学校
「運命的な出会いってなんなのかな?もしかして転校生でも来るのかな?」
学校に向かう道すがら、ひなのは今朝の占いの話題をえーちゃんに持ち出した。二人が通っている学校は都内でも有名な女子校で、家から徒歩で行けるからという理由で二人はその学校を選んだのだった。しっかり者のえーちゃんはもちろんのこと、意外にもひなのも勉学は人並み以上にできるのだ。
「どうかしらね。うちの学校は編入が難しいことで有名だから、可能性は低いんじゃないかな。そんなことより今日の数学の小テストは大丈夫なの?」
ひなのと違って占いを信じていないえーちゃんにとっては朝のニュース番組のささやかな娯楽より学校のお勉強の方が大事なご様子。今もひなのとの会話に花を咲かせながら手元の暗記カードで今日の小テストに関する公式を暗記中だった。
一方ひなのは根っからの感覚派で何かを額面通りに覚えるのは苦手な代わりに、何事も自分オリジナルな方法で行うのが得意だった。現に今日の数学のテスト内容である『集合と命題』の公式はひなのの頭の中には何も入っていない。だからと言って、テストに不安を覚えることもなかった。
「えーまあ、なんとかなるよー、私あの範囲得意だし。それにしても始業式の日に小テストをやるなんて、本当うちの学校って勉強勉強してるよねー」
そんな他愛もない会話をしながら歩くこと十数分。気付いたら見慣れた校門が見えてきた。『私立桜森女学園』、それがひなの達が通う高校の名前である。校門の前では生徒会の人たちが1列に並んで朝の挨拶をしていた。校門を通る生徒の大半は彼らに軽く会釈をして通り過ぎるだけだが、ひなのは違った。
「おはようございます!今日も朝からお疲れ様です!」
屈託のない笑顔とともに元気な声で生徒会の面々に挨拶を返すひなのの姿はもはや定番の光景となっており、一部ではひなのの入学以降、生徒会の人々の朝の挨拶活動の参加率が上昇しているという噂も立っていた。そんなことはつゆ知らず、ひなのはいつも通り下駄箱で上履きに履き替えると自分の教室へ向かった。
1ーA。そこがひなのとえーちゃんのクラスだった。教室に入るとすでに何人かが輪を作って会話を交わしていた。今日は始業式の日。高校に入りたての1年生といってもすでに入学から5ヶ月は経っているため、みんなそれぞれ気の合う者同士で交友関係を作っている。そして、ひなの以外の前では大人しめなえーちゃんとは違い、明るく人懐こい性格なひなのはいつの間にやらクラスの中心人物的ポジションにいた。
「あ、ひなの。おはよー」
教室に入ったひなのにまず声をかけたのは派手な金髪にビシッとメイクを決めている読モに出てきそうな見た目の少女だった。そんな彼女の隣にいる、彼女とは打って変わって綺麗な黒髪に身だしなみ程度の薄い化粧を施した、清楚を地でいく少女も同じくひなのに挨拶を投げかけた。
「おはようございます、ひなのさん」
「おはよー!あんちゃん、のぞみちゃん!」
あんとのぞみ、そう呼ばれた二人はひなのが高校で特に仲良くしている二人であった。ひなのとこの二人の馴れ初めには色々なことがあったが、それはまた別のお話。
「ねー聞いて!今日の占いでね、私ね、運命的な出会いをするんだって!どんな出会いをすると思う?」
挨拶もほどほどに、ひなのは今朝の占いの話題をあんとのぞみにも振った。運命的な出会いというワードがひなのの少女心をくすぐったのだろう。
「えーまた占いの話?どうせえーことも家でその話したんでしょ。ほんとひなのって占い好きだよねー」
話を振られたあんは笑いながらそう答えた。久しぶりの再会でも普段通りの話題で盛り上がるひなのに、あんとのぞみのみならず、心なしかクラス全員の口角が自然と上がっていた。ちなみに、えーことはえーちゃんのことである。
「でも、運命的な出会いってのは確かに面白いかもね。うちの学校は女子校だから男子との出会いもないし、そういうの憧れるよねー。やっぱりひなのも彼氏とか欲しい系なの?」
「えー彼氏!?そ、そういうのは私はまだよくわかんないかなー」
「そうですよ!ひなのさんには彼氏なんて必要ありません!」
出会いと聞いて真っ先に男性を思い浮かべるあん、そんなことは毛ほども想像していなかったひなの、そしてなぜか謎の反対をしているのぞみと三者三様なお三方。そしてそれを楽しそうに見守るえーちゃん。そこにはいつもと変わらない日常があった。
そして、その瞬間は訪れた。