90 東国連邦に潜入
「気になるならお前が調べて来い」
親父はそう言うとまた母親ズに手を引かれサンドバッグとなりに向かった。
じゃあ砂漠に向かうか。そうだ世界樹ちゃん、俺がいなくても夕ご飯食べたらちゃんとエルフの里に戻るんだぞ。ババアに心配かけるなよ!聞いてないような顔しない!いいね⁉︎
かなり心配だが俺は再び転移銃で砂漠のダークエルフの村に飛ぶ。
東国軍に襲われて1日経ってないはずだが村人の様子は…やはり再強襲を恐れて緊迫感が凄かった。
「おお、白いエルフよ」
俺を見つけた頭領が話しかけて来た。東国軍との捕虜交換交渉は始まったかな?
話を聞くと交渉には全く応じようとしないらしい。何年か前から貿易交渉や傭兵契約なども全く応じてくれず仕方なく南国連合べったりの今の状況になったとの事。戦略も力づくの攻撃一手になっていて正直訳がわからないという。
こりゃ東国連邦に行かないとわからないかな?捉えている指揮官を連れて俺とダークエルフ何人かで東国連邦に向かう事にする。砂漠を渡るのには竜車のキャラバンを組まないといけないそうだ。竜車のキャラバンで一週間ほどかかるらしい。それを聞いて東国連邦の捕虜は鼻で笑った。
「俺達には砂漠戦艦があるから今じゃ三日とかからないぜ」
ほう。やはり重装兵といい火炎放射器隊といい何か急激な兵装変化があったようだ。自ら自白してくれるとは。砂漠戦艦か。見るのが楽しみだな。
そうしてると頭領から相談がある、と言われた。四つの属性魔法を使えるエルフがいないと言うのだ。特に風魔法と水魔法は使った事がない、との事。エルフが親和性の高い風魔法を使った事がないなんてどういう生き方をして来たんだ?水魔法はオアシスが近場にあるせいで水には不便をしなかった為使わずに済んだそうだ。傭兵、という歴史から火魔法と土魔法は知らずに傭兵スキルとして使っているという。バトル脳筋…。
取り敢えず一番魔法の上手い女子をピックアップして貰った。俺が牢屋に閉じ込められた時にいた20代の女エルフだ。
「カイリといいます」
「俺…あたしはユート。よろしくね」
カイリ嬢に得意な魔法を使って貰う。小さい炎を作って飛ばす魔法と砂漠の砂を固めて移動しやすくする魔法を披露してくれた。そこでアドバイスをする。それぞれの属性魔法を使う時は精霊に感謝をしながら使うと親和性が上がる、とか風はバリアや暑い時の空調など使い所が多いので意識して使うといい、とか炎を高温にする方法とか雨を降らす為に雲を自在に操作する方法とか細かい技術をひとつひとつ教える。雲を操作する魔法は雷を操るのに大事なプロセスだし炎の種類を知る事も太陽の力に近づく為に必要だ。
驚いた事にこのカイリ嬢、回復魔法も少々使えるという。回復魔法は月の魔法だ。親和性を上げると月の精霊とも知り合える。精進次第ではエンシェントエルフへの道も開けるという訳だ。なんて有望な素材か。
護送にもついてきて貰って移動の間特訓して行こう。
その旨を頭領に伝えると頭領も護送隊に入るという。俺の使う魔法をもっと間近で見たいらしい。この世界の魔法はイメージだ。目で見て理解した現象なら再現可能な訳だ。あと、実力のある出稼ぎに出ているエルフを何人か呼び戻している最中なので戻って来次第移動する事に決めた。
二日後出稼ぎの傭兵エルフが戻って来て東国連邦へ行くメンツを選定した。傭兵エルフのエースチームが付いて来てくれる事になった。てか俺とカイリ嬢が行くと聞いて俺が行く俺が行くと希望者が後を立たなかったので頭領の息子のチームが付くことになったのだ。
「美女のエスコートが出来るなんて俺達ぁついてるぜ‼︎なあ野郎共‼︎」
「調子に乗ってんじゃないよタカマル‼︎白いエルフ初めて見たんで舞い上がってるだろ⁉︎怖いんだぞユート嬢は‼︎」
