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異世界に飛ばされた殺戮者  作者: SHIO
第二章 暴龍撃退編
19/20

先生と生徒

 俺の父親は高校教師だった。

 だからか、何となく俺は憧れるでもなく、進路を決める際に教師になろうと思い込んだ。


 進路が決められず、少しでも興味があるやつに無理矢理決めただけだった……。


 ほどなくして俺は、大学の教育学部を卒業し、運良く中学教師となれた。


 何気なく決めたこの仕事も、五年も経てばやりがいが生まれていた。



 そんな時、俺が担任してた教室に異変が起き始めた。


「やっべ! おい!」


 放課後の教室に忘れ物を取りに行くと、まだ生徒達が残っていた。

「先生、さようなら!」

 元気に下校していく三人。

 その背後からもう一人。


「先生……さよ…なら」


 声には元気がなく、怯えているようだった。

 思えばこの時に俺は呼び止めるべきだった。

 だが、できなかった。


 ほどなくして、一人の生徒が休みがちになった。

 たまに来ても、オドオドしていた。


 家に訪問して話を聞いても答えてくれない。


「お母様、何か聞いていらっしゃらないですか?」

「私にも何が嫌なのか話してくれないんですよ……」

「……」


 俺は先生として、彼に何ができるのだろうか?

 してあげたいことをしよう。

 教師と生徒の立場ではなく。


「おい、ケイタ! 何も喋らなくていいから、先生とラーメン食べに行こう、夕飯まだだってお母さんにも聞いたぞ!」

「……」

「この近所に旨いラーメン屋があるんだよ! チャーシュー盛り盛りで奢ってやるぞ!」

「……行く」


 なんとかケイタはついてきてくれた。

 ここからが肝心だ。

 焦ってはいけない。


「旨いな~このラーメン! なぁケイタ?」

「うん……おいしい」


 意外にも、質疑応答には答えてくれた。


「オジサン! ごちそうさんです!」

「あいよ!!!」


 店を出て、ケイタの家に帰る。


「あの、今日は御馳走様……でした」

「あー気にするな! 少しは元気出たか?」

「はい、少しだけ楽になりました」


 もし、この子がイジメを受けているのであれば、対応しなければならない。

 しかし、イジメをしている方も子供。

 俺達教師としては、強行手段は取れないだろう。



「なぁケイタ……学校は嫌いか?」

「……嫌いじゃない……でも……」

「別に先生な、無理して学校に来なくていいと思うぞ。ケイタが来たいと思ったら来ればいい。先生はいつでも待ってるから、何かあれば相談してくれ」

「……」

「約束だぞ、守れるか?」

「……分かったよ」


 この日の行動が俺達に悪夢をもたらす。



「ちょっと八尋先生! 困りますよ~」

「いったいどうしたんですか? 教頭先生」


 翌々日学校に出勤すると、教頭が慌ただしく駆けてきた。


「どうしたんですか、じゃないんですよ~!」


 いったいなんなんだ?


「今、父兄から連絡があって、あなたが一人の生徒に必要以上に関わっていることで苦情が来たんだよ!」

「!?」

「教師というものは生徒を平等に扱わなくてはならないんだよ!それを君は、一人の生徒と友達にでもなるつもりなのかね!」


 これは……

 俺はその時、胸騒ぎがした。

 何かが悪い方向に向かっている。

 まるで、仕組まれているかのように……



「なんだよお前、今度は先公にチクったのかよ!」

「人に泣きつくことしかできないんだなお前!」

「生きてる価値なんて無いんじゃねぇの」

「お前の親も不幸だよな!」


「や…めてよ…」


「お! なんだ、向かってくるのか!」

「来てみろよ!」


「………」


「なんだよ! 男なら殴りかかって来てみろよ! オラァッ!」

「グフゥッ!!!」

「あ~もう、きったねぇな! ゲロ吐いてるぜ!」

「本当だ! マジヤバいだろコイツ!」

「そうだ! 今度一万持ってこいよ、そしたら殴るのは勘弁してやるぜ」

「ヒュー! やっさしぃ!」

「だろ~!」

「無いなら親の財布からスッテ来いよ」

「………」




 どこにいるんだケイタ!

 今日は学校に来るって行ってた!

 でも朝のHRにも居なかった……

 イジメっ子は居たのに


 いや、まだそうと決まった訳じゃない!

 諦めるな、八尋拓也!

 必ず探してみせる


 俺は一時限目の授業を放って、学校中を探した。

 生徒に対して平等というならば、俺は授業を選ぶべきだ。

 

 しかし俺は今、人としての優先順位に従う!


 俺はふと、上を見上げた。

 するとそこには……。


 一人の生徒が屋上のフェンスから身を乗り出しているのが見えた!


「ケイタ! おい! ケイタ!!!」


 声は届かない。

 もしくは聞いていない。


「くそ!!!」


 俺はそれから何年ぶりかと思うくらいに走った。

 足にすぐに乳酸がたまるが、足を震わしながらも、最短で向かった。


 そして、屋上の扉を勢いよく開けると、そこには靴と紙だけが置かれていた。


 まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか、まさか!!!


 俺は恐る恐る近づいた。

 下からは既に悲鳴が上がっている。


「嘘だろ……なぁ、ケイタ」


 下には、激しく損傷した、まるで人形のような脱け殻がそこに横たわっていた。


「オェッー!!!」

 俺は連続したストレスに耐えれず、腹からリバースした。



 それからというもの……


「うちの息子を返してくれよ!!」

「もうやめて、あなた!」


 親子は学校へ乗り込んできた。

 当然だ。


「これはあなたの担任としての行いが足りなかったんですよ!」

「いいですね、イジメの事実など無かった事にしてください!」


 うるせぇよハゲ教頭

 保身ばっか気にしやがって!



「平等に扱わない先生が担任だから自殺が出たんですよ!即刻クビにするべきです!」


 不平等に扱ってた生徒が死んだんだぞ!

 頭になにか沸いてるんじゃないか、このPTAども!



 第三者委員の介入により調査されたが

 生徒からのアンケート調査は揉み消し、イジメの事実は無かった事にされた。

 そして、俺は責任を取って自主退職をした。


 連日マスコミにさらされ、再就職先も詰んでいた。

 

 そんなある日

 ピンポーン!


「はい、どちら様?」

「はじめましてこんにちは! 私、月刊現代人類の神作世界と申言います! お話宜しいですか?」


 なんだこの女は?

 名前は怪しすぎるが、何よりも一目みたら吸い込まれるような感覚がある。


 彼女は事件の事を聞いてきた

 いつも通りのマスコミの内容

 答えたくなかったが、答えてしまった。


「何で皆さん自殺なんかしてしまうんでしょうね~?」

「はぁ、本当ですね」


 それを最後に彼女は俺の家を後にした。


 その後すぐに俺は部屋に入り、押し入れから紐を探す。

 椅子を持ってきて、天井の頑丈な部分にくくりつけた。


「ごめんなケイタ、こっちでお前を守れなかったけど、そっちで今度はちゃんと守ってやるから!」


 ドタッ!!!

 椅子はその場に倒れた。


 かくして、普通の平凡な男の普通の人生が幕を閉じたわけだ。


 






 


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