大井町の隠れ家的グリルバーで、「居酒屋のぶ」を読む。
還暦前のフリーライター、修善寺大地が仕事で出かけた先で、好き勝手に本を買い、本を読み、酒を飲むだけの話。
本ならいつでも買える、というのは幻想だ。
多くの本は一期一会だ。
メジャーなヒット作や定番の名作なら、増刷されることもあるだろうが、人気マンガ、あるいは、毎年、夏休みの感想文用に指定される昭和の名作を除くと、それほど頻繁には増刷されない。
アニメ化されたライトノベルはその時には、売れるが、アニメが終わるとがくんと売れ行きが落ちる。知人のライトノベル作家によると、アニメ化された年と、それが終わった翌年では収入が一桁違うこともああるという。そもそも、コミカライズまでも行かないようなライトノベルは速攻でなくなる。
だから、オレは今日も本を買う。
買わなければ、出会えない。
本屋でしか出会えない。
オレ、修善寺大地はフリーランスのライターだ。
編集部のアルバイトから始めて30年。なんでも書くのが取り柄のフリーランスだ。
一応、専門はサブカル方面で、普段はマンガの紹介記事をウェブサイトに書いたり、ゲーム系の学校で非常勤講師をしたりしている。今日も今日とて調べ物があって、国会図書館に詰めていた。コロナのおかげで入場制限がある上、予約制だ。
それでも、ここ以外で探すのは、なかなか困難なものもある。
例えば、エロ雑誌だ。
当然、一般図書館は買わないが、国会図書館に関しては、出版社は納品する義務がある。そのため、硬軟取り合わせたマニアックな蔵書が国会図書館の地下に存在しているのだ。
今回の目当てはワニマガジン社の『劇画エロトピア』。知人の企画の手伝いで、エロ漫画雑誌の源流を辿る、というもので、エロトピアから快楽天への流れをチェックする。日本初の官能マンガ雑誌と言えれ、1973年創刊の『漫画ベストセラー』が名前を変えたもの。触手系の元祖ともいうべき、前田俊夫の『うろつき童子』が掲載されていた。そこから増刊号『COMIC快楽天』が生まれる。
……とはいえ、還暦間際で髪も白くなったおっさんが、エロ漫画のバックナンバーを次々借り出していくのは異様な状況である。
さらに、卒論の資料集めらしい女子大生から、それほど離れていない閲覧席に、古いエロ漫画雑誌を積み上げ、目次をチェックする。すでに鬼籍に入られた作者の方も多い。多分、今、研究しておかないと、厳しいのだろう。確か、大学の後輩が、エロマンガの研究家をしているはずだ。もう少し煮詰まったら、彼にメールを書こう。
スマホが振動する。おっと、今日は知人の店に顔を出す予定だった。
コロナの関係で、7時までしか酒は出せないので、開店直後に行かなければ。
JR品川まで出て、差し入れを買うついでに、駅の本屋による。
蝉川夏哉「異世界居酒屋のぶ」6巻が目当てだ。和風居酒屋がなぜか異世界につながってしまったという異世界転移型の一種であるが、居酒屋の食い物、飲み物描写が素晴らしく、読むと飲みに行きたくなるのが悩みの種である。いや、本当に美味そうなのだ。
まず、擬音が上手い。
この巻でも、早速、タタキキュウリの音が食欲をそそる。
ポリ。
ポリポリポリ。
ええい、居酒屋に行きたくなるじゃないか?
この描写力は飲み物が来ると加速する。
作中では「トリアエズナマ」で定着してしまった生ビールが届いた瞬間、その組み合わせで、さらに味わいが深まり、やめられなくなる。
ポリ。
グビリ。
くっそー、天才だな、蝉川先生!
そうやって、読みながら、大井町につき、路地裏に開店したばかりの知人の店に入る。肉系のグリル料理がメインの店で酒の揃えもいい。店長がLARPの人なので、開店祝いに集まったゲーム系の知人ばかりで、なぜかD&Dのサプリメント(というか、世界設定に対応した料理レシピ集)「ヒーローズ・フィースト」が店内に3冊もある。店長に頼めば、再現してくれるらしい。そいつは素晴らしい。
いや、それより今は、こう言わねばなるまい。
「トリアエズナマ」
いや、ごめん。
だが、店長は笑って、生ビールの銘柄を聞いてくる。温度に合わせて、ややスッキリ系が多い。ぐいっと飲み切る。
グビリ。
おっと擬音まで「居酒屋のぶ」になっていた。
「今日のおすすめは?」
「エゾシカのグリル」
「じゃあ、それに合わせたスピリッツも一杯」
今日も本を買う。そして、酒を飲む。
発作的に書き出した、本読み版の「孤独のグルメ」的な話。
私自身も、フリーランスのライターなので、国会図書館での快楽天の話は漫画エロトピアも含めて、自分のネタですね。
7月頭に、知人の店が大井町に開店したので、行ってきました。詳しくはその時期の私のTwitterを検索してください。「ヒーローズ・フィースト」が3冊あるのは、本当です。
しかし、開店直後に、東京には緊急事態宣言。
クラウドファウンディングした関係上、開店を先延ばしにもできませんでしたので、大変です。
また、機会を見て飲みに行かねば・・・