星4つです!
リビングのソファに座って前のめりに僕の生徒手帳を見ていた先輩たちが、ざわついていた。
「いや、これ、なんだ?」
「いやいや、さすがにこんなの見たことないぞ」
どうしたどうした、とみんなが集まった。
「ユウキ、これ。ユウキの生徒手帳だよな?」
ラギという名前の4年の先輩が僕の生徒手帳をかざして言った。
「そうです。」
「ユウキは昨日学園に来たんだよな? それより前に来たことなんてないよな? なんで友好度がこんなにアンロックされてるんだ?」
ラギ先輩は僕の生徒手帳の友好度のページを、ほかの先輩にも見せていた。
「よく分からないんですが、何か珍しいんですか?」
「珍しいっていうか……。」
会話がよく通じ合っていない僕らを見かねて、アークスという5年の先輩が自分の生徒手帳を僕に差し出した。
「僕の生徒手帳の友好度、見てみる?」
"アークス・カラディム友好度一覧"
パラ ★★★★☆
カイト ★☆☆☆☆
プーリア ☆☆☆☆☆
キュリム ★☆☆☆☆
ダイム ★★☆☆☆
??? ☆☆☆☆☆
シズマ ★☆☆☆☆
リュー ☆☆☆☆☆
「表示されてるこの辺りは同級生かな。5年間クラスメイトでも星の数はこんなものだよ、いまだに名前がアンロックされてない人もいる。」
「別にアークス先輩は人付き合いが悪い人じゃないぞ、真面目で勉強ばかりしてるから交友関係が狭いけど、他も大体こんなもんだ」
僕は自分の生徒手帳を渡してもらって、友好度を確認した。
"ユウキ・カトー 友好度一覧"
ハル ★★★★☆
カーズ ★★★★☆
アズリス ★☆☆☆☆
グウェンダリア ★☆☆☆☆
トーマス ★☆☆☆☆
ルーシー ★☆☆☆☆
レミー ★☆☆☆☆
ビビア ★☆☆☆☆
僕の友好度はクラスメイトの名前が表示されているのに加えて、全てに星が最低1つは溜まっていた。
たしかに、アークス先輩とは様子が違う。
「ねえ、ユウキくん、ぼくもみていい? ぼくの生徒手帳をみてもいいよ」
サラムと生徒手帳を交換してみた。
"サラム・カランドール友好度一覧"
??? ☆☆☆☆☆
??? ☆☆☆☆☆
ユウキ ★★☆☆☆
??? ☆☆☆☆☆
??? ☆☆☆☆☆
「あ」
僕の名前を見つけて、僕は動揺した。
いやいや、友好度だから。落ち着け、僕。
それに星はたった2つだ、2つがどれぐらいの意味を持つかは分からないけど。
「だいたいこんなもんだよな、初日なんて」
ラギ先輩はサラムの生徒手帳を覗き込んで言った。
それでも星2つは変だけどな、と呟く。
サラムの友好度として表示されている僕との友好度は星2つ、僕の側の表示も星2つだった。
つまり、お互いの有効度は同期しているから、サラムの生徒手帳にも突然の星2つが出ているということらしい。
「ユウキの友好度は異常だ。バグか?」
「バグは可能性としてないわけじゃないけれど……。」
先輩たちはごちゃごちゃと意見を言い出した。
「星をたくさん手に入れているやつはいないわけじゃないぞ、5年のアリーシャ先輩とか、6年のダニエル。」
「あ、あぁ、ダニエルか……。あのイケメン……。」
ダニエルの名前が出た途端、寮の先輩たちは憎しみをうちに秘めたような暗い雰囲気に包まれた。
「あいつ、この前、クルルまで手を出そうと」
よせ、と、ほかの先輩が止める。
「お前が嘆いたところでどうしようもないだろ……。相手は学園一の美男子だ、あとはクルルさんが選ぶことで……。」
まぁ、それはさておきだ。とラギ先輩が注目を集めるために僕の生徒手帳を取り上げて高くあげた。
「ユウキにはもう、星4つが2人もいる。」
何、と全員が僕を見た。
星4つは父さんと母さん、カーズとハルのことだ。
僕にはその2人との友好度が高いことに違和感がないけれど、先輩たちの反応からすると、何かあるんだろうか。
ちょっと見せろ、と先輩たちが僕の生徒手帳を覗き込む。
「ハルとカーズ、新入生か? 入学前から知り合いなのか?」
「まぁ、そうです」
親子と言うのは憚られたけれど、知り合いだと知られてもたぶん問題ないと思う。
ラギ先輩は真剣な目で僕を見つめると、意を決したように僕に尋ねた。
「お前、男も女もいけるのか?」
「は?」
何を聞かれているのか分からなかった。
「ハル、はたぶん女だとしてもだ。カーズは男の名前だろ」
「男ですよ」
父さんは男だ。男だから父さんなのだ。
「まじでか」
ラギ先輩はさっと、三歩は下がった。
ラギ先輩以外の先輩も少し僕から離れた。サラムだけは何も分からないと言う顔をしていた。
「ま、まぁ、よくわかってなさそうだから説明すると」
とアークス先輩が苦笑いで説明してくれた。
「星0は知り合いに毛が生えたぐらい、星1つは友人、星2つは親友、星3つは両思い、星4つは交際して更に関係が進んでるって感じの目安だって言われてる。実際、そうとも限らないと思うけれどね。学園内に友好度研究会があるぐらいこのシステムはまだはっきり解明されてない。」
へえ、そうなんだ……。
ん?
僕は星4つの意味を客観的に考えた。
つまり、僕がハルやカーズと付き合ってるっていう?
まさか。
「いや、いやいや」
僕は誤解した先輩たちに向けて、手を素早く振った。
「僕は別に誰とも付き合ってないです。それに、カーズともそんな」
そんな関係な訳ない。と言おうと思ったが、言うことすら嫌な気分になってやめた。
だいたい、え?
ふたりの男女と付き合ってるってどういう状況になるの?
理解不能だ。
「じゃあ、なんだ? やっぱりユウキの友好度はバグなのか?」
「そうかもしれません。あ、でも、そうだ」
僕は思い当たることが一つあって、それを言ってみることにした。