ、あっち!」
あれはイノシシか……。
林を抜けた草原に、見えるだけで五~六頭くらい。
深緑の毛に覆われた魔物が。
「あれか!」
「うー、怖そうです……」
「あれはグリーンボアっていう魔物よ、一直線に突進しかできないし、当たってもそんなにダメージがないから、お手軽よ」
なるほど、攻撃しながらも回避なども勉強できるわけか。
「よし、まずは俺から行ってみるよ!」
「頑張って、ショウヤ」
「頑張って下さい、ショウヤ様!」
まずは俺の攻撃が通るかを試そう。
「遠隔暗殺!」
グリーンボアの目の前に空間の穴をあけ、スキル『急所視認』により、急所目掛けて短剣を振り下ろした。
「ゴギャー!」
グリーンボアは悲鳴とともに、その場に倒れる。
よし、こちらの攻撃は通るらしい。
次は堂々と正面から対峙する。
グリーンボアもこちらに気づいた。
勢いをつけて、こっちへ突進してくる。
それを躱して、背後から短剣で刺す。
しかし、グリーンボアは振り返り、攻撃しようとする。
やはり、急所を突かないとダメージが違うな、こっちのレベルが低すぎる。
「ユミ! ちょっと手伝ってくれ!」
「はい! ショウヤ様、どうしたら?」
「俺が引き付けてるから、弓で打ってくれないか」
「わかりました!」
よし、これで俺が相手をしてる内に弓や魔法で味方が攻撃する流れを掴めるぞ。
これぞパーティーて感じだぜ。
俺一人で仕留められるが、ここは連携を磨いていこう。
「それじゃいきますよ、当たれ!」
グサッ!
鈍い音が響き渡る。
おかしいな……。
今背中がチクリとしたような、でも痛みはないからな。
「ギャー! ショウヤ様、すいません!」
「ショウヤ! 大丈夫!」
何を心配してるんだ、俺はこの通りピンピンして……。
あれ、おかしいな、身体が動かない。
俺はその場に倒れ込む。
意識ははっきりしてるのだが、手足が動かない。
麻痺してる?
「ちょっとあんた! ショウヤに何したのよ!?」
「すみません、この弓、『パラライズボウ』て言って、高確率で弓矢に麻痺効果が乗るんです」
何ですと!?
ちょっと待って!
麻痺でろくに声もでないんですけど。
助けて下さい~!
「グオー!」
グリーンボアが目の前に来て、足を揺らし勢いをつけている。
ボアちゃん、待って! 後で美味しいのあげるから待って!
ズドーン!!!
俺はグリーンボアに撥ね飛ばされ、エルマ達の近くに着地した。
「リカバリー!」
エルマの魔法により、俺の麻痺は解除された。
「ごめんなさい! ショウヤ様! 私が下手でこんなことに」
「いや、別に怒ってないから、もう大丈夫だから」
俺はこのくらいでは怒らない。
大丈夫、耐えろ俺、耐えるんだ。
「じゃあもう一回行ってくるよ」
さっきのグリーンボアに八つ当たりだ!
一、二、三、四と俺は斬撃を浴びせる。
「私もお手伝いします! ショウヤ様!」
「いや、待て! ユミは動くな」
ダメだ、聞こえていない。
「私のスキル『連射』により、一度に五本の弓矢を同時に撃つことができます、今度こそ死になさい!」
ユミから五本の弓矢が放たれた。
真っ直ぐ標的へと向かっていく。
連射スキルか~、カッコいいな!
すると放たれた光は、グリーンボアに当たり、グリーンボアは倒れた。
グリーンボアの額には一本の矢が刺さっている。
ん?
一本だけ?
また背中にチクリとした感覚が。
背中を見ると、四本の弓矢が刺さっていた。
「おまえ! 流石にわざとやってんだろ!」
俺は我慢できず吠えたが、すぐに痺れがきて、その場に倒れる。
ちきしょう、先が思いやられる……。