眠り
入学式の前日。
ライラは相変わらず雪嵐が吹雪くこの山まで足を運んでくれた。
「お迎えにあがりました。クバトラス神様」
ライラはとびっきりの笑顔で冗談めかして言った。
父さんはライラの姿をみると、興奮して駆け寄る。
「よかった。あの勧誘に来た日以来全く連絡がないから焦ったぞ!」
クエクエ言って駆け寄る赤い鳥から、ライラは飛びのいた。
「わあ! だから獣は苦手なんです! あと言葉もわからないから……。」
ライラは素早く口で呪文のようなものを唱えると、前回と同じように言葉が通じるようになる魔法を自分にかけた。
「さあ、明日が入学式です。今日のうちに寮に入寮して、あとブリーフィングやらなんやら、とにかく今日は忙しいので頑張りましょう」
「ああ、やっと人生が始まる気分だ! 楽しみだ、なぁ、ユウキ」
父さんは僕と母さんを抱き寄せた。
「どうやって学園に通うの?」
あたりに荷物を置きだしたライラに僕は尋ねた。
「まず、お飾りとはいえクバトラス神が不在になるのは何かと都合がよくないので……。あなた方にはこの洞窟に居つつ、学園でも生活していただこうと思います。」
「お飾りならいなくなってもいいんじゃない?」
「いえいえ、お飾りこそ、必要なんです」
クバトラス神をあがめる宗教がいったいどんな組織だったのか、洞窟から出られなかった僕にはわからなかったけれど、年に一回供物を届けるときなんかに姿が見えなくなってたら、困るってことなんだろうか。
「ということで、体はあの神棚の寝床に置いたまま。魂、精神を学園へ飛ばします。」
ライラは自信たっぷりに言った。
「心配は無用です。私は魔法のエキスパート。私の魔法をもってして不可能は存在しえないのです。」
「魂だけになるってこと? それって僕らは幽霊とかになるってこと?」
「いいえ、きちんとあなたたちの魂の器を用意しています。あなたたちは普通の人間の子供と変わらない体を手に入れるの」
父さんはペンギンのような両手を何度もたたいて拍手した。
「では、私は今からそのための魔法をかけていきますので、この中でしばらく待っていてください」
僕らは神棚の寝床においやられ、動かないように指示された。
ライラは洞窟の入口や神棚に向かって呪文を唱えたり、薬ツボから液体をふりまいたり、光の渦から魔方陣を張り巡らせたりした。
手際よく動く姿に僕たちは感心してみているほかなかった。
「さあ、今から眠っていただきます。次に、この体で目覚めるのはたぶん卒業時か長期休暇中だと思います。大丈夫、今私が精いっぱい魔法をかけたので、この体が死んでしまうとか、朽ちてしまうということはありません。」
「今から僕らの魂はどうなるの?」
「これから私は学園に移動して、あなたたちの魂を呼びます。来ていただいたら私の説明に従って、人形に入っていただければ大丈夫。さぁ、学園生活が始まりますよ」
ライラが僕たちに手を振った。
僕らはすぐに眠くなって、そのまま意識が遠のいた。