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63 後始末と心の平安

 瓦礫の荒れ野になったマイネークの都だが怪我人はいるものの死亡者は『異界の魔導師』に巻き込まれた東国兵と首脳陣のみで市民には死亡者は出なかった。

 しかし話を聞こうにも首脳陣が焼き殺されてしまったので窓口がない。連れて来た捕虜達も最初の砦で解放しているのでくたびれ儲けだが仕事はあらかた終わったとダークエルフ達に告げる。後の交渉は改めてこの国の代表とダークエルフ達が結べばよいのだ。丸投げじゃないよ?うん。


 俺は俺の仕事をする。転移銃を取り出してレーダーを起動する。街の外れの湖の真ん中の島に反応がある。その島まで飛んで行く。島には宮殿ぽい建物があり、中には儀式めいた魔法陣と起動ステージが存在していた。

 本当ならこれを再起動させて魔導師を向こうの世界に戻すつもりだったのだ。ブラックホールに飲まれたのだ、生きてはいないだろう。


 俺は初めて人を殺した。殺してしまったのだ。


 そういう力を持っている事も自覚してたし冒険者をやって生き物の命を奪い続ける以上いつかはある事だと思っていた。だがショックと言えばショックだった。

 動揺を隠す様に一人でここに来た。【ボックス】からオリハルコンハンマーを取り出して転移魔法陣を砕いていく。跡形も無く。我を忘れるが如く機械のように気がついた時には宮殿ぽい建物自体もハンマーで粉々に砕いていた。


 街中に戻ると何が起こったか正確に把握してないはずのダークエルフニンジャ達が色々対応を始めてくれた。カイリ嬢が組み上げた土のゴーレムが瓦礫を片付けていた。街の代表を見つけて来て自分たちがここまで来た理由を述べて改めてこの国が落ち着いてから再び交渉にやって来る旨を伝えた。


「帰りましょう、ユート」

「うん」


 俺は静かに頷いてダークエルフ達と帰路に付いた。





 ダークエルフの村に着いて村を見渡すと火に炙られた家々はすでに補修され生活も元通りに見えた。


 頭領は不安そうな表情だったがカイリ嬢たちの顔を見てホッとしていた。俺達がマイネークであった出来事を伝えるとまた微妙な表情になった。


「この村が襲われる事は無くなったろうが…また厄介な事になりおったのう。南国連合が黙っておらぬだろう。今までの暴虐もあるとなると無事では済まん。犬人コボルトは単純で怒りに流されやすい」

「頭領、俺達が南国連合に戻って監視をして来るよ。動きがあったら知らせる」


 ダークエルフのボディガード三人組はそう言って休む間もなく南国へと発った。彼らは実に働き者だ。カイリ嬢は、というと


「じゃあ魔法の特訓再開ねユート‼︎ お願いするわ」


 こちらも巫女になるまでやる気満々である。元気がないのは俺だけだ。


 俺はしばらくの間流されるようにカイリ嬢に魔法の特訓をしながら過ごした。たまにゆったりと復興したサイラックの村を見て周り子供達と一緒にラプトルみたいな家畜竜を追っかけて過ごした。そして村の子供達を見てると無性に妹達に逢いたくなって来た。


「一度家に帰ろうと思う」


 カイリ嬢は仕方ありませんね、と頷き頭領や村の人達はこれから交渉など難しい事が待っているのに関わらずまたおいでと笑って送り出してくれた。


 俺は砂漠を出て魔人国に向かう。魔大陸に戻る前に魔人国の宰相に報告が必要だろう。何しろ同じ大陸の出来事だ。彼らが国外に進出するかは今後の瘴気ドロップの展開次第だが外の脅威は把握して置くべきだし。

 

 魔人国は留守中巨大魔獣の出現もなく平和だったようだ。宰相ムラサメが報告を聞く。


「大陸の東に獣人が住まう地域がある事はマサオからも以前報告を受けた事がある。東と南で戦争をしていたとは知らなかったがな。しかし彼らが砂漠を渡る事はなかろう。巨大魔獣の発生源として忌避されているとマサオに聞いた」


 こちらで発生して退治しきれない逃してしまった巨大魔獣はそのまま大陸を西から東へ渡るらしい。魔人国内の研究では転移門を潜ってまた違う世界に消えて行くのでは、と言われている。


