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入学式

フランク・ベルファング学園の入学式当日。

学園都市周辺には小雨が降っていた。

フランク・ベルファング学園の校門から伸びる道の両側には木立が立ち並び、春咲きの美しいピンクの花が雨に打たれて地面に落ちてゆく。

この日入学式が行われたのはフランク・ベルファング学園の他、数校。前日、翌日にも他校において入学式が行われる。学園都市は春の入学式シーズンに入ったばかりだった。


フランク・ベルファング学園の敷地中央にある大講堂に、40名弱の新入生と約300名の在校生。60名ほどの新入生の保護者や学園関係者、教師陣が集まった。


「エデナ暦3010年フランク・ベルファング学園第7期生の入学式を始めさせていただきます。」


講堂内のマイク音声で女性が開会を告げた。

静かな講堂で粛々と会が進行していく。


「では、続きましてフランク・ベルファング学園長の祝辞です」


壇上に壮年の男が上がる。

毛織物の高級そうなスーツに身を包み、胸板の厚そうな鷹揚な動きで、大股の早足でマイクの前まで進み出る。


「新入生の皆さん入学おめでとう」


ベルファング学園長は顎髭を蓄えた顔に笑みを浮かべてひとりひとりの新入生を見つめた。


「今、私が1番言いたいのはそれぐらいだ。長い校長のお話はきらいじゃないかな?」


ベルファングはそういうと、胸の前で手を一回叩いた。

パン、と言う音が講堂中に広がる。

その合図を受けて講堂の隅にいたライラが魔法を展開した。

新入生がベルファングの突然の行動に驚き、ざわついていると、


「さあ、私からの話は以上です。」


と、ベルファングは言ってさっさと壇上から下がった。

首を傾げるものも多い中、入学式は粛々と進んで閉会した。


「新入生のみなさんは教室へ移動してください」


講堂内で保護者や学生がごった返す中、新入生のひとり、僕は立ち止まって辺りを見ていた。

顔馴染みのいない同級生たち。新しい制服。

本当に学園生活が始まったことに、今更じわじわと実感を得ていた。


そうだ。

父さんと母さんはどうなったんだろう。


「ユウキ」


声がした。

女の子の声だ。

呼ばれて振り返る。

だがそれは、他の生徒にかけられたことばだったらしい。

白く艶やかで豊かな長髪の女子生徒が、他の生徒に対して肩を叩いて声をかけていた。


「あなた、ユウキ?」


声をかけられた生徒は困っていた。

その女子生徒はしっかり相手の顔を見ながら、あなたはユウキか? と尋ねているのだ。

普通は顔を見れば誰かわかる。


「ねえ、あなたユウキ?」


そんなことを手当たり次第、周りの生徒にやっている。


「母さん」


僕は恥ずかしくなって、その白い髪の女子生徒に声をかけた。


「あ、あら、あなたユウキ?」


その子は嬉しそうに僕を見て微笑んだ。


「そうだよ。ユウキだよ。」

「あら、かっこよくなってぇ」


僕と同年代に見える白い髪の女子生徒は、まじまじと僕を見つめた。


「母さんこそ、なんで若返ってるんだよ」

「この人形を作る時に、そうした方がいいって言われたのよ。あと、作ってるうちに楽しくなっちゃって」


白い髪の女子生徒は楽しげに身体をくるくると回転させた。


「あと、名前も変えたの。今の私はハル・ウィトカ。母さんじゃなくて、ハルって呼んでね」


顔を赤くしたハルはルンルン気分の勢いに任せて僕の腕を組んだ。

急に胸騒ぎがした。

胸のあたりがもぞもぞする。

なんだろう。

気にかけているまもなく、周りの生徒が驚いた様子で僕をみていることに気づいた。

確かに、入学式早々に初対面同士の生徒がこんなに親しくしているのはおかしい。


「ちょっと待てよ、初対面でそこまでいくのはおかしいだろ! 俺にも出会いやモテを分けろ!」


同じく新入生らしい同級生の男子生徒が絡んできた。


「学園生活で浮かれてると社会に出て痛い目見るからな」


僕の目の前に立って、仰々しく指差して睨みつけてきたそいつは、僕が前世で見たロックバンドのボーカルによく似ていた。

父さんが好きだったロックバンドだ。


そいつは僕の顔を怪訝そうにじろじろ見た。

そのロックバンドのボーカルと面識はないけど、目の前のそいつとはずっと前からの知り合いのような感じがした。


「もしかして、父さん?」


「……もしかして、ユウキか?」


「うん」


「じゃあこっちは母さん?」


「そうです」


ロックバンドのボーカルに似たその男子生徒は、涙目になると僕ら2人を突然抱きしめた。


「家族の再会だ!」


まるで何年も離れていたみたいに父さんは泣いたが、たぶん別れて1日しかたってない。

入学式で抱き合って騒ぐ3人の新入生を、周りの学生たちは引いた目で見ていた。

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