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第六男子寮

寮のリビングに入る。

先に中に入ったサラムが、何かに気付いて急に立ち止まった。

サラムの目の前には黒づくめの男がいた。


「動くな」


男は低い声で僕らに何か武器のようなものを差し向けていた。


「サラム・カランドール、ユウキ・カトー。こっちへ来い」


男は僕らをリビングのソファへ移動するよう指示する。


もしかして強盗だろうか……。


サラムは顔をすっぽり黒いゴミ袋で隠したそいつに怯えて、僕のそばに寄ってきた。

がさりと音がして周りを見ると、どうやらリビングには他にも仲間がいたようで、ゴミ袋をかぶった男が7.8人はいた。

僕らは大人しくソファに座る。


「お前たち、のこのことこの第六男子寮に入ってきたが、ここの寮生だろう。この寮にある金目のものがどこにあるか知っているな。」


サラムはゴミ袋に睨まれておののいた。


「いえ、知りません。僕らは昨日入寮したばかりですっ」


「なぜ入寮した日に確認しない!? 大事なものが他寮に盗られたらどうする!」


ひぇ、すいませぇん。とサラムは黒いゴミ袋をかぶった強盗風の男に叱られて、涙を浮かべていた。

なんだかかわいそうだった。


あ、ごめんごめん。とゴミ袋が謝る。


この時点で僕にはこの強盗を装った男たちの正体がわかっていたが、サラムは気付いていないようだった。

純粋で素朴な子なんだ、と僕の中でサラムの好感度が上がった。


「お前たち、この寮の大事なものは2ヶ所に保管だ。カーク先生の部屋のベッドの下か、階段下倉庫の隠し金庫、覚えておけ」


「は、はい」


サラムは 目をギュッとつぶって返事をしていた。

かわいいな。


「かわいいな」


ゴミ袋のうちの1人が僕の心の声と同じことを呟いた。


「な、なんで、強盗がもう知ってる金庫のことを僕らに確認するんですか?」


サラムは膝の真ん中で手を握り強盗風のゴミ袋に聞いた。


「ふふ、それはだな」


7.8人のゴミ袋は僕らの前に集まってきた。


「俺たちは強盗じゃなくて、お前らの先輩でこれは入寮の儀式だからだ」


ゴミ袋たちはかぶった袋を取らないまま、こそこそ笑った。


「第六男子寮は新しい寮生に儀式を課す」


2人のゴミ袋が僕らにずいと近づいた。


「さあ、出せ」


物を要求する様に手を出してきた。

もしかして、私物や金目の物を没収されるんだろうか、と僕は血の気がひきそうになった。


「ごめんなさい……、僕、お金は持ってないんです……。」


多分まだ強盗と誤解したままのサラムは怯えながらそういった。

僕は強盗よりも同じ寮の先輩たちからカツアゲされることの方を恐ろしく感じた。


「残念ながら金じゃない、あれを出したまえ」


「あれ?」


「生徒手帳だっ」


ゴミ袋の向こうで期待に輝く目が見えた。

生徒手帳なんかがどうして欲しいんだろう。

とりあえず、僕は生徒手帳を胸ポケットから出して目の前のゴミ袋をかぶった先輩に差し出した。

僕を見てサラムも同様にする。


「よぉーし、新入生の生徒手帳だぞ!」


同寮の先輩たちは、僕らの生徒手帳を掲げて、おぉぉ、と騒いだ。

これが入寮の儀式らしい。


「さぁ歓迎会を始めるぞ! 飯をもってこーい」


「おーう」


1番年長の先輩が声をかけて、食料がリビングに持ち寄られると、そのまま歓迎会が始まった。

僕とサラムはよく分からない儀式に引き続いて突然始まった歓迎会に、全くついていくことが出来なかった。

そんな様子を見て、1人の先輩がゴミ袋を脱ぎながら、僕らに話しかけてきた。


「ようこそ、第六男子寮へ、サラムくん、ユウキくん。ドン引きする気持ちはわかるがこれがうちの寮の比較的新しい伝統なんだ。これから君らの生徒手帳を肴に、いや話の種にして、親睦を深める歓迎会をする。儀式はもうないから、テーブルにある好きな食事を食べてリラックスして」


個人情報を肴にって、それってプライベートの侵害になるんじゃないか、と思ったが黙っておいた。

考えてみれば僕は今、この姿になって2日目だし、プライベートと言えるほど育んだ個人情報もない。


「ああ、そうだ。もちろん僕らのも見ていいから」


そう言って、先輩たちは自分の生徒手帳を机に放り出し始めた。


「はぁ……。」


そんなものなんだろうか。

生徒手帳にはたしか、例えば友好度とか、他にも個人的な情報がたくさん入っていたはずだ。


「ユウキくん。これって隠し事せずに仲良くしようって意味かな? そうだとしたら、ここの先輩たち素敵な人たちだね」


サラムはこれが第六男子寮の変わった歓迎の仕方だと理解したのか、ほっとした様子を見せ、この歓迎会の遠慮のない雰囲気を喜んでいるようだった。

でも僕は、まだ、サラムほど無邪気になんてなれない自分に気付かされて、もやもやしていた。

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