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購買部

午前で授業は終わりだったので、昼食の後カーズを誘って購買部に向かった。

とはいえ、購買部の場所はまだ知らない。

2人でありそうな場所を探して学園内を歩いた。


「地図くらいないのか?」


カーズがキョロキョロと辺りを見回す。

各クラスの入った棟や、先生たちの過ごす部屋や教室が入った棟が左右に見える。他にも食堂のある建物、事務所のある建物、運動場に向かう道や部活の部室がある棟も遠くに見える。

入学して数日経つから、見える建物がなんの建物かなんとなくわかって来ているけれど、まだまだ学園内のことはよくわからない。

カーズの言うとおりどこかに地図が欲しいと思った。

うろうろしているうちに事務所のある建物の中に来た。

廊下から窓越しに事務所の中が見える。何人か働く人がいた。でもそのあたりに購買部らしきものはない。


「失礼しました。」


バタンと扉が開く音がして振り返ると、知らない女子生徒が2人出てきた。

知らない人なので、購買部を探して引き続き辺りを見ていると、女子生徒2人はこちらに近づいてきた。


「あの、1年のユウキくんでしょ? どうしたの? 事務所に用事?」


どうやら先輩方が気にかけてくれたらしい。


「購買部を探しているんです。」


「そうなんだ。こっちだよ、案内してあげるよ」


妙に浮ついた笑みを浮かべて、女子同士で笑い合っていた。


「知り合いか?」


カーズが僕の肩を叩く。


「ううん、知らないけど、優しい先輩でよかった。」


「優しいからじゃないと思うぞ」


カーズは悔しげに顔を歪ませていた。


2人の後をついていくと、食堂脇の目立たない廊下に連れて行かれた。

こんなところがあったのかと感心していると、急にレンガの内装が現れて、扉もなく、廊下側の壁がぶち抜かれた空間に、棚が並んだだけの店が出てきた。


「ここが購買部だよ。」


「ありがとうございました。」


先輩たちはニコニコ笑って去っていった。


店にはたくさんの商品が置かれていた。日用品から文房具に、飲料水、菓子もある。

カウンターには本を読んでいるおじさんがいた。たぶん店員の人だろう。


「それで、購買部で何するんだ?」


カーズが僕に問いかけてきた。


「生徒手帳にお知らせが来たんだ。何かを購買部で販売してるって。」


「そんなの俺のところにはこなかったぞ。」


カーズは生徒手帳のお知らせの履歴を探し、僕に表示を見せてくる。

お知らせの履歴があることに気付いていなかった僕は、カーズの操作の見様見真似で、自分の生徒手帳のお知らせの履歴を見つけた。


履歴にはこれまで出てきたお知らせが新しい順に並んで出てきた。

1番上には、「友好度:サリーがアンロックされました。」の文字が出ている。


「サリーの友好度、俺はまだ出てないぞ。」


変だ。おかしい。とカーズは僕に向かって当て付けがましく呟く。

とりあえず目的のお知らせを見つけて、カーズに見せた。


「これ。友好度、スアリー、スチル1枚目が開放されました。 購買部にて販売中です。って書いてある」


「俺はそんなお知らせ、初めて見たぞ」


「そう……。とりあえず店員さんに聞いてみよう」


カウンターに近づいて、本に視線を落としたままの店員のおじさんに声をかけた。


「あの、スチルってここにあるんですか?」


おじさんはメガネを外して僕らをみやると、本を閉じて、席から立ち上がった。


「あるよ。……君たちは1年生か。スチルのことはどこで聞いたのかな?」


目の端にシワを浮かべて、穏やかな様子で僕らに答えてくれる。なんだか優しげなおじさんでほっとした。


「生徒手帳にお知らせが出てきたんです。」


僕は生徒手帳を見せた。

おじさんはメガネをかけたり外したりしながら僕の生徒手帳の文字を読んだ。たぶん老眼だ。


「……たしか、入学式はついこの間だと思うが。もうこの表示がでたのかい?」


