96 サークライからの依頼
【転移門】の謎を解いて自在に使えるようにしたのはサークライと親父の師匠と呼ばれた謎の人物だ。その人の構築した理論から俺や親父が使っている魔導具である転移銃が魔導王サークライによって作られた。そういう意味ではサークライは天才魔導師だ。
ある日、魔人国にいる俺の元にサークライから連絡が入った。サークライにも連絡用スマホを渡してあるのだ。
「ユートくんに話があるから僕の所に来てよ」
「いやです」
「いや、いやですじゃないよね?魔王都でのモンマ家の生活費国で補填してるんだよ?仕事をして貰いたいのだけど」
ううむ家族の生活費を人質に取られてしまった。大人は卑怯だ。
仕方がないので転移銃で門を作って魔王都庁に向かう。お土産はカナコたちが狩った鳥巨大魔獣の肉だ。…大丈夫だよな?食えるよな?
転移門を潜ると後ろから声がする。
「どこへ行くのじゃー?」
自由に転移門を潜れる世界樹ちゃんが一緒に着いて来た。なんだかんだとずっと俺たち一家と一緒にいる。エルフの森の世界樹ババアの所に戻る様子がない。仕方ないなーウフフ。
サークライが迎えに出て来る。
「どうしたんだいそのお嬢さんは?」
「気にしないで妹みたいなものだから。あ、何かおやつあったら出してあげて」
サークライは怪訝な顔で部下に命じておやつと飲み物を用意する。卵いっぱいのスフレと最近この国にも広まって来たコーラっぽい何かだ。カラメルソースを炭酸水で割った飲み物なので正確には向こうで飲めるコーラとは違う。お洒落なものを作る職人がこの街にもいるんだな。美味そうに世界樹ちゃんが頬張る。うん、可愛い。
「で?お話の内容は?」
「君が最近北半球の大陸に足を伸ばしたと聞いてね。我々魔大陸の者より向こうの事情に詳しいんだろ?」
「?俺より先に【転移門】を自在に操る力を持ったサークライがポッと出の俺に何を聞くんです?行った事くらいあるでしょう?」
「僕はマサオと違って【転移門】で好きな所に移動する暇がなかったんだよ。ずっとこの国の執務を引き受けていたからね一人で‼︎」
ごめんねあんな自由な親父で。そうだねサークライが悪い人だったらこの国はあっという間に崩壊していただろうなぁ。たまにはサークライのお願いも聞いてあげないといけないよね…
「僕とマサオに師匠がいた事は知っているだろう?昔、と言っても十数年ほど前彼女がここを旅立った時北の大陸に行くと言い残して行ったんだよ」
彼女?お師匠様は女性だったのか。
「北の大陸に詳しい君にお願いがある。師匠の足取りを追ってほしい。…例えもう死んでいてもその道行きを知りたいんだ。何かの次いでに気に留めておいてくれればいいよ」
相当なお年だったのかな。もう亡くなっているかもしれないんだ。ロマンチックな事を言うんだなサークライも。
「わかりました。お師匠様はどういうお方なんですか?特長を教えて下さい」
「僕と同じ悪魔族の女性さ。髪は銀色でね…」
ん⁉︎ 今何て言った? 僕と同じ悪魔族⁉︎
サークライって悪魔族だったの⁉︎
「あー…うん、言い方が不味かったかな?僕と師匠はね、【転移門】事故に巻き込まれてこの世界に飛ばされて来た【異邦人】なんだよ」
広い意味で言うと世界樹も親父も俺も【転移門】を潜って来た者はみんな【悪魔】だ。ただサークライが言うには…
「僕と師匠は同じ世界から飛ばされた同じ種族って事さ。元々魔力に秀でて探究心の強い種族だった。そんな人種がさらに【転移門】を通って莫大な魔力を手にしてしまったんだ。大賢者とか魔導王とか呼ばれるわけだよね」
この人探しは仕事と言うよりお願いかな、と照れたように言う。まあプライベートなお願いというわけか。
「師匠の名前はトリーン。銀色の髪にモノクルがチャームポイントの見た目幼女の実年齢3000歳のお茶目な子だ」
「おお、トリーンか。会った事あるのじゃー。しばらく一緒に遊んでくれたのじゃー」
マジか世界樹ちゃん⁉︎
「うん、ユートと同じ様にいきなりわらわの中に入って来おっての、わらわの弱っていた本体を癒してくれたのじゃ。樹のお医者さんと言うところじゃの。ただダークエルフの村とは交流は持たなかったようじゃからの、人々の集まる土地で行先を聞いてもわからないかも知れんぞ。人と関わりを持つのを避けてたみたいじゃからの」
うーむ村々を訪ねて探しても無駄だという事か。これは難しい案件かも知れませんぜサークライ殿。
サークライを見ると肩がぷるぷる震えている。何だと思うとすっごい嬉しそうな顔で呟く。
「師匠…相変わらずですね。…コミ症…可愛すぎる」
うふ、うふふ。と。気持ち悪いぞサークライ。わかったよ。すぐにとは約束出来ないけど親父と相談しながら探す事にするよ。それでいいかな?
「うん、ぜひお願いするよ。僕もそろそろ幸せになりたいからね」
? どういう事だ?
トンボ返りで魔人国に戻って親父からトリーンさんの情報収集をする。
「…トリーン師匠か。俺も捜索を頼まれたがまったく手掛かりなどなかったぞ。とにかく師匠は人里に滅多に姿を現わさん。10年この大陸にいて会えないんだ…もう死んでてもおかしくないと思ってた」
「世界樹ちゃん、そのトリーンさんがやって来たのはいつの事かな?」
「わからんのうー。ずーっとずーっと前じゃ」
時間の感覚が人間と違う世界樹ちゃんのずーっとずーっと前って…もしかして親父達が最後に会った時より相当前の可能性があるよな。こりゃアテになりそうもないぞ。
そうなるとこの大陸をシラミ潰しに捜索するしかないのか?途方も無い手間だぞ。本当に心に留めておくくらいのつもりでいた方がいいな。もう少し妹たちとの時間を楽しんでからまた探索に出よう。
「兄ちゃん、兄ちゃんも一緒に行こうよ。カトレアさんたちと魔人国の街でお買い物するんだ。向こうへのお土産探すのー」
屋敷の中ではレンたち女子組が街に出かける準備をしていた。カトレアさんもお供してくれると言うので屋敷から竜車が出るらしい。小さい組も行くのか。護衛が必要だな、俺も行こう。
「護衛?心配いらないよーお母様お強いからー」
ミーユの口から意外な言葉が出た。慌ててミーユの口を塞ぐカトレアさん。いや、まさか…
親父の方を見ると親指をサムズアップして来た。嘘では無いらしい。親父の話によると…
カトレアさんは元々魔人国防衛隊の隊員だったそうだ。そこで前の旦那さんと知り合って結婚したと言う。おっとりして見えるのに意外な職歴。
とにかく護衛のつもりで付いて行くよ。親父は?まあ行かないよな。寝て過ごしますかそうですか。
じゃあみんなで街に繰り出そう!




