脚
1年次の教室がある棟は、コンクリートに似た石造りでできていた。直線的なデザインに、無機質な窓、扉。
太陽光が差し込む側の面は、たくさんの窓が付いている。
僕は誰もいない教室に戻っていた。
部活の勧誘から逃げるために、学校内をうろうろしていたら、ここまできてしまった。
講堂でのスアリーの怒号にもめげず、僕をひき止めようとする人は何人かいて、その人たちから隠れるのはすこし大変だった。
シューリン先輩やスアリーがなにを言っているのかよくわからなかった。
僕を褒めてくれているのはわかる、でもそれは真実じゃない。
僕は違う、みんなが言うような人間とは違う。
この体も人形だ。
ステータスも間違い。
「何のために転生したのか僕自身わからないよ。」
ため息をついた。
席に座って落ち込んでいると、廊下に誰かのはねるような足音が響いてきた。
「わっすれもの〜」
と明るい声で誰かが教室の扉を開けた。
「わっすれも、あ、ユウキくん?」
夕日で照らされた教室をまぶしげに、手をかざして入ってきたのは、ユーリだった。
桃色の髪に桃色の瞳、前世じゃあありえない配色の女子だけれど、この学園では不自然ではなかった。
「もしかして? ここに逃げてきたところとか?」
なんだか返事する気力が湧いてこなかった。
「大変だね、疲れちゃうよね、あんなの」
ユーリは僕の表情など気にせず、八重歯を見せて笑う。机の中の忘れ物らしい筆箱を取ると、僕の席の前に立った。
「チャーンス」
「へ?」
「スアリーさんがいないから、話しかけるチャンスだと思って。でも、何をお話ししようかな」
「はぁ」
僕が疲れた顔で冴えない反応をしていると、ユーリはぴっ、と手を上げた。
「私、結構勘がいいみたい。ほら、昨日迷子になってたユウキくんを見つけたでしよ。今回も教室にいるのを見つけた。」
「それ、勘っていうのかな……。」
「勘だよ。あのね、その勘で察知するに、ユウキくんと私って同類の感じがする」
……どこが?
僕はユーリを眺めたけれど、共通点なんて全然見つからなかった。
ユーリは突然、自分の脚を僕によく見えるようにわざと伸ばして、ばちんと叩いた。
「このあし、もらったの」
「へ?」
「足だけじゃないよ、顔も髪も身体も全部もらいもの」
「それって……。」
僕の体ももらいものだと言えなくもない。
ライラの魔法とフランクスクールキャラクターメイクシステムとかいうもののおかげで、今の自分がある。
「ユウキくんもそうなんじゃない?」
ユーリは僕の顔を見て察したようだった。
「私ね、数年前に事故で足が動かなくなったの」
ユーリは僕の前の席に座った。
大事なものを扱うように、スカートをゆっくり整える。
「うちの家業はハークマイト高原で家畜を飼ってて、牧場をやってるんだけど、私そこの家畜の世話をするのが好きだった。バルクホーンとかウープとかいろんな家畜たくさんいて、みんなとても可愛いくて」
ユーリは八重歯を出してニマニマと笑った。
ハークマイト高原なんてもちろん知らないけれど、ユーリの向こうには広い草原と、雪をかぶった綺麗な山脈が見えるようだった。
「でも私が怪我して歩けなくなってからはもちろん世話なんてできないし、学校にもいけない。私の面倒のためだけに人を1人おかなきゃいけない。すごく肩身が狭くてね。それで、フランク学園の招待がきて、学費も生活費も出るってきいて私から飛びついたんだ」
ユーリは何かを机の上で捕まえる振りをした。
「どんな生徒にも充実した学校生活を用意する、って聞かされた時は半分嘘だと思ったけど、嘘でも家に数年は迷惑をかけずに済むことに比べたらたいしたことだと思わなくて、私前のめりで入学を決めた。で、実際来てみたら、キャラクターメイクシステムとかで、自分の姿や能力が決めれて……。ユウキくんもそうでしょ?」
「うん」
やっぱりね、私の勘はよく当たる。とユーリは手を叩いた。
「じゃあ、ここの生徒はみんなそうなの?」
「私気になって、キャラクターメイクの時に聞いたのね。でも、違うって。何人かは言えないけれど、キャラクターを作ってない子もいるって」
「その人って太い声の男の人?」
「そうだったかな」
僕のステータスを勝手にいじった男と同一人物かもしれない。
「足はね、もちろん何もしなくてもついてきたんだけど、顔と髪の毛はちょっと変えたんだよ。好きなようにね。この髪色気に入ってるんだ。ユウキくんもそうでしょ?」
「いや、僕はいじってないんだけど」
「え? そうなの? 作ったからそれだけかっこいいのかと……。」
「いや、そういう意味じゃなくて」
このキャラクター(僕)を作ったのは僕じゃなくて、謎の男で、もちろん元からこんな顔だったわけじゃない。
「元の顔とは違うんだけど。自分で作ってないんだ」
意味が伝わっただろうか。
ユーリは理解が難しいとでも言うように、顔をしかめて、
「じゃあ、ラッキーだったんだね。そこは私とおんなじだ」
と、言うと八重歯を覗かせて笑った。
「どんまいだよ、どんまい! 落ち込まずに不本意でもプラスに考えよ! 私だって言ってみれば事故にあったおかげで学園に入学する気になったんだから。事故に遭ってなきゃ今頃牧場で脇目もふらず働いてるよ。ありえるかも知れなかった未来がどーとかこーとか考えてもしょうがない。ってそれは私か」
かっこよくてラッキーだったね。そう言いながら席を立つと、ユーリはスキップしながら教室を出て行った。




