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スチル解放

「ハーフ……、なんだって?」


僕はさっきサラムから聞いた言葉をもう一度確認した。


「ハーフアンヘル、アンヘルと人間の間の子供なんだ。」


「ごめん、アンヘルがわからないんだけど」


サラムは困った顔をした。


「アンヘルを知らないんだ……。どう説明すればいいんだろう。えーと、アンヘルはアンヘルっていう種族なんだけど、姿はエルフや人間に似ててーー」


エルフがこの世界にはいるらしい。さすが異世界。


「背中に羽が生えてる姿はわりと知られてるみたい……。」


うーん、アンヘル、アンヘル、アンヘル……。

背中に羽が、と言われると天使が思い浮かぶ。


「サラムの背中に羽がないのはなんで?」


「ハーフだからだと思う、イムランダーの大人たちからはよく欠陥品だって言われたけど。」


サラムは目に涙を浮かべた。

すごい破壊力だ。

ただでさえサラムは儚げで可愛くて庇護欲を掻き立てるような外見をしている。

なにより、ほんの十数センチ前で自分より年下の子がしくしくと泣いていると、ごめんごめん、僕が悪いです、うぁぁなんとかしなきゃ、といたたまれない気持ちになった。

でも、僕にはすぐに、どうするべきかがわからなかった。


きっとサラムは悲しいんだ。

ハーフだっていうことで、今まで苦しい思いを何度もしてきたに違いない。

サラムが泣く姿を見れば、それぐらい簡単に想像ができる。

欠陥品なんていう、大人が許せない。


「泣かないで、サラム」


それぐらいしかいうことができない。

僕は、サラムの頭を撫でた。

誰かをこうして慰めるなんて、僕にとって初めての経験だったと思う。


「僕はそんなふうに思わないよ。人間か、アンヘルか、男か、女かなんて、どっちだっていいことだと思う。サラムはすごいよ、そういう大人が作った区別を乗り越えて、ここまで来たんだね。」


サラムは顔を上げ、何も言わずに僕を見た。


「サラムはサラムだよ。僕はサラムが同じ学園の同級生で同じ寮だったことが嬉しい。」


泣きごとを抑えるように口をつぐんでいたサラムの口が微かに開いた。


「ユウキくん、優しいねえぇ〜」


えーんえーん、とそのまま泣きじゃくった。

僕は、人間として生きた以上の苦労はしたことがない、遠くから一人旅をしたり、自分の種族や性別で困ったこともない。

どんな悩みか想像することしかできないけれど、でもそれを悩んだ分サラムは僕よりすごいと思う。


「明日から授業もあるし、もう寝よう」


撫でる以上慰める方法を知らない僕は、ひたすらサラムの頭を撫でた。

そのうちサラムは泣き止んで、僕らはそれぞれ大人しくベッドに入ってそのまますぐに寝た。


日付が変わるころ。

生徒手帳がブーン、と振動して、僕は少しだけ目が覚めた。

生徒手帳を確認してみる。


'新しい更新があります。'の文字。


寝ぼけていてほとんど無意識に文字をタップする、画面が切り替わる。


「友好度:アークスがアンロックされました。」


「友好度:ラギがアンロックされました。」


たぶん、このアンロックの知らせは僕が今まで無視していたものだと思う。

僕は、その次に表示された文字に、しばらく目が釘付けになった。


「友好度:サラム スチル1枚目が開放されました。 購買部にて販売中です。」


なんだ、これ。


続きがあるかもと思って、文字をタップした。

だが、文字は消えただけで、なんの反応もなかった。

今出ていた文字を思い出そう、もう一度意味を考えようとしているうちに、僕はまた眠ってしまった。



翌朝。


「おはよう。ユウキくん」


腫れぼったい目のサラムに起こされた。


「おはよう。」


着替えて、ダイニングに行くと、すでに朝ごはんが用意されていた。

朝ごはんは当番制で用意することになっている。今日は上級生の誰か番だった。


「来週は新入生が用意する日があるから、その日は忘れないようにな」


ラギ先輩が教えてくれた。この人は面倒見がいい人みたいだった。


「サラム、泣いたのか?」


ラギ先輩は小声で僕に問いかけてきた。僕は微かに頷いて返す。


「ホームシックになってんのかなぁ。励ましてやらないとな、まだ10歳だもんな。お前も頼んだぞ」


ラギ先輩はそう言って、僕の背を叩いた。



登校する、といっても僕らは実質校内にいるので、学内を寮から教室まで移動するだけのことだけど、僕とサラムは平穏に教室まで行くことができた。

第七期生の僕らは32人。

みんな同じクラスに集まる。

教室に入るとすでに、何人かは席に腰掛けていた。

僕はそこにスアリーの姿を見つける。

すぐに目があった。野良猫のような鋭い眼光。

ちょっと視線がずれて僕の後ろを見ている。そこにはサラムがいた。


もしかしてサラムに言うのかな……。僕に近づくな、とか……。


と、ドキドキしたが、すぐに彼女はサラムからも僕からも視線を逸らした。


もしかして、サラムは女子じゃないから、気にしないのかな。


少し安心して、そのまま席に着いた。

ハルもカーズも来ていない。まだ朝のホームルームまで時間がある。余裕を持って僕を起こしてくれたサラムに僕は感謝した。


教室は昨日と変わらず、前世の学校にそっくりで、やっぱり僕はまだ落ち着かなかった。

でも、サラムが列の前方に座っているのをみると、少し心強い気がした。


そうだ、ここは異世界だ。僕の新しい世界。


「ユウキくん。」


すごく近くから呼びかけられて、僕ははっとした。

すぐ前の席のスアリーが、僕を振り返って呼んでいた。

意思の強そうな瞳、少し冷たそうな無表情。

そういえば僕は初めてスアリーと話す。


「な、なにかな……、スアリーさん」


彼女は僕を真っ直ぐに見つめていた。

でも、なんだか僕自身の顔や眼を見ている感じがしない。僕なんかを突き抜けて遠くを見ているような気がする。

鋭い視線に違いないのに不思議と、怖くはなかった。


「サラムくんと友達になったんですか?」


なんでそんなことを聞くんだろう、とは思ったけれど、嫌な気持ちにはならなかった。


「そうだよ」


スアリーの口の端が微かに動く。

ちょっと微笑んだように見えた、でもすぐに元に戻る。


「そうですか。気をつけて下さい」


「え? 何を」


と、聞いたところでスアリーは僕から体の向きを変えて教室の前方を見てしまった。

気づくと、教室中の視線は僕らに集まっていた。


昨日の自己紹介があってから、すっかりスアリーは要注意人物に、僕は腫れ物になったみたいだった。

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