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医務室

目蓋を開ける感覚。

直線のレイアウト、コンクリートをクリーム色のペンキで糊塗した壁、石膏ボードの天井。

光量の低い電灯がやけに眩しい。


「ここは?」


「ユウキくん、目が覚めましたか?」


僕にそう声をかけたのはスアリーだった。


「ここは医務室です。倒れたのは覚えてますか? 先生がユウキくんを運んでくれました。私はついさっきあなたがここにいると知って様子を見に。」


自分がベッドに横たわっていることに気づいて、起き上がる。気分は良かった。


「あれ、ライラは?」


「ライラ・フィニエスタ先生ですか? 私は見ていません。」


首を振るスアリーの顔には濃い影が落ちている。もう夜らしい。


「僕、倒れたの? よく覚えてないんだ」


スアリーと廊下で話をしていたことは覚えている。


「そうかもしれませんね、急に目を伏せて、糸が切れた人形みたいになったので、不意だったのはわかります。」


「……それで、先生を呼んでくれたんだ。ありがとう。」


スアリーは僕の寝ていたベッドの横に、背もたれの無い椅子に姿勢良く腰掛け僕を見つめていた。

見つめられすぎて、思わず視線を外す。

自分の顔が加速度的に熱くなってきた。

恥ずかしい。

彼女の前で倒れたことがこんなに恥ずかしいなんて意外だった。


「もしかして何かの病気ですか?」


「ううん、違う。」


「熱がありそうな顔をしてますけど……。」


「熱? ないよ。ちがうから、あんまり見ないでね」


さっきまで気分が良かったのに、急に汗が出てきた。


「……あのさ、少し思い出したんだけど。僕、気を失って倒れた時、頭打った?」


「いいえ」


スアリーは涼しい顔で言った。


「それって、スアリーが……?」


「地面に体をぶつけないように、引き止めました」


その瞬間が鮮明に記憶に蘇る。

抱き寄せられた感覚が痺れみたいに顔や胸に沸き起こる。

どうやって抱き留められたか仔細に思い出せそうだった。


恥ずかしい、こんなに格好悪いことはないと思う。


「どうしたんですか? もしよく気を失うのであれば、私、これからなるべくそばに控えておくようにしましょうか?」


「は? そばに控えるってどういう意味?」


「もともと巫女ですから、お仕えするのは苦になりません」


「いや、いい。そんなことしないでいいよ。僕はそんなすごい存在じゃないんだって。」


「もしかして、突然のこととは言え、体に触れてしまったことが不快でしたか?」


スアリーは自分が間違えたことをしたかのように、悔いる顔を見せた。

僕はまるで自分が少女漫画の女子主人公みたいな状況になっているような気がして、ぞわぞわしていた。

気を失って抱き留められるなんて、本当に、鳥肌だ。

スアリーが嫌だからというわけじゃない。男らしくとか女らしくとか、そういうのにこだわりなんてないつもりだったけれど……。

涼しい顔をして僕を助けたと言うスアリーの方がよほど男前じゃないか。


「ちがうよ。その、抱き寄せられる側じゃなくて、抱き寄せる側になりたかったから、その、恥ずかしくて……。」


「……。」


「だから、その、気にしないで」


「……。」


スアリーは押し黙って何も言わなくなってしまった。長めの前髪と電灯の影になって表情はよくわからない。

スアリーは何を考えているのかよくわからない子だ。よく怒ったり人を威嚇したりしているけれど、やっぱり今も僕に怒っているんじゃないかな?……。

理由はわからないけれど。


「医務室の鍵をかけるように言われています。帰らないといけません。」


スアリーは何の前触れもなくそういうと立ち上がって、僕にベッドから降りて医務室を出るよう促した。

僕は大人しくそれに従い、1人寮に向かって帰ることにした。夜の暗くなったみちみち、いまさっきの状況は僕が夜道を送ってあげないといけない状況だったんじゃないかと思って、そんなことを思いつきもしなかった自分が情けなくて頭を抱えた。


寮の自室に戻ると、サラムがベッドから飛び出してきた。


「何してたの? 何かあったのかと思って心配してたんだ」


ほっとして喜んでいるのかサラムの瞳はウルウルして僕には眩しかった。

倒れたと言うと余計な心配をかけると思って、先生と片付けをしていたと適当に嘘をついた。


「そうなんだ、ユウキくんは偉いなぁ…。ねぇ、部活はどうするか決めた? 僕悩んでるんだ。」


「何か興味がある部活はあったの?」


「ちょっとだけね。ユウキくんは?」


「僕はまだ何も決めてないよ。」


「そうなんだ。もし良ければ僕と同じ部活に入らない? 僕もまだ決めてないけれど……。」


「入るかどうかも決めてないから、僕のことは気にしないで」


サラムは寂しそうな顔を一瞬見せたが、すぐに笑顔になった。


翌日の準備をして、すぐに僕はベッドに横になった。

あまり眠気はなかった。

消灯してしばらくすると、生徒手帳が振動して画面が光った。

文字列が表示されている。


「友好度:シューリンがアンロックされました。」


「友好度:スアリー スチル1枚目が開放されました。 購買部にて販売中です。」


購買部ってなんだろう。

学園内のどこかにあるんだろうか、そういえば昨日先輩がガチャがどうとか言っていた。

明日、行ってみようかな。


そんなことを思いながら友好度を見ているうちに、僕は眠ってしまった。

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