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拒否反応

僕はそのままユーリの後を追うように教室を出た。ふと、ユーリが去っていく廊下の反対側みた。

誰かが階段の方へ隠れる。

僕はなんとなくそれが誰か分かっていて、その影を追って歩いていった。

角を曲がると、階段の踊り場でこちらを伺う女子生徒と目があった。

スアリーだ。


「ユウキくん」


僕に気付いて目を丸くした後、慌てたようにすぐに目を逸らして、あたりをキョロキョロ見ていた。


「ねえ、スアリー……。」


僕が声をかけるとスアリーは、階段の下方向へ、僕から逃げるようにかけだした。


「待って」


僕は急いで階段を降りて追いかけた。

真横に伸びる廊下を、スアリーは真っ直ぐ走っていく。


「逃げないでよ、待って」


僕は走った。

廊下をバタバタと足音が反響していく。

スアリーは必死に廊下を走り逃げていた、僕はなんとか彼女が校舎から出る前に腕を捕まえて、引き止めることに成功した。


「ちょっと聞きたいことが」


スアリーは全力で走ったのか息が切れている。僕は急いで走った割には苦しくならなかった。


「あの」


「なに?」


スアリーは息を整えながら、気まずさを隠すように僕をちらと睨んだ。


「さっきは、ありがとう。あの、困ってたのは確かだったし……。」


「……それだけですか?」


話したいことが済んだのならもういいだろう、と、顔を逸らしたまま、スアリーは腕を引いて、その場を去りたそうにしていた。


「なんで、僕について、その、みんなにいろいろ言ってるの?」


「……別に、なんだっていいでしょう」


スアリーは苛立った様子で顔を背けていた。

やっぱり僕はスアリーに嫌われているんじゃないかと思わされる。

僕だけ孤立するようにしたいんだろうか。


「ねえ。」


悪意に向き合うのは嫌だ。


「この学園、……僕にやめて欲しい?」


「どうして……!」


スアリーはやっと僕の顔を見て、意外なことに驚いていた。


「それで君が、ここの学園で居心地が良くなるならそれでいいんだ。僕はやめても損しない。」


山の洞窟でペンギンらしく、たべて寝て過ごすのは悪くないことだと思う。


「あなたがやめたら、私もやめます」


僕を睨むスアリーは少し震えていた。

僕にはなんで彼女が震えるのかわからなかった。緊張か、怒りか、怯えているのか。どれもうまく想像ができない。


「僕に学園を出ていって欲しいから、あんなことをしているんじゃないの……?」


スアリーは一回だけ首を横に振った。

口をひき結んで、何かを覚悟したかのように一度目を瞑ると、僕を正面から見つめた。


「私は、巫女をしています。アトラス神殿という、エデナ世界においても大きな権威を示す宗教組織です。アトラス神殿の巫女は先先代の巫女の生まれ変わりによって代々その役目を継ぎ、数千年続く神秘の生き証人。」


強い眼光で僕に語りかける彼女から、僕は視線を動かそうにも動かすことが出来なかった。


「私がこの学園に来たのは、巫女の仕事を投げ出してまで、こども同士の集団生活を謳歌するためではないのです。」


スアリーはふと僕の足元に視線を落とした。


「一言で言うなら神のお導き。」


赤髪の混じる黒い絹のような髪がゆらりと揺れる。


「あなたからは強い恩寵を感じる。」


再び僕を見るスアリーの瞳は本当にとても強い意志を感じさせられた。


「あなたの魂から精霊や神と同じ輝きが見える。こんなところで他の人間と同じようにすごそうとしているなんて、信じがたい。……それが私の正直な気持ちです。」


なんだか胸が詰まる。

首を締められているようだった。


「僕は違うんだ。」


スアリーの濡れた瞳を見ていると、苦しい。


「君がそういうなら、そうなのかも。でも、違うんだよ」


僕にはわからない。

今の僕が僕なのか。

もう僕は僕じゃあないのかも。

誰かに話しかけられるたびに、僕はきっとどうしようもなく怖かったんだ。

僕はきっと誰の目にも映っていない。


急に、レースのカーテンをかぶせられたみたいに、視界がくもる。

感覚が遠のいて、まるで幽体離脱したみたいに意識が遠のいた。

僕の異変に気づいたのか、スアリーが僕に駆け寄る。僕を力強く抱きとめる彼女を、僕は離れたところから見ていた。

それが僕なのか、僕にはわからなくなっていたけれど。



「贅沢なやつ」


聞いたことのある男の声。


「こんなチートキャラクターに拒否反応? 根が貧弱なんだな。」


キャラクターメイクシステムを操作しているときに聞いたあの男の声だ。


「しかし、ライラの魔法を解除してしまうほどの力の元はなんだ? クバトラスだからか?」


男の独白なのか、僕への問いかけなのか、どちらにしても僕は以前のように返事はできなかった。


「子供が倒れたって聞いたけど?」


ライラの声だ。

どこからか現れたらしい。

僕には辺りが真っ暗にしか感じられないから、ここがどこなのかはわからないけれど。


「ああ、ライラ。身体はここにある。」


「ふーん」


何か、風が触れるような感覚がした。


「魂もここにある。とりあえず、学園からは出ていないみたいでよかった」


「原因はわかるか?」


「調べてみないとわからない。システムに不備はなかったの?」


「ないとは言い切れない」


「完璧な魔法なんてない。それと同じよね。」


「学園長には報告するか?」


「仕組みの問題ならね。そうでなければ、専門家が要る。前から学園長には言っててまだ見つからないんだもの。すぐに対応は難しいんだと思うわ。この子は応急処置で戻すしかない。」


「魔法使いの応急処置ねえ……。恐ろしいな。」


「仕方ないでしょう! いい方法があればぜひご教示願いたいわ」


少しの無言の後、2人のため息が聞こえる。


「まぁ、やはり原因は'アレ'か」


「アレでしょうね」


「わかった。システムでも援護しよう。心理パートのパラメータを変更しておく。」


「それって結局私の魔法じゃない。」


「そうだけど、実生活との親和性は高くなるだろう」


「んん〜? ……まぁ、いいか。私がかける呪いよりはまし……。」


あら、とライラは僕に気づいたようだった。


「今の聞いてた? 君」


僕は何もいうことができない。


「気にしないでね。あなた、ちょっと疲れちゃっただけだから。何も考えずゆっくり休んで、起きたら学園生活を謳歌して。」


声だけではライラがどんな気持ちでそう言っているのかよくわからなかった。けれど、学園生活の謳歌が、今の僕には全く想像ができなくて、僕はただ困惑した。


「そう。そうまずは考え込まないことが1番ね。ーーあなたは一本の葦。生きるには周りのたくさんの仲間が要る。というある人から聞いた名言を君に送るわ。」


光が筋を描いて僕の周りをくるくると回る。みたことがある光だった。きっとこれはライラの魔法なんだと思う。

さっき彼女が言っていた。

これは呪いだ。

どんな呪いかはわからない。

でもそれは魂だけの僕の周りでくるくると旋回し、いつしか抜けだせない縄になって僕を締め付けた。

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