中編
現在。私のほうは成長を続けながらも、大会では勝てなくなっていた。単純に、競技人口が増えたからだ。
他方、I君は今でも日本の最高レベルにいる。その上、ラグビーの名門である大学にトレーナーとして所属し、素質ある選手たちの指導にも当たっていた。
酒席、私の対面にて、彼は言い放つ。
「オーバートレーニングなんてものは、存在しないんですよ。あれは『頑張りすぎなくていい』という甘いことを言って、初心者を釣ってるだけ」
「トレーニングは容量反応、やればやるほど強くなる。結局、レベルの上下を分けるのは『量』なんです。強い奴は毎日やっているし、そうじゃない人は量が足りない」
私からの意見は、競技パフォーマンス向上とボディビルではトレーニングの「追い込み」に対する考え方の根底がそもそも違う……という点を指摘するに留めておいた。
国の頂点と、その他大勢の議論である。
私のほうが年上だからといって、こちらの意見を無理に通すことはしなかった。
こうした発言だけをみれば、I君は旧い根性論者のように思われるかも知れない。しかし、それは違う。
彼はスポーツ科学の修士号を持っているのだ。運動生理学の研究に携わり、最先端の研究を原語にて精読していた人間である。
理論と実践を兼ね備えた王者の結論が、それだった。
さて。私が見てきた景色は、彼とは全く違っている。
私のほうは、10年以上に亘り、ボディビルの代名詞・ゴールドジムにて筋トレを続けてきた。
入会資格は16歳以上なら誰でも。よって、その全員が素質ある人々というわけではない。
とは言え、数々の名選手を輩出してきたジムである。一般的なスポーツクラブよりも、会員たちが行うトレーニングのレベルは遥かにハードだ。当然、量も多い。
そして、その会員の殆どが「私にすら劣る」レベルなのである。
私が私自身の才能を、殊更に低くみているという類の話ではない。
実際、ここ数年の私のトレーニング内容は、異常なほど量が少ないのだ。
ゴールドジムのフリーウエイトを使っている連中の平均値と比べて、半分以下の量しかこなしていないのは確実。
最近では近所に建った24時間営業のスポーツクラブも併用して通っているが、そこの一般的な会員と比べてみても、私のほうがトレーニング時間は短い。
これらの事実は、何を示しているのか? いったい何が正解なのか?
さて、ここからは私の回答である。
私は自信を持って語るけれども、I君なら反論するだろう。そういう前提のもとに、読み進めていただきたい。