耐性・攻撃力
琥珀色の瞳が爛々と、僕を見据える。
レミーは運動着から覗く灰色の肌に覇気を漲らせ、静かに呼吸している。
間合いをとって対峙する。
僕は剣を持った経験すらないから、どう相手に打ち込むのかもわからない。だから、とりあえず、レミーの動きを待った。
隣の組が打ち合いをしているのを、僕は横目で見た。
ああやればいいのか、と僕はなんとなく動きをイメージしてレミーが動くのを待った。
たぶん、僕が動かないのをレミーは察した。
「じゃあ、こっちからいく」
レミーが片足を前に出し、剣を少し上方へ向ける。
ト、と音がして次の瞬間レミーの姿が目の前から消えた。
え?
今の今まで自分に向かって来ていた人がいなくなって驚く。
風切音がして僕はとっさに剣を横に頭上へ構えて防御した。
考えるより先に体が動いてくれた。
視線を頭上に動かすと、影が降って来た。
レミーは僕の目前で飛び上がって、上空から渾身の力で打ち込んできたのだ。
いやいや、軽い打ち合いするところだと思うんだけどーー。
できる限りの力を込めて防御体勢をとる。
バギィィィィィッ、と木剣から悲鳴のような音が弾ける。
レミーの木剣が僕の木剣と撃ち合わさった直後、お互いの剣が衝撃に耐えかねて砕けた。
乾いた粘土みたいにたやすく割れてしまって、僕は驚く。
レミーは着地すると、ふん、と鼻を鳴らした。
「木剣じゃこうなるよな」
いやいや、たぶん、お互いの剣にもともとヒビが入ってたんだと思う。
木剣の折れる音に驚いてクラスメイトたちは僕らに注目していた。
「あーあ……。」
マルク先生は僕らを見てため息をつく。
「お前たちは加減を知らないのか?」
「あの、僕は受け止めただけで……。」
「見てたからわかる。」
先生は端末を見て、考え込んだ。
「あの、僕、そのステータス間違ってると思うんです。僕、こんな後ろに並ぶほどの数値はないと思います」
今のうちに、誤解を解こうと言ってみた。
「ステータスの値か? 間違ってないと思うぞ、レミーの次はユウキだ。」
マルク先生は耳の後ろを何度もかきながら、何か端末に書き込んでいた。
「いや、でも僕は剣術やったことないし」
「ユウキはステータスの剣術習熟度がゼロだもんな。そうだろうな。」
僕をみて頷きながらマルク先生はこともなげにそう言った。
「ユウキは順を前にずらしてやってもいいぞ。」
僕はほっとした。
レミーのように綺麗な姿勢で構えたり、飛び上がったりできない僕みたいな弱い奴が、レミーの相手をやっていたらレミーに失礼だ。
「そうですか、じゃあそうしてください。」
「でもそのかわり、レミーの相手ができる奴が今このクラスにはいないから、レミーはこの授業時間、自主練してもらうことになる。」
ムッとした顔でレミーは抗議した。
「なんで?」
「ステータスに差がありすぎる。レミーとの打ち合いに耐えられるのはユウキぐらいだ。他の生徒にやらせたら怪我をする。」
僕も怪我をすると思うんだけど、とはすぐに言えなかった。
「2時間分も毎週自主練なんて暇すぎる。」
レミーはブーブーと文句を言った。
「私はユウキとやればいいだろ。さっき木剣は折れたけどユウキは怪我しなかった。」
いや、それはむしろ木剣が僕の身代わりになってくれたのかもしれない。
次は僕がボッキリ折れてしまうかも。
「なぁ、ユウキ」
怒った声で僕はレミーに呼ばれた。
「は、はい」
「なんで順番前にすんだよ。私の次でいいだろ。」
じっと見つめられる、睨まれていると言ってもいいかもしれない。
「だ、だって、僕は剣術やったことないし」
「嘘つくなよ、ステータスは高いじゃねえか。なんの練習もなしに、私の次に強くなれたりするわけないだろ」
知らないよ。僕は嘘はついてない。
「ステータスはたぶん何かの間違いだから」
「じゃあいい」
レミーはザッザッと足音立てて僕に近づき、バスっと肩を叩いた。
「間違いでもなんでも。剣術初心者なら私が教える」
レミーは震える僕の顔に爛々とした瞳を近づけた。
「いいよな」
たぶん、今こそ僕はいじめられっ子に見えているに違いない。
「……はい」
よおし、決まりだ。とレミーは愉快そうに僕から離れた。
助けて欲しくて、僕はマルク先生を見た。
でも、先生はヌーン、とさして関心もなさそうに僕らを見て、すぐに他の生徒の指導に行ってしまった。
僕の次の順番に呼ばれていたクラスメイトを探す。
クラスで3番目と4番目の耐性、攻撃力を持つ人たち。
彼らはわざとらしく打ち込みを続けていた。
いや、わかるよ。僕みたいな素人ですら、あんな動きをするレミーとずっと戦うなんてプレッシャーが凄いだろうってことぐらい簡単に想像できるよ。
だから、僕より経験がありそうな人が変わるべき……。
「おーい、ユウキ」
レミーが僕を呼んだ。僕の体は勝手にビクッと反応する。
「今度はそっちが打ち込む番な」
レミーがかわりの木剣をとってきて僕の方へ投げた。顔面に当たりそうだったので、思わず受け取る。
どうしようもないか……。
木剣を受け取った僕を見て、満面の笑みを浮かべるレミーがそこに居たから、僕はもう観念することにした。




