予兆
「と、いうわけで俺はこっちに来たってわけだ…」
「そんな…タクヤ」
サヤカさんは駆け寄る。
皆も心配している。
俺もタクヤさんが心配ないわけではない。
しかし、それ以上に憤りが募る。
絶対に許せない事がある。
「行きましょう!タクヤさん! 誰か犠牲が出る前に」
「あぁ、そのつもりだ……」
タクヤはその場に立ち上がり、皆に下がるように手を払う。
「そんじゃまぁ、こいつを壊すか!」
なんだ、この気配は…
魔力感知では気配がない。
しかしそこにドデカイ何かがあるようだ……。
「剛剣極地ー六合覇斬!!!」
タクヤは剣を大きく振り、その刃は空間ごと鳥籠の結界を打ち砕いた。
「マジかよ……」
「さっすがッスヨ! タクヤさん!」
「良かった…タクヤ……」
「みんな、もう大丈夫だ…アイツを追うぞ!」
魔力感知ではもう引っ掛からない。
どうやら外に出ていったみたいだな。
「ショウヤ、道案内頼む」
「任せてください!」
俺達は、ダッシュで外へ向かう。
「感じます! まだ近くにいます!」
「おっしゃ! 追い付くぞ!」
茂みを抜けた先に奴らはいた。
人間が三人。
龍が十頭。
「!?」
「あの鳥籠を破壊するとは、アイツめ、とんだ不良品を寄越しやがって……」
「どうしやすか? 兄貴…」
「龍など一頭居れば十分だ。九頭を奴らへ向かわせろ」
「へい!」
部下二人は龍操の笛を吹き、一頭以外の龍全てが一斉にこっちに方向を変える。
「こっちに来ましたよ、タクヤさん!」
「あぁ…わかってる」
俺とタクマさんは大丈夫だが、はたして後ろを守れるか……
「おい、ショウヤ! アイツを止めてくれるか?」
「もちろんです! タクヤさんの教え子でしょう!? 絶対止めないと!」
「……やっぱお前はいい奴だな」
満面の笑みだった。
この顔、知ってる。
死を超越したその先を見る目だ。
未来を見つめている目。
「よし! サヤカとマサトは、ショウヤのフォローを頼む!
俺は、こいつら引き付けるからよ!」
「うん、わかったわタクヤ!」
「了解っすよ!」
えっ?
一人で戦う気なのか!?
「タクヤさん! 俺も一緒に!」
「いや、お前はアイツを止めてくれ。おそらく、奴らよりもやっかいな龍九頭を俺が引き受ける」
「でもっ!!!!」
「お前にしか、頼めねぇんだ」
「くっ!」
胸騒ぎがする。
俺の周りでまた、何かがなくなる前兆が…
「大丈夫よ、ショウヤ」
俺の肩にサヤカさんが手を添えて、そっと後ろへ押された。
「そうっすよ! なんたってあの人は、レベル六百九十。この世界で五本の指に入る戦士っすからね!」
その少し前。
ショウヤ達一行より南西二十キロメートル地点。
暗躍する集団が近付いていた。
「ラクサス様! 人間どもの村の偵察より帰還しました! 」
「苦労をかけたな、それで…人間は全滅していたか?」
「それが、誰一人まだ死んでいないようでして…」
「なに!?」
「どうやら村を襲いまではしたようなんですが」
「あの異世界人め、魔導具まで貸してやったのに、体たらくな。やはり…人間は信用できんな」
「どうしやすか、ラクサス様!」
「まずはあの異世界人の口を塞ぎ、その後龍に村を襲わせる。俺らのノルマはもうあの村だけだ、行くぞ!」
「へい!」
さらに遡ること数時間前。
王都では、英雄が帰還していた。
「ご苦労であった、勇者ツルギよ」
「王よ、これは勇者として、当然の事だ。気にするでない!」
「ちょっと、相手は王なのよ! もう少しその態度はどうにかならないの?」
「はっ! 確かにそうだ、マリアの言う通りだ。王よ御無礼をお許し下さい。」
「ま、まぁ気にするでない」
「本当にその通りだ。何を気にする必要があったのだ、マリアよ! 俺は勇者だ。この戦乱の世には、俺よりも必要な存在はいないだろう。だが、この王には何ができる!? この玉座でただ平和を夢見ているのみ。座っているだけで魔族相手に勝利を掴めることなどあっ!!!!」
高らかに演説中の男を横の女が小突き、舌を噛んだ。
「申し訳ないございません、王よ。この男には私から言い聞かせますので、どうか非礼をお許し下さい。」
「まぁよい、宜しく頼むぞマリアよ。でないと、胃が痛くてかなわんのでな」
二人の男女は城をあとにし、騎士団の詰所へ向かった。
「よぉボブ! 景気はどうだ!?」
「テメェ!ツルギ! 来るのがオセェンダヨ!」
「おいおい、最速で戻ってきたんだが、相変わらず無茶言いやがる。だが、俺達はまたしても魔族を大勢滅してきてやったぞ! さぁ、俺を崇め敬い、そして絶対の信頼を持って頼るがよい!!!」
「ミスマリア、ツルギはナニを言ってる?」
「コイツがごめんなさいね、何か別の依頼はないかって事を言いたいんだと思うよ」
「ナルホドね! それならすぐ応援に行ってほしいね!」
「ほぉ、俺に適した依頼があるのか?」
「さっきタクヤ達を向かわせたトコロよ。フーレス村に龍が現れたって。推奨レベル三百だな」
「なに、先生が! 久しぶりに顔を見せておこうか」
「ツルギ、行くの?」
「あぁ勿論だ、先生なら問題ないだろうが、少し荒れそうだと俺は感じている! いや、そうあってほしい! この俺が遅れてやってきて、敵を打つ! 最っ高に英雄してるじゃないか!」
「ケガ人出てるかな?」
「そりゃもちろん、みんなケガして動けず、絶望している頃であろう!」
「本当に! やったぁ!また治療できるのね!」
「フハハハハ!!! 待っていてくれ! この英雄が今助けに行ってやろう!」
「ジュルルル、待っててね、今治しに行くからね。やべ、ヨダレ出てきた」