俺の魔法特訓を数日受けたカイリ嬢はちょっと俺が怖いらしい。まあすぐにボロが出るかも知れないが男性には優しく接しておこう。
では出発だ。
砂漠の竜車は砂に慣れてるのか足が速い。タカマルの班の魔法使いとカイリ嬢が砂地を土魔法で固めながら進んでいるので一週間かかる道のりを三日で駆け抜けた。食事は彼らから貰ったニンジャメシが主だった。俺だけ【ボックス】からストックした食料を食うのはやめた。護送中の捕虜もいるのだ。全員にストックから配るのは無理だろう。そこまでする義理もないし。
ニンジャメシは冒険者の保存食的なアレで当然味は捨てている。小麦粉団子に乾燥させた果物というアレだ。たまに砂漠を行き交う魔獣を見つけるとみんな大喜びで狩り立てた。貴重な肉だからだ。
砂漠地帯は魔人国と様相が違い魔大陸と同じ様に魔獣が闊歩していた。
水は魔法で出せるカイリ嬢は氷は作れなかったが水魔法と火魔法の混合で氷が作れる事を教えるとバンバン冷たい飲み物を量産してみんなに喜ばれた。火魔法は物体の熱量を操作出来る魔法なので使い方を覚えれば風魔法と混合で冷房にも使える。調子に乗って魔力を使いすぎて倒れたりしたカイリ嬢だった。
こうして砂漠を超えてその先の岩山の肌にそびえる馬鹿でかい砦が見えて来た。
「あそこが東国連邦の入り口です」
「さて、交渉に全く応じない彼らです。首都まで通してくれるとお思いか?」
「まあ最悪捕虜はこの場に放逐、皆は直ちに諜報活動に移行しこの国の情報を集める、という事で」
村の被害補償を交渉する予定だったが首都まで辿り着きそうもない。
ダークエルフのみんなはそれぞれ散る事を想定しているが俺は一言。
「あの砦を落としましょう。いや、自分が落として来ます」
「「「「へっ⁉︎」」」」
面倒臭い事は嫌なのでまかり通らせていただく事にする。所詮この大陸にとって自分はお客さんだ。天災だと思って諦めて頂こう。
他の地域に戦争を吹っかけた報いを受けて貰おうではないか。
みんなには後方で隠れていてもらって自分ひとりで砦の前に立つ。
「わたしはサイラックからやって来た使者。サイラックを焼き払おうと計画したものを出せ‼︎でないとこの砦を壊滅させる‼︎」
何を馬鹿な事を、と言った感じで犬の顔の衛兵が何人か矢をつがいて来た。矢は俺の目の前で風の壁で粉砕される。目を剥く犬人達。巨大な門を前に俺は土魔法で巨大なアイアンゴーレムを錬成する。基本は土で作るゴーレムに鉄や合金を混ぜたやつだ。逃げ惑い火矢や火炎放射器でアイアンゴーレムを防ごうとするが中にアダマンタイトも混ぜて錬成しているのでそんな炎じゃ溶けやしない。さあ殴れ‼︎殴れ‼︎殴れ‼︎
アイアンゴーレムは力業で砦の門を粉砕した。すると中の広場に馬鹿でかいカーゴのような戦車があった。トロイの木馬の足がないような形で足が無限軌道になっている。これが砂漠戦艦か。
「壊せ‼︎ジャイアン◯ロボ‼︎ 」
と調子に乗ってアイアンゴーレムに指令を出す。足回りは装甲があるがカーゴ自体は木製のフレームにテントを張ったような生地で覆ってあるだけなので簡単に潰れた。中から重装兵がゾロゾロ転がるように溢れ出す。
俺はそのまま司令塔を制圧に向かう。交渉できる人員が欲しいのだ。狭い司令塔の指令室で炎の魔法を飛ばしながら抵抗を見せる兵士達。本当こいつら火の魔法好きだな。風と水と火の混合魔法でブリザードを起こす。室内が雪と氷で凍りつく。
凍り付いた兵士の中から一番偉そうな士官の氷を溶かして前に引っ張って来る。
「サイラックを襲った事に対する賠償を求めに来た。交渉が出来る立場の偉い奴と連絡を取れ。舐めたマネするとアイアンゴーレムで首都に乗り込むぞ」
事が終わり後方から砦に駆けつけたカイリ嬢達ダークエルフの一同は白いエルフ、恐ろしいと口々に呟くのだった。