「どうやらだいぶ疲れている様子、屋敷に戻ってしばらく休むといい。マサオの母国から何人かご家族が来ていると聞くぞ」


 魔大陸から帰って来たカトレアさん達にくっついて何人かこちらにやって来たようだ。逢いたいな。猛烈に家族に逢いたくなってしまった。屋敷に行ってみよう。


 魔人国首都近郊の屋敷街の外れにある一際大きな魔人国認定『勇者』マサオの屋敷。

 帰ってみると庭には『アフロディア』が駐機しており、屋敷の中にはカトレアさんとミーユ、カナコにマリージュ、シトリージュさんにリィカにレン、ついでに親父もいた。


「お帰りなさい」


 カトレアさん始め屋敷の使用人達が労わってくれる。


「おーご苦労」

「あー兄ちゃんなんか作ってー」

「兄さんなんか楽しい事あったー?」


 親父やリィカ達はいつも通りである。すると中から幼女がテトテトとやって来て俺にすがりついた。


「お主ーどこへ行ってたのじゃー寂しかったのじゃー」

 

 なんと世界樹ちゃんだ。ババアの所に帰らずにずっとリィカ達と一緒にいたらしい。俺はたまらなくなって世界樹ちゃんの頭をグリグリ撫でた。


「ごめんよ一人にして。俺も寂しかったよ」


 世界樹ちゃんの姿を見て目頭が熱くなって来る。それを見ていたリィカやマリージュまで調子に乗ってしがみついて来る。


「妾だって寂しかったぞー最近かまってくれないのじゃー」


 リィカはそう言いながら俺のオッパイにしがみ付き揉みしだく。そういや『のじゃー喋り』が二人に増えたのか。厄介だな。


「あたしも久しぶりのお兄様なのにー」


 マリージュもお尻に頰をスリスリしてくる。


遠目にミーユが俺を見てるが抱きついていいのか戸惑っているようだ。


「ミーユ、おいで」


 声を掛けるとと嬉しそうに抱きついて来た。


「お帰りなさいお兄様‼︎」

「ただいま‼︎」


 妹達を抱きしめて俺はもう涙が止まらなくなっていた。

 カナコが一人ゆっくりやって来てこう言う。


「ほらほらみんな、お兄ちゃんはお疲れみたいだから我がまま言っちゃダメよ。休ませてあげて」


 ぶーぶー言いながら俺の手を引っ張って屋敷へ誘うリィカ達。


 屋敷の中には親父がいた。


「まあ風呂入って休め。後で報告を聞く」


 自分の装備の手入れをしながら俺の泣き崩れた顔をチラ見してすぐ知らぬ顔をした。

 風呂か。何週間ぶりだろう。東国連邦への旅路では全く無縁だったからなぁ。俺は念入りに身体を洗い湯船に浸かった。生きてる、と思ったらまた泣けて来た。

 人を殺したショックより死ななくてよかった、生きててよかったという浅ましい安堵の涙だった。


 身体を拭いてそのままベッドに倒れ込む。微動だにせずその姿勢で眠りについたのだった。



 疲れていたのか目覚めたのは翌日の午後だった。

庭では子供達が駆け回って遊んでいた。缶蹴りのような遊びらしい。世界樹ちゃんが鬼になって缶を蹴られて地団駄を踏んでいた。うん可愛い。


 親父は俺が起きるのを朝から待ってたらしく早朝起こそうとしたらしいがカトレアさんに止められたそうだ。俺に愚痴るなよ。


 親父に砂漠の国の顛末を話す。『異界の魔導師』の事もだ。親父は黙って聞いていた。

 幾多の犬人の生命をゴミのように扱っていた『異界の魔導師』をそのまま元の世界に帰そうとしていた事も話した。実はそれが一番引っかかっていたからだ。彼にまともな神経があるならたとえ魔法が使える身になっても元の世界に戻れば世界の秩序に従う、だろうと勝手に考えていた。

 親父はその点を指摘して来た。

 結果的には生命を奪って正解だったと。キッパリ言った。

 よくやったと俺を褒めた。

 都市を崩壊させ幾人もの東国首脳陣も巻き添えにし『異界の魔導師』を殺した俺を。

 

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