「一昨日と、昨日出てきたんですけど、何かし

ないといけないお知らせですか?」


「いや、スチルはここの購買部で販売してるが、別に買わなくてもいい。まぁ、そうだな、記念品みたいなものだよ。学生生活の思い出にね。」


思い出、って。僕の卒業はまだ当分先だと思うけれど、どう言うことなんだろう。


「スチルって具体的になんなんだ? おっさん、教えてくれよ」


おじさんはカーズにおっさんと呼ばれても、全く嫌な顔をせずに答えた。


「これぐらいの大きさの額に入った写真だ。」


おじさんは胸のあたりに四角を作った。


「あまり詳しく言えないが、あの表示が出た生徒の、いい写真が撮れてるよ。」


「俺の若い時も、学校で写真販売やってたな。あれみたいなもんか?」


カーズは眉を寄せてわかったような口調だ。


「父さん、学校行ってたの?」


「人を馬鹿にした言い方するな。小学校は間違いなく行ってたぞ。修学旅行の写真選びとか、なついな。」


よくわからない返答だったのでこれ以上掘り下げずに、おじさんにもっとよく聞いてみることにした。


「写真を撮ってもらった記憶がないんですが。」


「訂正しようか。スチルは写真みたいなもの、だ。見ればわかる。」


「……じゃあ、見せてもらってもいいですか?」


うんうん、と頷いておじさんはカウンターの奥の部屋へ行って、何かを取ってきた。

さっきおじさんが示した大きさの、片手でちょうど持てるくらいの薄い箱だ。それをカウンターに置くと、おじさんは両手をついて僕をみた。


「1000ゴールド。」


僕を揶揄うようににこりと笑った。

意味がよくわからなかったので、箱に手を伸ばして見ようとすると、手を押しのけられてガードされた。


「見せてくれないんですか?」


「スチルは買うものだ。見るだけ見て買わないなんて言う子もいるから、中をみたかったら買うんだ。」


困っているとカーズが横から口を出した。


「俺たち、金はないぞ。実家がないから。」


「そうか。なら仕方ないな。」


おじさんは箱をカウンター下に下げた。

カーズは僕を連れてカウンターから離れ、コソコソと耳打ちした。


「ここでの金の単位はゴールドだ。実家から金の仕送りをもらっている生徒はここで買い物したり、学園外の店で買い物するみたいだな。」


「なんでそんなことを知ってるの?」


「同じ寮の先輩が教えてくれた。ほら、ゲームには元手がいるだろ。」


ゲームというのは、カーズの寮の生徒たちが夜通し行なっているもののことだろう。

ゲームをやるのにお金がいるということだろうか、でも父さんはお金を持っていないはずだ。


「俺が買ってやりたいところなんだがなぁ。今マイナスで……。」


なんとなく言いたいことがわかった。

父さんはゲームで負けて借金を負っている。

僕らはクバトラスで、人間社会で働いたこともないから元手なんてものはもとよりない。


うーん、父さんの状況はすごいな。

もちろん感心なんてしてない。


「金を稼ぎたいか?」


店員のおじさんが僕らに呼びかけた。

僕らの状況がわかっているような微笑みを浮かべている。


「金がない学生は君たちだけじゃない。学園都市で金を稼ぐ方法はいくつかある。」


カーズは首をブンブンと縦に振って、おじさんに近寄った。


「学園都市にはちゃんと学生労働組合もある。危ない方法じゃない正規の方法だ。」


「やるやる。なんの仕事があるんだ?」


カーズは張り切り声でおじさんに詰め寄った。


「学業が優先だ。まだ学園生活に慣れてもいないだろう。」


おじさんは穏やかに微笑みながら続ける。


「1ヶ月後に来なさい。その時に仕事を紹介してあげよう。」


握り拳を胸の前に突き上げると、


「わかった。おっさんよろしく!」


俺と、ユウキの分もな。と、勝手に僕を付け加えて楽しそうにカーズは笑った。

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